家族
「ああ……今日も疲れた~」
夕方になるまでスキルを使って鍛錬していた俺は家に向かって、歩いていた。
スキルを使うと、筋トレや走り込み以上に疲れるからきついんだよな~。
だけど主人公になるためには努力は必要だ。
ん?なんで主人公になりたいかって?
そんなの簡単だよ。
憧れているんだ。前世から。
人は子供のころからヒーローになりたい、警察官になりたい。
誰もがそういう憧れを持つ。
俺は昔からその憧れがあって、大人になっても主人公になった自分を想像していた。
強い敵を倒し、仲間を作り、英雄になる。
そんなかっこいい憧れが……忘れることができなかった。
前世ではそういうことはできないと分かってしまったけど、この世界は違う。
スキルという特殊能力を持って生まれ、ドラゴンという倒していい敵も存在する。
この世界なら努力すれば、主人公になれるかもしれない。
目標はどんな敵も無傷で倒す最強の主人公。
子供みたいな夢かもしれないけど、叶えたい。
なってやるよ。理想の主人公に。
「ただいま~」
家に到着した俺は扉を開けて、靴を脱ごうとした。
その時、頭に重い衝撃を受け、俺は思わず「ぐへっ!」と声を漏らす。
イッタ……ちょ、なに!?
「遅かったじゃない。平子」
こ、この声は!
俺は恐る恐る顔を上げると、そこには……ゴリラがいたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!アイアンクローするのはやめて!!
「誰がゴリラだ。クソガキ」
「心の声を読まないで母ちゃん!!あと痛い、痛いって!」
俺にアイアンクローを喰らわせているのは、短い黒髪を伸ばした和風美人の若い女性—――平穏流子。
顔は美人なんだが、首から下がボディービルダーみたいな身体しているからほとんどゴリラみたいな感じいいいいいいいいいいいたたたたたたたたたたたたたたた!!力を強くするのやめてください!お願いします!!
「なんでアタシがこんなことをしているか分かっているか?」
「な、なんで?ちゃんと時間通り、帰ってきたけど」
「今日も鍛錬していただろう。それもスキルを使って」
「そうだけどいたたたたたたたたたたたた!!」
母ちゃんは指にさらに力を強くする。
痛い痛い!頭が割れる!割れちゃうから!!
「子供らしい遊びをしろと言っているだろうが!」
「別にいいじゃん。鍛えるくらい」
「ダメに決まっているだろうが!子供は子供らしくゲームするなり、テレビ見るなり、友達と遊んだりしてろ!」
「そんな怒んないでよ!」
クッソ……なんでこんな母ちゃんの息子に生まれてしまったんだ。
普通、優しい母親のところに生まれるものだろう。異世界転生は。
なんでこんな猛獣がマッハで逃げるようなゴリラの息子なんかにいいいいいいいいいいいいいいたたたたたたたたたたたたた!!
死ぬ!マジで死ぬ!!
「まぁまぁ流子さん。それぐらいに」
俺が母親にアイアンクローをされていた時、救世主がやってきた。
「優」
「父ちゃん!」
眼鏡を掛けた優しそうな男性—――平穏優は俺達に近付いた。
やった助かった!父ちゃん最高!!
「流子さん。そろそろ放してあげなよ」
「優。だけどこいつ」
「お願いだから許してやって。ね」
「……分かった」
ようやくアイアンクローから解放された俺は、父ちゃんに感謝した。
「ありがとう。父ちゃん」
「いいんだよ。だけど平子。お母さんが怒るのも仕方ないんだよ。だって平子には普通の人として暮らしてほしいんだから」
「……分かってるよ」
母ちゃんと父ちゃんが言いたいことはよく分かる。
この世界はドラゴンという地球外生命体と戦っているから、平穏ではない。
強力なスキルを持って生まれた人はスレイヤーというドラゴンを倒す戦士になることが決まっている。
だが両親は俺にスレイヤーにはならず、普通の人として生きてほしいと願っている。
分かっているよ。そんなことは……。
「心配しなくてもスレイヤーにはならないよ」
「本当かい?」
「うん。ただ憧れているものがあるから鍛錬しているだけ」
「そう……ならいいけど」
「じゃあ俺……手を洗ってくるから」
そう言って俺は洗面所に向かった。
スレイヤーにはならない。それは嘘じゃない。
だが……ドラゴンとは戦わないわけじゃない。
俺が目指す主人公は正体を隠して無双する……そんな感じのになりたいんだ。
だからこれからも鍛錬は続けるし、やめない。
まぁスレイヤー協会に見つかると、強制的にスレイヤーにさせられるかもしれないからバレないようにしないと。
読んでくれてありがとうございます。
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