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ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~  作者: 弥生紗和
第2章 魔術師アレイスの望み

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第83話 解決

 アメリアさんは、ストームクロウで捕らえられたフローレさんを連れて戻ってきた。色々聞きたいことはあったけど、受付の仕事はしなきゃいけない。そわそわしながらその日の仕事を終えた私は、同僚たちから話を聞いて回っていた。


 彼女は今、衛兵の詰所にいる。フローレさんの荷物を調べたところ、調査班の倉庫にあるはずの魔物素材が出てきたそうだ。どうやらフローレさんは『盗み癖』があるらしい。なくなっていた上回復薬も、彼女が盗んだのだろう。他にも、ギルドで盗んだと思われるシルクのハンカチとか櫛が出てきたそうだ。やっぱり彼女が盗んでいたんだ。櫛なんか盗んでどうするんだろう。他にも盗まれたものがないかと、ギルド内は大騒ぎだった。

 

 フローレさんはやはり二十歳ではなく、本当は二十八歳だったらしい。年上だろうとは思っていたけど、思っていたよりだいぶ上だった。

 驚いたことに彼女は以前、王都トリスヴァンのギルドで受付嬢をしていたらしい。トリスヴァンのギルドは討伐者はもちろん、受付嬢のレベルも高いと聞く。有能な人だったのに、盗み癖が原因でギルドを辞め、各地を転々としていたときに異端討伐者と知り合ったようだ。


 彼女が異端討伐者から盗むよう頼まれたのは、ドラゴンの資料だった。

 ドラゴンの素材が欲しい異端討伐者は、ドラゴンがいつ頃目覚めるのか知りたかったのだろう。資料そのものは持ち出されずに済んだけど、他のものはいろいろ盗まれてしまった。

 

 一通り話を聞いていたら、すっかり遅くなってしまった。着替えをしてギルドを出たところで、アメリアさんとアレイスさんが立ち話をしているのが見えた。


「お帰りなさい、アメリアさん! アレイスさんと一緒だったんですか?」


 二人は私に気づいて振り返った。


「あらエルナ、お疲れ様。詰所でアレイスに会って、一緒に戻ってきたところなの」

「エルナ、仲間の男は捕まえたよ。ついさっきミルデンに戻ってきたところなんだ」

「仲間が見つかったんですか!? あの、ということは本物のフローレさんの行方は……?」

「彼女は無事だよ。仲間の男と一緒だった。怪我もないし、食事もちゃんとしていたようだ」

「よ、よかったぁ……」


 私は思わずその場にへたり込む。彼女が暴力を受けたりせず、無事で本当によかった。


「ただ……」


 アレイスさんは何か言いたげな顔でアメリアさんに視線を送った。アメリアさんは頷き、アレイスさんに続いて話し始めた。


「フローレは仲間の家に監禁されていたの。仲間の女に世話をしてもらっていたみたいで、酷い目にはあっていなかったようだけど、かなり怯えていて……今は私の家で休んでもらっているわ。立ち直るまでには、少し時間がかかるかもしれない」


「そうですか……」


 なんて返していいか分からず、私はありきたりな返事しかできなかった。彼女の苦しみを、私は想像することしかできない。このまま生きて帰れないかもしれない、と思いながら助けを待つ日々はどれだけの恐怖だっただろう。


「フローレは強い子よ。きっと立ち直ってくれるわ。彼女が元気になったら、うちの受付嬢として働いてもらうつもりよ」

「はい。私も彼女と働ける日を、楽しみにしてます」

「そうね。私も楽しみよ」

 

 アメリアさんは私を見ながら、眉を下げて口元を無理やり持ち上げた。

 

「それで、仲間の男の居場所は、どうして分かったんですか?」


 私が尋ねると、アメリアさんは詳しい話をしてくれた。先に捕まった男と取引をして、仲間の居場所を聞き出したのだ。牢屋から出す代わりに、仲間の居場所を教えろと言ったら男はあっさり吐いたという。

