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ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~  作者: 弥生紗和
第3章 受付嬢エルナの勇気

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第93話 ギルドの役目

 翌日の朝、急遽ギルド職員全員が集められた。私は夜から働く予定だけど、今日は早朝からギルドに出勤。少し眠いけど、それどころじゃない。


 ギルドに着くと、既に多くの職員が集まっていた。集合場所はギルドの中庭だ。広い中庭が職員でぎっしりと埋まる。


「あ、こっちこっち!」


 リリアが私を見て手を上げ、私は彼女の元へ駆け寄った。既にフローレも来ていて、リリアが彼女と話をしていたようだった。


「おはようございます、エルナさん!」

「おはようございます。昨日夜遅かったのに、朝早くから大変でしょ」

「平気です!」


 フローレは元気いっぱいで胸を張る。


「フローレって、今どこから通ってるんでしたっけ?」

「ハイ、広場近くのアパートです! もともとそこで一人暮らしする予定で、ギルドに部屋を用意していただいてたので!」

「じゃあ、もうアメリアさんの家は出たんですね?」

「ハイ! いつまでも支団長のお宅にお世話になるわけにはいきませんから!」


 私とフローレが話していると、リリアが話に入ってきた。


「懐かしい! あのアパート、私が新人だったころに住んでたところよ」

「そういえばそうね。私も何度か遊びに行ったよね」

「古いし狭いし、日当たりも悪いし……フローレ、早くお金を貯めてもっといい家に引っ越した方がいいわよ」

「私、あの部屋とっても気に入りましたよ! ギルドまで近いから、ギリギリまで寝ていられるんです! 前のギルドは家が遠かったので」

「それならいいけど、あんなに狭いと彼氏も呼べないじゃない?」

「呼ぶ予定もないので、平気です!」


 ニコニコしながら答えるフローレに、リリアは「ならいいけど」と苦笑いした。




 話をしていたその時、突然周囲がざわつき、視線をそちらに向けるとアメリアさんがやってくるのが見えた。全員が一斉に前を向き、姿勢を正す。アメリアさんは貴族だけど、自分のことを名前で呼べと言い、普段もとても気さくな人だ。でもこういうときはやはり、みんな彼女に対して敬意を払う。


「みんな、朝早くから集まってくれてありがとう。今、アルーナ山でドラゴンが目覚めようとしていることは知っているわね?」


 アメリアさんはよく通る声で私たちを見渡しながら話し始めた。


「昨日、監視班が戻り、報告を受けました。結論から言って、ドラゴンが目覚めることはほぼ間違いないと考えているわ」


 その瞬間、周囲がざわついた。あちこちからひそひそと「やはりか……」「本当に?」などと話す声がする。


「よって我がミルデン支団では、至急ドラゴン討伐隊の編成に入ります。まずは一級討伐者、彼らには全員討伐に参加してもらうように。二級でも立候補者がいれば、参加を許可します。近隣のギルドにも応援を要請し、できるだけ多くの討伐者に参加してもらうつもりです」


 一度言葉を区切り、再びアメリアさんは私たちを見た。その表情はとても険しい。彼女が支団長になって初めてと言える大きな危機なのだから当然だ。


「それからふもとにあるいくつかの集落と、アルーナ村で暮らす村人は、全員ミルデンの街に避難させることになったわ。ミルデンに来た避難者のお世話を、あなたたちにも手伝ってもらうことになるから、よろしく頼むわね」


 これは私にも関係あることだ。リリアもフローレも、みんな深く頷いていた。


「現地へ向かう討伐隊のため、私たちはできるだけのことをしましょう。討伐者ギルドの目標は、死者を出さずにドラゴンを再び眠りにつかせること、それが無理ならばドラゴンを倒す。我々にできることを考え、それぞれが精一杯力を尽くしてほしい。話は以上よ」


 その場の空気が、アメリアさんの言葉でピンと張り詰めた。私たちにできることは、命を懸けて戦う討伐者を助けることだ。そして、被害を受けないよう避難する人たちの手助けをすること。


 私もみんなも、気持ちを引き締めた。アメリアさんが話を終え、私たちは早速動き出した。



♢♢♢


  

 ギルド内にはドラゴン討伐隊募集に関する貼り紙を出し、受付にやってきた討伐者にドラゴン討伐について説明をする。同時に街の広場にも同様の貼り紙が出された。これで街の人々も、アルーナ山のドラゴンが目覚めることを知ることになる。


 ギルド街の職人たちにも、すぐに知らせを出した。ドラゴン討伐には多くの武器、防具、薬品などが必要になる。彼らには急いで予備の装備品を作ってもらわなければならない。母の薬師ギルドも討伐用の薬の調合に追われることになる。しばらく母の帰りは遅くなりそうだ。


 アレイスさんはやはり、ドラゴン討伐隊に参加するのだろうか。彼の階級は二級だけど、実力は一級でもおかしくない人だ。ずっとドラゴンについて調べていたようだし、参加しないわけがないだろう。

 彼が討伐者である以上、こういうことは覚悟しなきゃいけないと分かっている。でもどうして、今なんだろう。ドラゴンがこのまま目覚めずに、また眠りについてくれればいいのに。

 そんなことを思ってしまい、私は自己嫌悪に陥った。他の討伐者には、ぜひドラゴン討伐隊に参加して欲しいなどと勧めておきながら、心の中ではアレイスさんには行って欲しくないと思うのだ。私は受付嬢として失格だ。


 複雑な思いで翌朝を迎える。薬師ギルドではやはり薬品の生産を急ぐ必要があるということで、母はしばらく残業になるだろうと話していた。私も避難所の準備を手伝うことになるし、当分のあいだは夕食を別々に摂ることになった。


 アレイスさんはどうしているだろう。今日はギルドに来るだろうか。家を訪ねたら会えるかもしれないけど、突然訪ねたら迷惑かもしれない。

 仕事は夕方からだけど、家でじっとしているのが落ち着かなくて、お昼前にギルドへ行ってみようと思い立った。リリアがいるはずだし、情報収集のついでにリリアとお昼を食べよう。


 家を出て、ミルデンの街を歩いた。商店が立ち並ぶ大通りを歩いていると、街の人たちの噂話が耳に入る。


「――ドラゴンが目覚めたって――」

「この辺りは大丈夫なのかねえ――」


 不安げな表情で話している人たちの横を通り、街の広場へ入る。いつもは穏やかな広場の光景が、まったく違うものになっていた。広場を埋め尽くすように大量の荷物が置かれていて、多くの衛兵が荷物を運び出していた。

 あれは恐らく、別の場所に作られる避難所に運ぶ荷物だ。テントの布らしきものや積み上げられた木材、多くの木箱などがある。それを衛兵たちは軽々と抱えてどんどん市場通りの方へ消えていく。市場の先に広い空き地があったので、おそらくそこが避難所となるのだろう。


 普段のミルデンとは違う光景を眺めながら、私はギルドへ向かった。

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