妹
洗面所で手を洗った後、俺はリビングに向かった。
リビングのソファーでは一人の茶髪の少女がテレビを見て、楽しんでいる。
いたって普通……普通なのだが、見ているテレビが普通じゃない。
『キャアー!もう!やったわね!』
『いやん!この!』
テレビに流れているのは、水着姿の女の子たちがプールで遊んでいる映像。
その映像を見て、女の子―――我が妹、平穏命はニヤニヤと笑っている。
気持ち悪い笑みを浮かべているな。クレヨンし〇ちゃんかよ。
「あ!平兄、おかえり」
「ただいま、妹よ。またお姉さんの映像を見ているのか?」
「だって~……美人のお姉さんを見るのが好きなんだもん。特に顔がよくておっぱいとお尻が大きい人はいい」
「……男みたいな趣味しているな」
「私の夢はイケメンの男と美人のお姉さんに囲まれることだからね」
「男も囲むのかよ」
「そりゃあ、そうだよ。私……どっちでもいける感じだし」
キリッとしたキメ顔でかっこよく言う妹に、俺は呆れた。
まったく……相変わらずだな。
妹は物心つく頃からイケメンのお兄さんと美人のお姉さんが大好きだった。
明らかに普通じゃない。
まぁ普通じゃないからと言って、嫌いではない。
俺と命の仲は良くやっている。
ただ……妹が寝言で「いい男といい女を抱きたい!」とか言うからびっくりする。
絶対に転生者だよ。俺と同じく。
可愛い顔をしているけど、中身は絶対にエロいことが好きなおっさんかおばさんだよ。
「なぁ……お前ってもしかして前世の記憶とか」
「それはそうと平兄。平兄はどんな人がタイプ?」
「え?急になに?」
「いいから教えてよ~お兄たま~♪」
話を無理矢理変えられた感じはするけど……まぁいい。
どんな人がタイプ?
ん~……。
「あまりそういうのはないかな」
「またまた~」
「いや、冗談抜きで」
「え?マジ」
「マジ」
正直に言うと、俺はあまり恋愛には興味ない。
もちろん完全に興味がないわけじゃない。
俺だって男だ。
いい女と付き合いたいという気持ちはある。
ただ……恋愛よりも戦って活躍したいという気持ちのほうが大きい。
前世ではアクション系アニメばかり見ていて、ラブコメ系のアニメをあまり見ていなかった。
というか恋愛は俺には一番遠いものだと考えている。
恋愛する主人公はいいものかもしれない。
だけど俺は恋愛をするつもりはない。
というか諦めている。
俺はどんな敵だろうと倒す主人公になる。
それ以外は興味ない。
「おいおい、勿体ないぜブラザー。恋愛は人生を大きく変えるぜ?」
「例えそうでも俺には必要ない。俺が欲しいのは……強さだ」
「……平兄は…スレイヤーになるつもり?」
不安そうな顔をする命。
妹はどういうわけかスレイヤーを嫌っていた。
俺がスレイヤーにならないか、いつも心配している。
「……ならないから、そんな顔をするな」
俺は命の頭を軽くポンポンと撫でた。
「俺が強さを欲しているのは、カッコいいからだ。男の子だからついついヒーローみたいな強さに憧れてちゃうんだ」
「強くなったら……どうするの?」
「そうだな。強くなったら……可愛い妹に悪戯しちゃうぞ!」
俺は命の脇をくすぐった。
すると命は笑い出す。
「アハハハ!やめて、くすぐったいよ」
「心配するな、妹よ。俺はスレイヤーにならない。ただ……憧れているものがあるからそれを目指しているだけだ」
「本当?」
「ああ。心配しなくても家族のもとからは離れないよ」
「約束だよ」
「約束だ」
俺と妹は指切りげんまんをした。
読んでくれてありがとうございます。
気に入ったらブックマークとポイントをお願いします。