 アレイスさんはアメリアさんに協力していて、男を捕まえる手伝いをしていた。異端討伐者は魔石の力を借りた武器と防具を持ち、並みの人間では倒せない強さを持つ。彼らを捕まえるには、同等の力を持つ討伐者の力を借りるのが手っ取り早いのは確かだ。

 

「アレイスには助けてもらいっぱなしね。本当に助かったわ」

「ミルデン支団にはお世話になっていますから」


 アレイスさんは何事もなかったように爽やかな笑顔で話していた。怪我がなくてよかったけど、知らないうちに彼は危ないことをしていた。アメリアさんも衛兵も、気安くアレイスさんを頼りすぎなんじゃないだろうか。異端討伐者を捕まえるのが大変なのは分かるけど……。


「そうでしたか……アレイスさんに怪我がなくて、良かったです」

「どうしたの? エルナ。そんなに神妙な顔で」


 彼が心配なあまり、知らずに表情に出ていたみたいだ。私は慌てて「いえ、何でもありません」と笑顔を作る。


「それで、偽物のフローレさんはどうなるんですか? アメリアさん」

「ミルデンからは追放になるわね。捕まったときは彼女、殆どお金を持っていなかったわ。ストームクロウで仲間の男と待ち合わせて、報酬を受け取るつもりだったようだけど……連絡が取れなくなってお金をもらえなかったようね。計画が崩れたせいなのか、最初から支払うつもりなどなかったのか……それは分からないけれど」


 アレイスさんは私たちの話を聞きながら、フッと笑った。


「所詮、金だけで繋がった関係でしょう。何かあれば簡単に切られる。そんなものですよ」


 吐き捨てるように言うアレイスさんの顔には、軽蔑の色が浮かんでいた。


「それでは、私はギルドに戻るわ。まだ片づけなければならない問題が山積みよ……エルナも今夜はゆっくり休んで。アレイスも、あとできちんとお礼をしますから」


 アメリアさんは気合を入れ直すように大きく深呼吸をすると、ギルドへ戻っていった。あとに残された私は、アレイスさんと二人きりになり、急に緊張してきた。どうしてだろう、こんなこと珍しくもないのに。


「エルナも遅くまで残ってたの?」

「あ……えっと……今日はフローレさんが見つかって、ギルドは大騒ぎだったので……色々みんなに話を聞いてたら、こんな時間になっちゃいました」

「そうなんだ、大変だったね。でも本物のフローレも見つかったし、仲間の男も捕まえたし、これでとりあえずは解決かな」

「そうですね。アレイスさんにも色々協力していただいたみたいで……ありがとうございました」


 改めて彼にお礼を言うと、アレイスさんは「そんなこと気にしなくていいのに」と笑う。さっきまで少し怖い顔をしていたけど、くしゃっと目を細めて笑うアレイスさんはいつもの彼で、私はホッとした。


「エルナ、よければこれから一杯付き合ってくれない? なんだかエールを飲みたい気分でさ」

「あ……えっと、はい! ぜひ」

「よかった。それじゃあ『夜猫亭』にでも行こうか?」

「そうですね! 私、最近夜猫亭に行ってないので、そろそろ行きたいと思ってたんです」


 アレイスさんにエールを飲みに行こうと誘われ、ちょっと驚いたけど私はすぐに頷いていた。彼と一緒に歩き出したところで、母に伝話でんわで遅くなると伝言を残しておいた方がいいかな、と気になった。


「どうしたの?」

「……いえ! 何でもないです」


 私がぼんやりしながら歩いていることに気づいたアレイスさんは、私の顔を見た。慌てて首を振り、気を取り直して歩く。

 一杯だけ飲むくらいなら、そんなに遅くならないはずだ。母に何か言われたら、ギルドのゴタゴタで遅くなったと言えばいい。


 月明かりの下、私はアレイスさんと並んで歩き、夜猫亭へ向かった。

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