表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~  作者: 弥生紗和
第1章 ギルド受付嬢の日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/108

第15話 嫌な予感

 討伐者ギルドで依頼を受けた討伐者は、奥の扉から飛行船乗り場へ向かう。扉の外は中庭になっていて、通り抜けてギルドの裏へと進む。そこにあるのが飛行船乗り場だ。ギルドは高台にあり、街を一望できる飛行船乗り場は眺めが良い。

 私は時々、休憩しにここを訪れる。飛行船乗り場にはベンチもあり、ベンチから眺める町の風景は私の癒しだ。飛行船が離着陸をするたびに風を巻き上げるけど、それさえ気にしなければここは最高の休憩場所なのだ。


 私がベンチに座ってすぐ、飛行船が空から降りてきた。ここの飛行船は最大でも十人くらいしか乗れないので、大きさとしては小型なものになる。王都のような大きな町ではもっと大きな飛行船が飛んでいるみたいだけど、ここではそんなに大きな飛行船は必要ない。

 飛行船が着陸する時の思わず息が止まりそうになる風を受け、私は埃が入らないように目を閉じた。ようやく風が収まり目を開けると、黒髪のすらりとした男性が飛行船から降りて来るのが見えた。あれはアレイスさんだ。

 アレイスさんに続き、同行していた『回収班』が巨大な赤熊を船から下ろしていた。どうやら討伐は無事に終わったみたい。倒された赤熊はこの後『調査班』が引き取り、調査をした後に解体され素材として流通することになる。


 私はベンチから立ち上がり、アレイスさんを出迎えに駆け寄った。


「お帰りなさい! 討伐お疲れ様でした」

「やあ、エルナ。出迎えありがとう」


 アレイスさんはいつも通りの穏やかな笑顔だった。怪我もしていないようだし、元気そうな彼の様子に私はホッとする。


「アルーナ湖の依頼、受けてくれてありがとうございました」

「気にしないで。他にも一頭いたからついでに倒しておいたよ」


 アレイスさんが飛行船に目をやると、回収班がちょうど二体目の赤熊を飛行船から下ろしている所だった。


「本当ですか。助かります」


 私がお礼を言うと、アレイスさんは笑顔で頷いた後、何故か表情を曇らせた。


「ひょっとすると、あの赤熊は別の場所から来た個体かもしれない」

「別の場所? 森の中にいる個体じゃないってことですか?」

「ああ。赤熊の毛色が森にいる赤熊と少し違う。『アルーナ山』から湖に下りてきている可能性があるね」

「どうして赤熊が山から?」


 私はなんだか嫌な予感がした。魔物が急に居場所を移動する理由はいくつかあるが、もしも悪い理由だとしたら?


「これは僕の予想だけど、山の中に赤熊の天敵が現れたのかもしれない。赤熊はそれから逃げてきているんじゃないかな」

「アレイスさん、それってまさか……」


 アレイスさんも私と同じことを考えているようで、固い表情のまま頷いた。


「そうだ。ひょっとしたらあの山で『ドラゴン』が目覚める気配を、赤熊が察知したのかもしれない」

「……分かりました。私からも監視班に伝えておきます」

「頼むね。僕達の予想が外れることを願うけど」


 私は休憩を取りやめ、すぐに監視班にアレイスさんの話を伝えに行った。監視班は常に魔物の動きに目を光らせ、魔物の居場所を特定する役目がある。危険な魔物の出現を予想できることが起これば、すぐに彼らに知らせなければならない。


 ドラゴンはたとえ魔力を持つ討伐者達でも歯が立たない。もし討伐となれば、王国内の各ギルドから応援を募り、大討伐団を作らなければならないほどだ。


 私の胸はどくどくと嫌な音を立てていた。私の父が亡くなったのは、ドラゴンの討伐での出来事だったからだ。王都の討伐者ギルドが広く応援を募り、父がそれに応えて王都に行った。父はドラゴンとの戦いで命を落とし、私は父と永遠の別れを経験した。


 また、あの時と同じことが起こるのだろうか。ドラゴンは基本的に人が住まないような山の中で眠っていると言われ、私達のような普通の人間がドラゴンの姿を見ることはない。でもドラゴンが仮に目覚めたとして、人の住む所に現れたら、その時は『災厄』と呼ばれる恐ろしいことが起こる。ドラゴンの炎は全てを焼き尽くし、その後は町が一つなくなるほどだと言われている。


 父はドラゴンとの戦いで、自ら志願しておとりになったと母に聞いた。ドラゴンを倒すことができたのは、父のおかげだった。誇り高い死だったと人々は言うけど、私は時々自分の心に怒りが沸き上がるのを感じる。何が誇りだ、父はただ犠牲になったのだ。王都の人達は父に危険な役目を押し付け、自分達は安全な所にいて手柄だけを取ったのだと。


 私は廊下を一人歩く。目が熱くなって涙がじわりと浮かぶのを感じ、立ち止まって涙を拭った。もうあんな思いは二度としたくない。どうか、ドラゴンが目覚めたというのは間違いであって欲しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