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ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~  作者: 弥生紗和
第1章 ギルド受付嬢の日常

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第11話 ひとりで、食事を楽しむ

「こんばんは」

「あら、エルナ。いらっしゃい! 奥の席にどうぞ」


 ニコニコしながら私を出迎えてくれたのは、ダナさん。彼女は弟で調理人のヒューゴさんと一緒に酒場を切り盛りしている。いつも笑顔で感じがいい人だ。


 夜猫亭は小さな酒場だ。カウンターの奥では不愛想なヒューゴさんがエールを注いでいた。カウンターにドンとカップを置くと、ダナさんがそれを持ってお客さんの所へ持って行く。テーブル席もあるけれど、店内がいっぱいになることはあまりない。今日もテーブル席には一組の客しかいなかった。

 私が座るのはいつもカウンターだ。ここに誰かと一緒に来ることはない。カウンターの奥に座ると、ヒューゴさんが「エールでいいか?」と聞いてくる。ヒューゴさんは無口でちょっと怖そうな見た目だけど、私が酔っ払いに絡まれた時に凄んで追い払ってくれたので、多分いい人なんだろうと思っている。


「エールと、魚のフライもください」

「はいよ」


 ヒューゴさんはぶっきらぼうに返事をすると、すぐにエールを出してくれた。私はそれを一気に流し込む。


「……美味しい!」


 思わず声が出てしまった。夜猫亭にはいつも来られるわけじゃないので、こうしてたまの贅沢を楽しめるのが嬉しい。誰にも邪魔されず、一人でぼんやりとしながら美味しいエールと食事を楽しむ。私はこの酒場が気に入っていて、あまり誰かと来たいとは思わない。ダナさんもヒューゴさんも、私のことを適度に放っておいてくれるのが好きだ。


「お待たせ」

「ありがとう!」


 ヒューゴさんが私の前に大きな皿をやや乱暴に置く。日焼けした筋肉質の腕と無精ひげ、低い声に鋭い視線。初めて見た時は怖いと思ったけど、今ではもう慣れた。


 魚のフライは私の大好物だ。白身魚に衣をつけて、カリっと油で揚げたものに塩を振ったものだ。ビネガーを少し振りかけて食べるとさっぱりとして美味しい。ポテトフライも添えてあり、こちらもいい色で揚がっている。相変わらず、ヒューゴさんの料理はどれも絶品だ。ヒューゴさんは元々別の町で料理人をしていたらしいけど、どんなところにいたんだろう。ミルデンは内陸にある町で、私は外の世界を知らない。当然ながら海を見たこともない。ミルデンの近くにある『アルーナ湖』はとても大きいから、あれが多分海みたいなものかな。


 そう言えば、アルーナ湖の辺りに魔物が出たらしくて、住民が立ち入り禁止になっていたのを思い出す。討伐者が湖に向かったはずだけど、早く魔物が退治されるといいな。アルーナ湖の周囲には大きな森があって、木材の産地にもなっている。魔物は基本的に、人間が多い所を嫌うと言われている。魔物は元々この世界で暮らしていたらしい。でも魔力を得た人間達と戦い、徐々に住処を追われたんだそうだ。


 人間は魔力を得たことで、魔物と戦う力を手に入れた。それが『討伐者ギルド』が創られるきっかけとなった。実は人間達はみんな、魔力を身体の中に持っているものらしい。でも魔力を開花させるには多くの訓練を必要とする。討伐者を目指す者は訓練学校に入り、魔力を生み出す訓練を重ねる。魔力を生み出せるかどうかは、訓練にもよるし本人の資質にもよるみたいだ。私達のような普通の人間では到底倒せない魔物をいとも簡単に倒してしまう彼らは、私達にとって尊敬すべき存在なのだ。


「ソーセージも食べるか?」


 ヒューゴさんに突然話しかけられ、私は我に返った。ヒューゴさんに話しかけられるのはとても珍しい。


「いただきます!」

「なら、少し待ってろ」


 私に背を向け、ヒューゴさんは鉄のフライパンの上にソーセージを乗せて焼き始めた。ジューという音と共に、ソーセージが焼けるいい匂いがする。

 

「ほらよ、これはサービスだ」

「え! いいんですか?」


 皿の上には、焦げ目がついたソーセージと酢漬けのキャベツが乗っている。ヒューゴさんにサービスされたのは初めてだ。


「ハーブ入りなんだが、味の感想をくれ」


 どうやら試食をして欲しいらしい。何を食べても美味しいという感想しか出てこない私にとってはプレッシャーでしかないけれど、しっかり食べて感想を伝えなければ。


 ソーセージを一口かじると、ハーブの香りが鼻の中に抜けていった。これはとっても……。


「美味しいです!」


 笑顔でヒューゴさんに感想を伝えると、ヒューゴさんは無言のまま頷いた後、ちょっとだけ笑みを見せた。


「あんたに聞いても無駄だったな」


 だから、私は何を食べても美味しいとしか言わないんだってば。役に立たない試食役を務めた後、私はエールをおかわりして、おひとりさまの食事を楽しんだのだった。

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