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ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~  作者: 弥生紗和
第1章 ギルド受付嬢の日常

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第30話 アレイスの隠し事

 私の質問に、アレイスさんは少し戸惑った顔をした。また余計なことを聞いてしまったかなと思ったけど、アレイスさんは次に笑顔を浮かべた。


「いつまでもごまかし続けているのは、君に対しても失礼だね。ちゃんと理由を話すよ」


 そう言って、アレイスさんは自分の話を始めた。


「彼は……ジュストは僕の兄、シリルに頼まれて僕を探しに来ているんだろう。ジュストと兄は同い年で、仲のいい友人なんだ。兄はずっと僕に、王都へ戻ってこいと言っている。僕の家は代々魔術師一家でね、父は王宮の筆頭魔術師で、僕を含め兄弟は全員王宮魔術師。僕よりも王家に忠実な人達だよ」


 私はなんとなく、彼の言葉に棘のようなものを感じながら、彼の話に耳を傾ける。アレイスさんは三人兄弟で、シリルという人は次男でアレイスさんは末子だそうだ。兄弟三人とも王宮魔術師だなんて、相当優秀な一族なんだろうな。


「シリル兄さんは僕が討伐者となったことをずっと怒っている。彼だけでなく、僕の家族全員がそうだ。僕のことを一族の裏切り者だと思っているんだ。僕はそれでも構わないよ、もう王都に戻る気はないしね。僕のことは死んだと思ってくれと言って王都を離れた。だけど、兄はずっと僕を連れ戻そうとしているんだ」


「あの……どうして、そこまでして王都を離れようと思ったんですか?」


 私の疑問に、アレイスさんはふっと笑みを漏らした。


「前に君は言っていたよね? 君のお母さんが僕に腹を立てていたと。僕の昔の姿を見たら、きっと君は僕に幻滅するだろう。僕は筆頭魔術師の子として生まれ、能力も他の魔術師よりも秀でていると自負していて、すっかり思い上がっていたんだ。十四で王宮魔術師になった僕は、若き天才などと随分おだてられたよ。そんなだから王宮では敵も多かった」


 静かに話すアレイスさんの顔を、私は何も言えずにただ見ていた。


「ある日、僕は陛下にある意見をしたんだ。陛下は王国にいるドラゴンを絶滅させるべきだと考えていて、僕はそれに反対した。山の奥地で静かに眠るドラゴン……あれは大地そのもの、自然そのものだ。ドラゴンを絶滅させることは、大地を壊すことに繋がると訴えた。陛下は激怒して、元々僕のことをよく思わない連中が僕を牢屋に入れた」

「ドラゴンを、絶滅させる……?」


 私はアレイスさんの話に動揺を隠せない。魔物は人間と同じように、遥か昔からこの地に存在していた。一度は人間に追いやられ、今は再び勢いを増している。それは天秤のようなものだと聞いたことがある。魔物と人間は共に大地の上で暮らし、どちらが欠けてもいけないのだと。


「そうだ。それこそが王国の平和と繁栄に繋がると、陛下は本気でそう考えているようだし、僕の家族も他の王宮魔術師も陛下が正しいと言う。でも僕はその考えには賛成できなかった。しばらく牢屋の中で暮らしていて、ある日ふと僕は思ったんだ。王都を出るべきだと」


 アレイスさんは目を伏せた。きっと牢屋では大変な思いをしたんだろう。天才魔術師と言われた彼が牢屋に入れられ、彼の誇りはズタズタに引き裂かれただろう。


「それで、牢屋から出たあと僕は王都を離れ、アインフォルドの討伐者ギルドに入った。実はミルデン支団長のアメリアと僕は以前から知り合いだったんだ。彼女が偶然王宮を訪れていて、僕が彼女に頼み込んだ」

 

 母が以前話していた通り、アメリアさんとアレイスさんは知り合いだったんだ。


「彼女が手を回してくれて、アインフォルドのギルドに潜り込んだ。ミルデンでも良かったけど、ここは小さな街だからアインフォルドのような大きな街の方が目立たないだろうと思ってね。僕は名前も変え、討伐者として生まれ変わったんだよ」

「じゃあ、アレイスさんは本名じゃないんですか!?」


 私は驚いて大きな声を出してしまった。そもそも討伐者ギルドに入る為には訓練学校を卒業しないといけないけど、彼の魔術師としての実力は疑いようもないから、討伐者になることはできるだろう。でも名前まで変えていたなんて。アレイス・ロズというのは本名ではなかったんだ。


「ごめんね、黙ってて。僕の本当の名前はアレクシス・ロズヴァルド。この名前だと活動しにくいから、少し変えたんだ」

「そうだったんですね……でも私にとってアレイスさんはアレイスさんなので……」

「それでいいよ。昔の名前は捨てたんだ。僕はこれからもアレイス・ロズだから」


 そうだ、彼の本当の名前を聞いたところで、アレイス・ロズという人が消えてしまうわけじゃない。私はアレイスさんに笑顔を見せた。アレイスさんも私に笑みを返す。


「討伐者になったのはどうしてなんですか?」

「うーん……一言で言うなら、修行、かな」

「修行?」


 私が尋ねると、アレイスさんは笑みを浮かべたまま頷いた。


「僕は王都では本当に傲慢で、街の人々の暮らしすらろくに知らなかった。アインフォルドを訪ねた時は、本気で討伐者になるつもりもなかったんだよ。ただしばらく身を隠せればいいとだけ考えていた。でも討伐者ギルドを見ているうちに、彼らの仕事に興味が湧いたんだ。僕は彼らがただ、金稼ぎの手段として討伐者になったんだろうと思っていた。でも彼らには彼らの想いがあって、自分の故郷を守りたいとか、家族を魔物から守りたいとか、それぞれに戦う理由があったんだ。それで僕は修行のつもりで討伐者稼業を始めた。最初は馬鹿にしていたけど、意外と居心地が良くてね。何より、討伐者ギルドは魔物に対しての敬意がある。無駄な殺戮は行わないし、素晴らしい組織だと思った」


 アレイスさんが討伐者ギルドのことを褒めてくれたのが、まるで自分のことのように嬉しい。


「私も、討伐者ギルドが大好きです」

「うん、分かっているよ。ミルデンに来て最初にエルナと出会った時、君は討伐者を気遣い、気分良く送り出してくれる人だと思った。魔物の知識も豊富で、現地の情報にも詳しい。本当にギルドの仕事が好きなんだと思ったよ」

「あ……ありがとうございます。そんな風に言ってもらえると、嬉しいです……」


 今度は私のことを褒めてくれるので、私はますます恥ずかしくなった。


「色々あったけど、討伐者ギルドに入って良かったと思っているよ。人づきあいは相変わらず苦手だけどね」


 アレイスさんは照れたように微笑む。彼はあまり仲間を作りたがらない人だと思っていたけど、それは多分、自分の過去をあまり知られたくなかったからだろう。だからアレイスさんからなんとなく、心の壁を感じていたのだ。


 ようやく今日、アレイスさんの心の壁が少し崩れたような気がして、私は嬉しかった。

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