表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~  作者: 弥生紗和
第1章 ギルド受付嬢の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/108

第17話 時間は動き出す

 今日の仕事を終えた後、どうしてもラウロのことが気になった私は、思い切って支団長室を訪ねてみた。

 支団長のアメリアさんは、私が訪ねて来ることを予想していたみたいだった。笑顔を浮かべながら、一緒に食堂に行こうと私を誘った。


 職員食堂に行くと、中にいる人はまばらだった。今は食事の時間ではないし、休憩している職員がわずかにいるだけだ。だらしなく足を放り出して居眠りをしていた監視班の職員が、アメリアさんが来たことに気づいて慌てて立ちあがる。


「私に構わないで、ゆっくり休みなさい」

「は……申し訳ありません!」


 直立している彼に、アメリアさんは苦笑いで返す。アメリアさんは気さくで優しい人だけど、彼女は支団長だしやっぱり私達普通の職員とは立場が違うのだ。


 私はアメリアさんと私のお茶を食堂の人からもらい、テーブルに戻った。


「ありがとう。今日は忙しかった?」

「はい、ここ数日は天候もいいので討伐日和ですから……」

「そうね、悪天候だとどうしても討伐者に負担がかかるものね」


 何気ない世間話をした後、アメリアさんはようやく本題を切り出した。


「それで……ラウロという少年のことなんだけど。彼は一応逮捕ということになったの。衛兵が彼を連れて行ったわ」

「そう……ですか」


 やっぱり受注書を盗んだのは本当だったのだ。浮かない顔で話を聞く私に、アメリアさんは話を続けた。


「あなたの読み通り、ラウロは街道沿いを歩いていたところを発見されたわ。歩いてストームクロウへ向かうつもりだったようね。食べ物なんかは道中、民家に盗みに入って……とにかく、受注書が誰かの手に渡る前に彼を捕まえることができて安心したわ」


 良かったと胸を撫で下ろした後で、ふと疑問が湧いた。


「じゃあ受注書は誰にも売らなかったんですよね。それでも衛兵はラウロを逮捕したんですか?」

「そうね。彼を逮捕するように言ったのは私なの」


 アメリアさんは淡々と言い、お茶を美味しそうに一口飲んだ。その表情に冷たさを感じた私は、どう返すか迷ってしまった。アメリアさんは私の表情に気づき、笑顔を向ける。


「誤解しないで。私は彼を牢屋に入れたいわけじゃないわ。受注書を盗むということが今後繰り返されることがないように、逮捕を周囲に知らせる為でもあるの。それに道中で盗みもしているみたいだし、無罪放免というわけにもね。受注書に載っている魔物の情報は、うちの監視班が命がけで調べたものだということは、エルナも分かっているでしょう?」

「はい、もちろんです」


 私はアメリアさんに強く頷いた。監視班は討伐者の為に、空や陸、様々な場所から魔物を監視している。彼らの殆どが元討伐者であり、魔物と戦う力は持っているものの、危険な仕事であることに変わりはない。アメリアさんはそのことをよく知っているからこそ、受注書の扱いは大事だと常に私達受付嬢に話していたのだ。


「とは言っても、ラウロが重罪になることはないから安心して。恐らく数日以内には釈放されるでしょう。彼が裁判にかけられることもないわ。彼が受注書を盗んだ理由にも、同情すべきものがあるしね」


 そう言ってアメリアさんは私に、ラウロの事情を話した。ラウロは両親を亡くし、年の離れた姉が生活の面倒を見ていたようだ。働きづめの姉を助ける為に、ラウロは受注書を盗んで売ることを思いついたという。受注書一枚を闇の市場に売れば、ラウロ姉弟が当分暮らしていけるほどの大金が手に入る。ラウロは大人達の噂話を盗み聞きし、安易な気持ちでギルドにやってきたのだ。


「――我々討伐者ギルドは、街の人達にも広く扉を開け放ち、彼らとの交流も大切にしてきたわ。だから誰でも入れるようにしていたし、子供が入ろうと追い出すことはしなかった。でも……こういうことがあると、もう少し警備を厳重にしなければならなくなるわね」


 アメリアさんはため息をつき、食堂の窓から外を見つめた。魔物退治は街の人達の協力が欠かせない。武器や防具はもちろん、薬に食事など様々なものをギルドの為に作ってくれている。アメリアさんは街の人達との間に壁を作りたくないという考えを持っている。だからギルドには誰でも自由に出入りができるし、時々は街の子供達を集めてギルドの見学会なんかも開催しているのだ。ちなみに見学会の案内役は私が務めている。


「そうですね……でも、警備をあまり厳重にし過ぎるのは……私達受付嬢がもっと気をつけますから」


 今の自由な雰囲気を壊したくはないし、ギルドはこのままでいて欲しい。私の想いを聞いたアメリアさんは目を細めた。


「分かっているわ。今の空気を変えないようにしたいのは私も同じよ。あなたは今まで通り、笑顔で討伐者を迎えてあげてちょうだい」

「はい、アメリアさん」


 ホッとした私は、お茶を飲んでため息を吐いた。


「さて、ラウロの話はここまでね。そうそう、ジェマにも後でお礼を言わなくちゃ」

「あ、そう言えばうちの母が、アメリアさんによろしくと言っていました」

「久しぶりに彼女とゆっくり話したいわ。ジェマに伝えておいてくれる?」

「お任せください!」


 アメリアさんと母は、父を介して知り合ったのだという。当時アメリアさんはまだ支団長ではなく、調査班にいたらしい。優秀な薬師だった母のことを気に入ったアメリアさんは、よく母に薬の開発を頼んでいたようだ。

 父が亡くなり、母はギルドから足が遠のいてしまったけど、その後も母はギルドの為に薬を作ることは続けている。


 一度切れた母とアメリアさんの関係が、再び繋がったことが私は嬉しかった。止まっていた時間が再び動き出したような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