第2話 おしゃべりネコと売れないマンガ家
「む……んむぅ……」
(´ー∞ー` )
寝ているボクの顔に、柔らかいものが当たります。
何度か当たる、その控えめな重さを感じながら、徐々に目が覚め――
「はっ……! 今、何時ッ!?」
Σ(´・∞・`;)
時計を見ると、まだいつもの起床時間には早くて――
「なんだぁ、まだこんな時間じゃぁん……。二度寝、出来チャウじゃぁん」
(´=∞=` )
と、再び伏せて目をつむると、
「んぶるるぅぅっ」
「起きんのかと思ったら、起きひんのかーい」と鳴きながら、ボクの顔にお腹を行ったり来たり擦りつける「ぷにもふ」が。
「ニャーちゃん、まだ時間じゃないよ。もうすこし待ってて」
(´ー∞ー` )
目をつむったまま言うものの、「すりすり」は止みません。
「ニャーちゃん、いつも微妙に早いんだよぅ。腹時計、正確なんだけどちょっと早いの。毎日、毎食、ちょっと早いの」
(´ー∞ー`;)
すりすり。すりすり。
「起きるよー。もー。しょうがないやつめー」
(´・∞・`;)
起き上がったボクに、最後の「すりー」をして数歩前に出た「ぷにもふ」がヨガの猫のポーズをした後、振り返ります。
「はいはい。行くよ、ニャーちゃん」
(´・∞・` )
「アッ!」
我が家の同居猫「ニャーちゃん」。
本名「ワンレン・ボディコン・ネコヒロシ・ニャー」。
女の子です。
ニャーちゃんは「にゃ」とは鳴きません。
鳴けないのか、鳴かないのか、は分からないけれど、短く鳴くときは子音がなくて「アッ」になります。
長く鳴く時は「にゃーーー(長い)」「にゃ~ぅ~(あざとい)」子音が付きます。
「ゴハンはまだあげられないけど、お湯沸かす間にゴシゴシしてあげチャウ」
”(´・∞・` )
「ぐるぶぅぅ」
電気ケトルのスイッチを入れながらブラシを見せると、ドシーンと横倒しに倒れたニャーちゃんが、くねくねしながら右に左にと寝返りを打ちます。
ニャーちゃんはブラッシングが大好き。
毎朝ゴハンの前に、こうしてブラッシン…………もしかして、コレ込みで毎食早めに催促が入るのかも……。
いけない子だ。
「換毛期はホントに抜けるなぁ。いったいどこからこんなに出てくるんだぁ」
(´・∞・`;)
「んぶるにゃぅ……!」
「はいはい、ごめんごめん。続けますよー」
(´・∞・` )
ブラシは、あっという間に毛でびっしり。
毛のかたまりを取って、ゴシゴシ、またかたまりを取って、ゴシゴシ。
本当に、どこからこんなに出てくるんでしょう。
「あっ、お湯沸いた! ニャーちゃん、おしまいね」
”(´・∞・` )
「アッ!」
ニャーちゃんは、いつものクッションへ。
ボクは、センセーの朝ご飯の準備です。
センセーは起きがけの一杯はグイグイいきたい派(けど、ぬるいのは嫌)なので、沸かしたてのお湯は使いません。しばらく放置です。
魔法のランプのマークでおなじみのトースターに、パンをセット。
「朝はパンっ。パン、パパンっ。大きなお口でっ、パンを食べたら、お腹の底から力が湧くよっ。(セリフ)『いや、さすがにパンじゃ、そこまでは……。ご飯じゃないと力出ないっすわ』『それ……あなたの主観ですよね?』……朝はパンっ。パン、パパンっ」
”(´・∞・` )”
ちなみにボクは、ご飯じゃないと力出ません。
昨日ゆでておいた卵をつぶして、マヨで和えます。
パンが焼けたら、マーガリンを塗ります。マーガリン派です。
マヨたまごと、ハムをのせて出来上がりです。
「センセー! 朝です! 起きてくださーい!」
”(´・∞・` )”
寝室まで、わっせわっせ小走りしていくものの、センセーが起きるはずもなく……。
