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ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~  作者: 弥生紗和
第2章 魔術師アレイスの望み

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第48話 自由なひと

 アレイスさんに呼び止められ、渋々私は彼の前に立った。すっぴんをあまり見られたくないんだけど、仕方ない。


「今朝ギルドに来たら、みんな呪いのブーツの噂で持ちきりだよ。その呪われた討伐者は今どこに?」

「……あの、倉庫に隔離されてるんです。昼頃には呪術師が到着予定なので……」


 顔を伏せて目を逸らしながら話していると、アレイスさんは不思議そうに私の顔を覗き込んできた。


「あ、あの! あんまり見ないでください。化粧を落としたので今すっぴんなんです」

「そうだったの? エルナはすっぴんでも可愛いから気づかなかったよ」


 アレイスさんは私の顔を見てニコニコしていた。それよりも今、「すっぴんでも可愛い」って言った気がする。聞き間違いじゃないよね?

 思わず動揺したけど、それを悟られないように口をきゅっと結び、無表情を装った。


「その討伐者さん、エディさんていうんですけど、彼のお世話をする為に昨夜ギルドに泊まったんです」

「泊まった?」


 アレイスさんは怪訝そうな顔をした。


「はい。隔離されてますから、誰かが面倒を見ないといけないので」

「それは分かるんだけど、どうしてエルナが面倒を見るの? 君は受付嬢でしょ?」


 アレイスさんは眉をひそめ、なぜか不機嫌そうで、声もいつもより低い。


「えっと……私、呪術師の仕事をこの目で見てみたくて……自分から立候補したんです」

「だとしても君が面倒を見ることはないでしょ? 君は若い女性なんだから。呪われた討伐者は男だよね? 一晩中彼の世話をする必要はないでしょ」

「世話と言っても、たまにエディさんの様子を見に行くだけですし、別におかしなことはないですよ」

「おかしなことはなくても、もし呪われた討伐者に触れて呪いが感染したらどうするの? 危険すぎるよ」


 珍しくアレイスさんは声を荒げた。彼が私を心配して言ってくれているのは分かるけど、そんなに怒らなくてもいいのに。


「呪いには触れないように気をつけていましたし、大丈夫ですよ」


 私の言葉が聞こえているのかいないのか、アレイスさんは腕を組み、遠くを見ていた。その不機嫌そうな様子に困惑していると、彼は急にパッと目を見開いた。


「そうだエルナ、そのエディって人に会わせてもらってもいいかな」

「え? それは構わないですけど……どうしてですか?」

「呪いのブーツをこの目で見たいんだよ。案内してくれる?」


 やっぱり討伐者として、呪いのブーツに興味があるのかな。アレイスさんなら呪いの対処も知っているだろうし、エディさんに会わせるくらいなら問題ないはずだ。

 私はアレイスさんを連れて倉庫へと戻った。


 ♢♢♢


「ここで待っていてください。アレイスさんを中に入れる許可を取ってきます」

「うん、分かった」


 倉庫に着いた私はアレイスさんを扉の外で待たせ、中にいる調査班の職員に話をしに行った。許可をもらい、大急ぎで外に戻ると、そこにいるはずのアレイスさんの姿がない。


「アレイスさん!?」


 焦って名前を呼ぶと、警備員が「どうした?」と警備小屋から顔を出した。


「アレイスさんを見ませんでした?」

「アレイスなら、先に中へ入っていったよ」

「ええっ?」


 警備なのに見逃すなんて! 私は慌ててアレイスさんを探し回る。倉庫はとても広く、部屋の数も多い。貴重な魔物素材も多く、部外者は立ち入りを禁じられているエリアもある。


「もう! どこ行っちゃったのアレイスさん。勝手にウロウロさせて怒られるの私なんだから……」


 一通り見て回ったが、アレイスさんの姿は見えない。まさかと思い、廊下の一番奥にあるエディさんの隔離部屋へ行くと、中にアレイスさんがいた。


「いた! アレイスさん」


 彼はしゃがみ、床に座るエディさんと何やら話し込んでいた。とりあえず見つかってホッとしたものの、ふと気づく。――呪われたエディさんとの接触を防ぐための手袋を、アレイスさんに渡していない。


「アレイスさん、手袋……」


 言いかけたところで、アレイスさんの手にはすでに手袋がはめられているのを見て、ホッと胸を撫で下ろした。そういえば彼は依頼を受けに来たと言っていたから、当然戦闘用の手袋を持っているはずだ。


「エルナ。彼の様子を見させてもらったよ」


 アレイスさんは笑顔で振り返った。勝手に中を歩き回って平然としている彼に、少し腹が立つ。


「アレイスさん。許可が出る前に中に入らないでください!」

「ごめんね、エルナ。廊下の奥に禍々しい気配があったから、つい入っちゃったんだ。でも警備の彼にはちゃんと挨拶したよ」


 あまり悪びれた様子もなく、アレイスさんは私に謝った。前から思っていたけど、この人は少しマイペースなところがある。


「もう……次は気をつけてくださいね。それより、エディさんの様子はどうですか?」

「体を見せてもらったけど、だいぶ呪いが進んでいるようだね……下半身はすべて呪われているよ」

「そうですか。エディさん、体調はいかがですか?」


 私はエディさんの様子を観察していたけど、さすがに服を脱がせて確認するわけにはいかないので、具体的にどこまで呪いが進んでいるのかは分からなかった。本人が「お腹までは来ていない」と言っていたので大体の予測はついたけど、本当はアレイスさんのように直接確かめるべきだったのかもしれない。


「……少し、気持ち悪いような気がするな。あとは寒気も」

「呪いで体が冷えているんだろう。エルナ、ブランケットをもう少し持ってきてもらえるかな。それと熱いお茶を頼む」

「わ、分かりました!」


 私は慌てて部屋を飛び出した。アレイスさんは呪いにも詳しいんだな、さすが元王宮魔術師。大急ぎでギルドに戻り、ブランケットを手当たり次第抱え、職員食堂で熱々のお茶を淹れてもらい、エディさんのところへ戻った。

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