幼馴染の特権
「私さ、男にモテないんだよね」
「だよな」
「それだけ?」
「はぁ~」とため息を空に向け、幼馴染――天音咲花はあからさまに肩を落とす。
今になって始まったことではないのに、まだ諦めがついていないらしい。
「そんなお前に提案がある」
「なに」
「性転換ってのはどうだ。いっそ男として生まれ変わればいい。女にモテる男なんて人生得し放題じゃないか」
「はぁ? あんた相変わらずバカみたいなことしか言わないね。女として生まれた以上、その人生を歩みたいわけ。分かる? 私は今のままで、どうしたら男にモテるのかが重要なの」
ちょっと不機嫌になってしまった。睨まれたのは今日で三度目。
幼馴染という特権に甘えすぎた結果、俺はよく咲花にノンデリをかましてしまうのだ。
「悪い」
「まぁいいよ。男のあんたに言っても、ね。なによりあんたは非モテだから、分かんないよ」
と何気にディスリを入れてくるから、さっきのノンデリ発言は引いてイコールになった。これも咲花なりの気遣いなら、そりゃモテる。たとえ同性だけという縛りがあっても。
「こういうのはどうだ? 咲花が俺に女の子を紹介してくれよ、俺も咲花が気に入りそうな男を探してきて紹介するからさ」
「……その女ってのは、私が好きな女? あんたいいように利用しようとしてるんじゃない、それ? キモいって。嫌だよ、横流しにしたようでさ。
ってか、あんた男友達すらいないのにどうやって紹介してくれるつもり」
「うそうそ、冗談です。ごめんなさい」
「じゃぁ一発殴っとく」
せいやーの掛け声とともに、脇腹に拳が飛んでくる。なんともない。
「あーあ、もう面倒くさい。男なんてどーでもいいわ。考えたら男って野蛮だしバカばっかだし、別にいらね」
「あの、咲花さん。俺も一応男なんだが」
「え、あんたはノーカンよ。幼馴染の特権ね」
「それにあんたみたいな奴タイプでもない」と指差しながら、笑う。
「はい。そーっすか」とおどけてみるも、内心は複雑。
「…幼馴染の特権か……」
「ん、なんか言った?」
「なんも」
それは魔法のようで、とにかく都合がいい言葉だ。