「よいしょ、よいしょ」
” \(´・∞・`;)/ ”
「ん……ここかな? ……もうちょい……よし……」
”(´・∞・` )”
ベッドによじ登ると、狙いを定めます。
「……スクリューチャウ・ダイヴ1080!!」
\(`・∞・´ )/
「……ぶぐ…ッ!」
今日も、スッキリお目覚めです。
「センセー、カフェオレですか? コーヒーですか?」
(´・∞ ・` )
「あー……コーヒーかな。昨日、遅かったくぁら……」
あくびをしながら寝ぼけまなこのセンセーを置いて、キッチンへ。
コーヒーと言っても、センセーはブラックが飲めません。
砂糖しっかり入れます。
甘いの、苦手なはずなのに。
甘味の奥に感じる苦味が良いのだとか。
砂糖が入っててもブラックと呼ぶらしいんですけど、どうなんでしょう。
ボクは、ミルクも砂糖もたっぷりです。
甘いは正義。
「あっ……ほら、センセー、パンくずこぼしてますよ? ちゃんとお皿使ってください」
(´・∞・`;)
「あとで掃除機かけるもん」
「パンくずみたいなゴミを吸った後は、すぐ捨てないとダメなんですっ。センセー、掃除機のゴミ捨てしないじゃないですかぁ」
(´ー∞ー`;)
「ゴミたまってからで、いいじゃん」
「ダメです。ゴミの中にはダニとかいて、バンくずが栄養になっちゃうじゃないですか。カビとか生えてもヤだし」
(`・∞・´;)
「チャウ吉は細かすぎ。掃除機のゴミ捨てした後で掃除機に掃除機かけるとか、キレイ星人じゃん」
「細かいのが意外と残るんですよ。掃除機かけるとすごくキレイになるんですっ。なんですか、キレイ星人って」
(`=∞=´;)
「ごちそーさまーっ」
「あっ……まったく、もう。掃除機かけといてくださいね」
(´・∞・`;)
「んー」
残ってたコーヒーを飲みながら返事をするセンセーを横目に、今度はニャーちゃんのゴハンの準備です。
「ニャーちゃーん! ゴハーン!」
(´・∞・` )
「にゃーーーーーーッ」
大きく、長く、鳴きながら走ってくるニャーちゃん。
尻尾を立てて、ゴハン皿を持つボクのまわりを歩き回ります。
「ゴハン食べる人ー」
”(´・∞・` )
「にゃーーーーッ」
「おすわりできるかなー?」
”(´・∞・` )
「にゃーーーーッ」
「できてないぞー。おすわりだぞー」
”(´・∞・` )
「にゃーーーーッ」
「できてないってば、おす…おすわりっ」
(´・∞・`;)
「にゃーーーーッ」
「だめっ」
(´・∞・` )
「ブップップ……」
文句を言いながら伏せをするニャーちゃん。
どうもゴハン前に元気に返事をするのが正解だと思っているフシが……。
「待て……」
(`・∞・´ )
「…………」
真剣なまなざしで、ボクを見上げるニャーちゃん。
「……よしっ!」
(`・∞・´ )
ゴハン皿を頭突きで割らんばかりの勢いで食べ始めるニャーちゃん。
「そんな、何も食べてない子みたいに……んもー」
(´・∞・`;)
ニャーちゃんは、「カリカリは飲み物」を地でいく、ゴハン丸飲み派です。
心配なので、大きめのゴハンも混ぜているんですが――大きいのだけ、ガリゴリッっと割って丸飲みするので効果があるのかどうか……。
あっという間に食べ終わると、尻尾を立てて、ボクに横腹をそっと当ててきます。
「食べたよ」の挨拶です。
「はいはい。ごちそう様ね」
”(´・∞・` )
腰をポンポン叩いてあげると、ニャーちゃんは窓際へ。
食後の毛づくろいは欠かしません。
満足気なニャーちゃんを見届けて、キッチンへ。
ボクのご飯の準備です。
「何にしよーかなぁー……。さすがに朝プリンは……」
”(´・∞・` )”
プリンは栄養剤ですが、腹持ちはしないので。
