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ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~  作者: 弥生紗和
第2章 魔術師アレイスの望み

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第62話 それはもはや、狂気

「アレイス様をたぶらかしたのは、一体誰!?」


 ルシェラ嬢の剣幕に驚いた私とリリアは、すぐに言葉が出なかった。


「……あの、ルシェラ嬢? どうしたんですか?」


 私は目を血走らせているルシェラ嬢に恐る恐る声をかけた。


「アレイス様がミルデンに来てから心変わりをした理由は、このギルドにあるんでしょう!? 誰なの? アレイス様の心に取り入って、私とアレイス様を引き裂こうとした女は!」


 ルシェラ嬢は何やらわけの分からないことをわめいていた。たぶらかしただの引き裂いただの、随分な言われようだ。どうして彼女はこんなに怒っているのだろう?

 リリアは、突然やってきて失礼なことをわめくルシェラ嬢にムッとし、カウンターの外に出てきた。


「ちょっと、急に入ってきて何なんです?」

「あなたなのね!? なるほど、いかにも女の武器を使っていそうな下品な女ね! ちょっと綺麗だからっていい気にならないでよ!」

「はあ?」


 リリアは侮辱されて目を吊り上げた。いつも明るくて優しい彼女だけど、怒るとめちゃくちゃ怖い。案の定、彼女を見るとかなり怒っている。


「突然やってきて失礼なこと言って、何なのよ? どうせアレイスさんに振られたんでしょうけど、こっちに八つ当たりしないでもらえます?」

「あなたね! アインフォルド支団長の娘である私に、よくもそんな生意気な口が聞けたものだわ! あなたみたいな生意気な女、首にしてやるわ!」

「できるものならやってみなさいよ。アインフォルドじゃやりたい放題なんでしょうけど、ここはミルデンよ、あんたの思い通りになんてならないんだから!」

「リリア! お願い、落ち着いて」


 私はルシェラ嬢に啖呵を切るリリアを必死でなだめる。正直言って心の中ではスカッとしたけれど、それどころじゃない。リリアを首にするなんてできっこないと思いながらも、ルシェラ嬢がどんな嫌がらせをするか分からないのだ。

 気づけば、騒ぎを聞きつけて食堂の方から野次馬たちが集まってきた。


「なんだ、喧嘩か?」

「リリアと誰かが喧嘩してるぞ!」


 野次馬たちはのんきに囃し立てている。私はルシェラ嬢を落ち着かせようと二人の間に入った。


「ルシェラさん、とりあえず落ち着いてください。奥の部屋へ行きましょう。そこで詳しい話を聞きますから……」

「邪魔しないで! それともあなたなの? アレイス様をたぶらかしたのは!」

「たぶらかすなんて、そんなことしてませんよ!」


「あれ? でもエルナとアレイスは仲がいいよな?」

「ああ、仲良さそうに話してるの見たことあるぜ」

「俺も聞いたことある。二人は怪しいって噂あるよな」


 今、余計なことを言わないで……! 私は勝手なことを言う野次馬たちを心の中で恨んだ。ルシェラ嬢を恐る恐る見ると、彼女の顔は怒りで真っ赤になっていた。


「あなた、なの……! そういえばあなた、昨日アメリア様と一緒にいた女ね。私のことを腹の中で笑っていたんでしょう!」

「そんな、笑ってなんかいません」

「嘘を言わないで! あなたみたいな地味な女、アレイス様が本気で相手にするとでも思っているの? 思い上がりも甚だしいわ」

「だから、違うんです」

「口ではなんとでも言えるわ! あんなに優しかったアレイス様が、氷のように冷たくなってしまったのはあなたのせいよ。あなたみたいな女が私のアレイス様を……」


 わなわなと口を震わせ、ルシェラ嬢は私に近寄ってきた。私は思わず後ずさる。完全にルシェラ嬢は誤解しているし、すっかりギルドの誰かがアレイスさんを誘惑したと思い込んでいる。そのせいでアレイスさんに振られたと思っているのだ。とにかく今は落ち着いてもらい、誤解を解くしかない。


 もう一度ルシェラ嬢に説得を試みようとしたその時、ルシェラ嬢は髪につけていたかんざしを引き抜いた。ハーフアップにまとめていた綺麗な髪がばさりと落ちる。きらりと光る銀のかんざしは先端が鋭く、私はそのかんざしを見て背筋が寒くなった。


 ルシェラ嬢がかんざしを私に振りかぶるのと、私が持っていた傘を開いたのはほぼ同時だった。傘を持つ手に衝撃を感じ、見るとかんざしが傘を貫通して私の目の前をかすった。


「やばいぞ! あの女を止めろ!」


 野次馬の一人が叫び、誰かが甲高い悲鳴を上げた。危なかった、傘がなければ私は刺されていた。今日だけは雨に感謝しながら、私は傘を放り投げてルシェラ嬢から逃げようとした。ルシェラ嬢はマーニーさんが持っていた大きくて四角い鞄を奪い取ると、勢いよくそれを私に向かって放り投げた。


 人は時に、時間が止まって見えることがあると言う。


 なるほど、これがそうなのか。大きな鞄がゆっくりと私に向かってくるのが見えた。あれに当たったらただでは済まないだろうな、ルシェラ嬢って意外と力持ちなんだな、などと思いながら私は鞄が迫ってくるのを見ていた。


 そして私は、意識を失った。

サブタイトルは「それはもはや、凶器」でも通じるなと思ったり。

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