第4章:復讐の円環
水底の聖域の最深部で、ついに修一たちはヴィクターと対峙した。ヴィクターは、すでに「水底の円環」である秘宝を手にし、その強大な力を操っていた。
「来たか、下民ども。この私に逆らったことを、今から後悔させてやる」
ヴィクターは、秘宝の力で時間を操り、修一たちを圧倒した。彼の動きは、修一の「円環の賢者」の能力を上回る速さで、攻撃は予測不可能だった。
「くっ……! こいつ、本当に時間を操っているのか!?」
ガルドが剣を構え、セシリーも強力な水魔法を放つが、ヴィクターは時間を巻き戻し、攻撃を回避したり、逆にこちらの魔法を跳ね返したりする。修一は自身のチート能力の限界に直面し、精神が崩壊しかけた。前世で、いじめっ子たちに追い詰められた時の、あの絶望感が再び修一を襲う。
「修一さん! 諦めないで!」
セシリーの叫び声が、修一の耳に届いた。彼女の瞳は、どんな時も彼を信じ、励まし続けてくれた。リリアもまた、静かに修一に語りかけた。
「円環の賢者の力は、単なる時間操作ではないわ。それは、『因果の円』を完成させる力……」
リリアの言葉が、修一の脳裏に響いた。因果の円。そうか、俺の力は、単に時間を巻き戻すだけじゃない。過去の因果を清算し、新たな因果を紡ぐ力なんだ。
修一は、秘宝の力で時間を操るヴィクターの動きを、さらに深く読み取ろうとした。すると、ヴィクターの過去の記憶が、彼の脳裏に流れ込んできた。
ヴィクターは、幼い頃から周囲の期待に押しつぶされ、常に完璧であることを求められていた。その重圧から逃れるために、彼は他人を貶め、自分を優位に立たせることでしか、自己を保てなかったのだ。彼の傲慢さは、実は孤独と劣等感に苛まれていた心の隙間を埋めるための、虚勢だった。
――こいつは、俺と同じだ……。
修一は、ヴィクターの心の闇に触れることで、彼への怒りとは異なる、複雑な感情を抱いた。しかし、同時に、彼を打ち倒さなければならないという強い決意も固まった。
「ヴィクター・クロウリー! お前は、孤独に怯える臆病者だ!」
修一はそう叫び、ヴィクターの心の闇を暴いた。ヴィクターは、修一の言葉に動揺した。その一瞬の隙を、修一は見逃さなかった。
「円環の賢者、真の力、解放!」
修一の体から、眩い青い光が放たれた。それは、彼の精神力と「水底の聖域」との共鳴が最高潮に達した証だった。修一の能力は、ヴィクターが時間を操る「因果の円」そのものに干渉し始めた。
ヴィクターの操る魔法が、不安定になる。彼の動きが、わずかに遅れた。
「な、なんだこの力は……!? 私の力が……!」
修一は、ヴィクターの心の弱点を突き、円環の賢者の力で彼の魔力を封じた。ヴィクターの体から、秘宝の力が剥がれていく。
「これがお前の因果だ、ヴィクター。お前が他人を傷つけ、蔑んだ報いだ」
修一は、ヴィクターを完膚なきまでに打ち倒した。秘宝の力を失ったヴィクターは、ただの傲慢な貴族に過ぎない。貴族連合の者たちも、手のひらを返したようにヴィクターを見捨て、孤立無援となったヴィクターは、その場にうずくまった。
「馬鹿な……私が、こんな下民に……」
ヴィクターの目に、絶望の色が浮かんだ。修一は、かつて自分をいじめた影山とヴィクターの姿を重ね合わせた。そして、心の中で呟いた。
――もう、二度と誰にも、俺と同じ思いはさせない。
この勝利は、修一にとっての復讐の完成であり、「ざまあ」展開の達成だった。貴族社会も、修一の力を認めざるを得なくなった。
修一は秘宝をリリアに返し、世界の均衡を守ることを約束した。リリアは、静かに修一に微笑んだ。
「ありがとう、円環の賢者。あなたは、この世界の運命を変えたわ」
セシリーは、修一の隣に寄り添い、その手を取った。
「修一さん、やったわね……!」
彼女の瞳には、尊敬と愛情が深く宿っていた。修一は、セシリーの手を強く握りしめた。
「ああ、セシリー。お前がいてくれたからだ。お前がいなかったら、俺はきっと、また過去に囚われたままだった」
二人の絆は、この戦いを通じてさらに深まった。修一は、セシリーに告げた。
「セシリー、一緒に、新しい未来を作ろう。このアクアリスで、俺たちの新しい円環を紡いでいこう」
セシリーは、満面の笑みで頷いた。