「朝から、納豆キムチっちゃおうかなぁ~」
”(´・∞・`*)”
「納豆キムチご飯」にしました。
しあわせご飯です。
安い口です。
せっかくなので、大葉をすこし刻んでアクセントに。
「チ……チーズも、ちょっと乗せちゃおうかな……」
ドキ(´・∞・`*)ドキ……
と、思いましたが断念しました。
安い口なので。朝なので。
「うまい……ッ、うますぎる……!」
(`・∞・´ )
十万石の味。
風が語りかけます。
「うまうま……うまうま……うま……」
(´・∞ ・` )
ついつい、冷蔵庫に視線が。
「まぁ……世の企業戦士たちも、朝から栄養ドリンクを一本ひっかけてから出社するって言いますしね」
(´・∞・` )
「何、その言い訳」
シャワーを浴びてタオルを頭に、出てきたセンセーがいつの間にか背後に。
「センセー……。あれです。今日一日の活力を得るために、栄養剤で元気をミラクルチャージしようかと」
(´・∞ ・`;)
「朝からプリン食べようとしてるだけでしょ?」
「否定はしません。元気をミラクルチャージするためです」
(`・∞ ・´;)
「朝からプリン……どうなのかなぁ~?」
「プリンは薬です……! 薬だから、カロリーゼロなんです……!」
(`・∞ ・´;)
「いっそ、清々しいけど…………ここは、ひとつ……取引きと、いこうじゃないか」
「お酒はダメですよ?」
(´・∞ ・` )
「なんでよっ! 『元気をチャージ』でしょ!」
「お仕事してくださいよー。あと、『ミラクルチャージ』です」
(´・∞ ・`;)
「仕事のためにも! 飲まないと手が震えて、描けないんだよぉ!」
「病院いってくださいよっ。そもそも、震えてないじゃないですか」
(´・∞ ・`;)
センセーは、マンガ家さんです。
売れてませんけど。
今は、イラストとかのお仕事を頂いて何とかやれています。
「んもー……ボクもプリン我慢するので、センセーもお仕事してきてください」
(´・∞ ・`;)
「あたしが仕事部屋いったら食べるつもりでしょ」
「………………食べませんよ……」
(´゜∞゜` )
「思いっきり食べるじゃん。……いや、こんな不毛なやりとりはやめにして、お互い素直に…」
「ダメですっ。センセー飲み始めたら長いんですからっ。お仕事してきてくださいっ」
(´・∞・`;)
「やぁだぁぁ……なんで、あたしだけぇ……」
「ボクもプリン我慢しますからっ。後で、食べてないか、数、確認してください。それなら、いいでしょ?」
(´・∞・`;)
「うあぁぁぁ……やだなぁぁ……」
センセーを引きずって仕事部屋に押し込んだ後で、再び冷蔵庫の前へ。
所詮、犬。
やはり我慢できずに、食べたこともあっさりバレてしまう――と、でも?
このチャウ吉。
こんなこともあろうかと、数合わせ用のプリンをあらかじめ用意してあるのです。
「これぞ、【備菓換冷の計】。テイィ~ン(銅鑼の音です)」
”(`ー∞ー´ )
栄養剤で元気をミラクルチャージしながら、スーパーのチラシをチェックします。
「えっ、安っ。なんでこんなに違…………あー……内容量違うじゃぁん」
(´=∞=`;)
たまに使われる手法です。
写真と値段だけ見てると騙されます。
「今日は、あんまりいいのないなぁ。でも、明日は三店舗回らないといけないし」
(´・∞・`;)
明日も、元気のミラクルチャージが必要ですね。
差し替え用の予備はまだあるのか……? あります。
このチャウ吉に、抜かりはありません。
「回復アイテムは多めに持っていくタイプ」なのです。
ニャーちゃんは、我が家で飼っていた、先代と今の子を合わせた感じになっております ”(´=∞=`*)