第44話 呪われたブーツ
第2章スタートしました!よろしくお願いします。
真っ青な空の下、ミルデンの街を一望できる高台にあるのが、私の仕事先だ。
ここは討伐者ギルド。討伐者ギルドで受付嬢をしている私は、魔物討伐に行く討伐者たちを見送るのが仕事だ。
私は受付嬢のエルナ・サンドラ。今日も私は討伐者のために働いている。
ギルドの受付ロビーは今日も賑やかだ。待合スペースでは、ある討伐者が仲間に新しいブーツを自慢していた。
「いいだろ? このブーツ。買ったばかりなんだ」
「すごいな、高かっただろ?」
「まあ、それなりにね」
彼らが盛り上がっている様子を横目で見ながら、私は受付に来ている別の討伐者さんに依頼先を紹介していた。討伐者ギルドの役目は、討伐者に魔物討伐依頼を紹介し、各地に派遣すること。私は受付嬢としてそのお手伝いをしているというわけだ。
「――では、こちらの依頼でよろしいですか?」
「うん、頼むよ」
「それでは手続きをしてきますので、お待ちくださいね」
受注書を持って奥の部屋へ行き、受注担当官のバルドさんに確認してもらう。バルドさんは私の上司で、私たち受付嬢を優しく見守ってくれる人だ。
「……よし、と。じゃあこれを渡して」
「はい、ありがとうございます」
受注書にはバルドさんの確認のサインが書かれていた。これでギルドの許可が出たので、あとは受注書を討伐者に渡すだけだ。受付カウンターに戻ると、新しいブーツを自慢している討伐者がまだ盛り上がっていた。
賑やかだなあ、と思いながら私は魔物討伐に出発する討伐者を見送った。次の人を迎えようと思ったその時、ブーツを見ていたほかの討伐者が急に驚いたような声を上げた。
「おい、エディ! お前、その足どうしたんだよ」
ブーツを履いている討伐者さんはエディという若い男性だ。討伐者階級は五級で、討伐者になって数か月といったところだ。まだ新人と言える彼がやけに高そうなブーツを履いていたので、私は不思議に思っていた。失礼だけど、彼の稼ぎでは買えないものじゃないだろうか。
「え? 足?」
見るとエディさんはブーツを仲間たちによく見せるためか、ズボンをめくって足を出していた。ブーツは足首を覆うくらいのもので、彼のふくらはぎが露わになっている。仲間の指摘にエディさんが自分の足に目を移すと、驚いて「うわあ!」と大声を上げた。
エディさんのブーツとズボンの間から見える足の色がおかしい。どす黒い色をしていて、明らかに異変が起こっている。
「な……なんだよ、これ」
エディさんは動揺しながら、震える手で自分の足に触れようとした。
「……おい、ひょっとしてお前のそのブーツ、呪われているんじゃないのか?」
仲間の一人が発した言葉に、周囲がざわついた。
「の、呪いだって?」
ビクッとなったエディさんが慌てて手を引っ込めると同時に、ギルド内のどこかから女性の悲鳴が上がった。
「呪いのブーツだわ!」
「やばいぞ、離れろ!!」
誰の声か分からない。けどその声が合図のように、ギルド内が一気にパニックになった。エディさんの周囲にいた人たちが波を引くように、一斉に彼から離れる。
呪いのブーツという言葉を聞いた私は、急いでカウンターから外に出た。装備品は基本的にその人に合わせて作られるものだけど、高価なものは店に売られ、次の使用者に渡る場合もある。それを繰り返しているうちに「呪い」を受けた状態で手放されるものもあるという。
呪いは魔物と戦った際に受けるもので、呪われた装備品を身に着けると身体を徐々に蝕んでいき、やがて身に着けた者は死んでしまう。呪いを解くには「呪術師」の力で呪いを解かなければならない。
しかも強力な呪いがかかっている装備品の場合、触れた者に呪いが伝染することもあるので非常に危険だ。すぐにエディさんを隔離し、急いで呪術師を呼ばなければならない。ギルド職員である私たちの目の色が一瞬で変わった。同僚のリリアと目を合わせ、私は声を張り上げる。
「皆さん、離れてください! 彼を隔離します!」
「すぐに離れて! 危険です!」
私とリリアは討伐者たちをエディさんから離れるように指示を出した。討伐者たちは悲鳴を上げながら逃げ出していく。奥からは騒ぎを聞きつけたバルドさんが飛んできて、事態を把握すると青い顔になり再び奥へ駆けて行った。
それからは大騒ぎだ。呆然としているエディさんの周囲に椅子を置いてロープをぐるりと張り、彼に誰も近づけさせないようにした。討伐者たちはすぐにギルドから全員出て行ってもらう。受付ロビーのすぐ隣には討伐者用の食堂があるけど、そこにいた人たちも全員外に出てもらった。
私たち職員とエディさん以外、受付ロビーには誰もいなくなった。エディさんはロープの中で、泣きそうな顔で座り込んでいた。
私は心の中で覚悟を決めた。今日は長い一日になりそうだ。
2章も引き続きギルドで働くエルナの日常と、周囲で起こるちょっとした事件を描きます。派手なことは起こりませんが、読者様に楽しんでいただけるようなお話を書きたいと思っています。




