再登城と勲章とパーティー
朝食後、国王陛下と約束した料理を持参して騎士塔を出発した。
料理といっても、持参しやすいサンドウィッチ6種だが。
今回飛竜の肉の調理方法の提案として、
唐揚げも保温魔法をかけてもらい持参した。
「その装いいいね。サトミさんの清楚な雰囲気にあってる」
「ありがとう。グレンさんも正装なんですね。格好いいです」
「ああ、さすがに国王陛下から、正式に褒章と勲章を授与されるからね」
「それ終わったら、帰れるんですか?」
「いや…多分、慰労懇親パーティーみたいなのするんじゃないかな…」
「えっ⁉︎」
「ははははっ。嫌そうなだな。立食あるから楽しんだらどうだ?」
「そんな所で食べたって…美味しくないし…疲れるだけです…」
「他の貴族がサトミさんと、懇意になりたがっているみたいなんだ。
王族や北の辺境騎士団ばかり、君を独占してるのが気に入らないんだろう。
一応他の貴族にも紹介しますよっていう、建前のガス抜きだろうね」
「……はぁ~~~駆け引きが、面倒くさいんですね…緊張で吐きそうです」
「大丈夫。ずっと騎士団員の誰かが、サトミさんの護衛で付き従うから、
心配しなくていい」
そういうと、彼女はホッとしたように微笑んだ。
打算のない心からの微笑み。
元の世界に帰れないと聞いた彼女は、作り笑顔をしながら涙を流した。
あの表情は、堪らなく胸が苦しかった。これは同情心だろうか…
あんな風に、自分の感情を必死に抑えて、我慢して泣く人を初めて見た。
突然、何もかも価値観が違う世界に独りぼっちで放り出され、
さぞ心細くて怖かっただろう。
あの後、一度も涙を見せず泣きごとも言わず、
この世界に前向きに馴染もうと、頑張る彼女を見ている内に
違う感情が芽生え始めていた。
心から守りたい、力になりたい、幸せそうな彼女の笑顔が見たいと。
そして、他の騎士団員と仲良く話していると、妙にイラだった。
この感情の正体は分からなかったが、彼女の笑顔をみるとどうでもよくなる。
「北の辺境区、騎士団所属、サトミ・ヒリュウ殿」
うわ、こんな凄い注目の的の中で呼ばれましたよ。
グレンさんが先に授与されてたから、やり方は覚えたけど…
緊張するぅ~…
5歩前に進み、国王陛下に礼をして膝をつき跪く。
「貴殿は、飛竜討伐、騎士塔の改善に務め、臣下として数々の功績を上げた。
さらに、神聖力の保有者として、まごうとなき証の「聖女」の称号、
勲章をここに叙勲する」
「ありがとう、ございます」
サトミさんはガチガチに緊張していたが、
功績を褒め称えられ、無事に「聖女」の称号を与えられた。
正式な場で付ける、虹色の宝石で作られた百合の花の紋章と王家の色
ロイヤルブルーのリボンをあしらった「聖女」の証の勲章も授与された。
その瞬間その場にいた皆が、特に高位貴族が色めき立っていた。
間違いなく彼女の価値は今、国宝になったのだ。
懇親パーティーでは、今まで以上に注意が必要だろう。
「聖女サトミ殿、ぜひうちの息子を紹介させてください」
「素晴らしい!神聖力保有者など、これでこの国は安泰です!」
「聖女サトミ殿!我が娘とぜひ友人に!」
「うちのお茶会にぜひ来ていただきたいのです!
招待状を送ってもよろしいですか?」
「王子とはお会いになりましたか?
何、心配ありません。3人ともに、とても素晴らしいお人柄で…」
「聖女様とても可愛らしいですね!ぜひお知り合いに…」
まずい、サトミさんの目が死に始めている。
懇親パーティーで、次から次へと彼女に挨拶にくる貴族共を追い払って、
疲れている彼女をバルコニーに避難させた。
特に宰相は、熱心に王子との面会を進めてきた。
国王陛下だけではなく、王族に縁付けて取り込もうとする者は他にもいる。
貴族は、自分の令息と令嬢を親しくさせようと紹介しまくり、
社交辞令で微笑んでいたサトミさんの瞳から、光が失われ始めていた所に、
強引に彼女を連れ出してきた。
「あ~…やっと抜け出せた。ありがとう、グレンさん」
「いや、大丈夫か?疲れただろ?」
「はい。疲れましたぁ…
みんな同じ顔に見えて、名前全然覚えられませんでした。
張り付いた笑顔で、目が笑って無くて怖かったです」
「はははっ、その通りだよ」
「やっぱり私はこういう世界向いてないです。魂抜けそうです…」
「そうだな。立場上出なくてはいけないが、
君には色々負担をかけているね。すまない…」
「謝らないでください。グレンさんのせいではないです。
それに私は、充分助けて貰ってます」
バルコニーにいる彼女は顔を上げ、見事な王宮の庭を見ながら、ため息を吐く。
黒髪が風に靡きサラサラ揺れて、白い頬を撫でている。
サトミさんの黒い髪と瞳は、月明かりで輝く美しい夜を纏っていた。
黒い瞳は、どこまでも純粋で透明に澄んでいる。
人となりは瞳に出る。
俺は、今までこんなに綺麗な瞳の人を見たことがなかった。
「粋なりこんな知らない世界に来て、理不尽な境遇なのに…
不安や不満もあるだろう?
でも、君は悲観せず、いつも笑顔を絶やさず一生懸命馴染もうとしている。
俺は、そんな君を見て勇気を貰っているんだ。
あの料理もしかり、飛竜討伐でも君のお陰で怪我人も出なかった」
「私も、命がけで魔獣を討伐してる騎士団員の皆さんから勇気を貰ってます。
だから少しでも役に立ってるなら、良かったです。
それに、この世界で初めに出会ったのがグレンさん達で、
本当に運が良かったって思ってます。前向きに頑張れるのは皆のお陰です」
「サトミさんは謙虚だな。だからその魔力を授かったのだろう。
君は本当に…綺麗だ…」
「……え?…あ………ありがとう…ございます…」
胸の鼓動が大きく動いた。
あれ?何か…
この雰囲気…
あの綺麗なアイスシルバーの瞳が、優しく微笑んでこっちを見ている。
彼の髪はショートヘアの少し長めで、いつも前髪が乱れてるから、
よく見えなかったけど、今日は片側だけ後ろになでつけている藍色の髪は、
長い睫毛と綺麗な瞳がよく見える。
彼は唇の形も綺麗で、笑うと弧を描く。
いい顔してるんだよなぁ…綺麗なのに男らしくて…
彼の顔に見ほれていると、不意に邪魔者が入った。
「ここにいらしたんですね、お二人とも」
振り向くとステラ師団長が立っていた。
彼も正装でキチンとしていた。相変わらず中世的な銀髪に赤紫の瞳。
「国王陛下が別室でお待ちです。ご案内します」
「え?…」
「魔力分析の詳細だろう」
「ええ、その通りです。グレン団長殿。
すでに聖女の称号を得られましたが、他にも気になる事がありまして。
来賓の方々には、挨拶は一通り済まされたでしょう?」
パーティーを抜けられるのはいいが、また陛下との謁見。
決して毛嫌いしている訳ではないが、一国の王様はやっぱり緊張する。
本当に王宮に来ると、気が抜けない。




