モブ
「はぁ……はぁ……」
俺―――平穏平子は片膝をついて、口から荒い息を漏らしていた。
機械の身体はギギギと嫌な音を立てており、火花が散っている。
まったく……無理をしすぎたな。
「流石に……限界が来たか」
俺はゆっくりと顔を上げて、視線を向ける。空を飛ぶ無数の化物に。
黒い鱗に覆われた大きな身体。
鋭利な爪に禍々しい翼。
そしてギョロギョロと動く不気味な目。
黒い竜だ。
その竜―――ドラゴンたちは俺のことを睨みつけている。
こりゃあ怒っているよな。
そりゃあそうか……だって、ドラゴンたちの仲間の半分以上は……俺が殺したんだから。
今、地面には無数のドラゴンたちが血を流しながら転がっているし。
死んだ仲間を見たら、そりゃあ怒るよな。ハハハ。
「さて……きついけど。もうちょっと頑張りますか」
俺は機械の左腕を緑色に輝く大きな剣へと変形させ、構える。
「行くぜ!」
俺は背中から生えた機械の翼に搭載されたスラスターから炎を噴射し、ドラゴンたちに突撃した。
弾丸の如き速さで迫りくる俺に向かって、ドラゴンたちは黒い炎を吐き出す。
黒い炎は俺に直撃する。
だが俺の身体を覆う装甲はこれぐらいの炎では溶けない!
「ハァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
俺は剣の腕を振るう、一匹のドラゴンの首を斬り飛ばす。
蒼い血が切断面から噴き出し、俺の機械の身体に掛かる。
血の臭いとガソリンのような臭いが鼻を刺激した。
「うらあああああああああああああああ!!」
蒼い血を浴びながら、俺は剣を振るい続けた。
ドラゴンの首を斬り飛ばし、胸に刺突を放ち、頭を真っ二つに切断した。
だがドラゴンたちはまだ襲い掛かる。
ドラゴンたちは俺の剣の左腕に噛みついた。
しかし……これぐらいで俺は止められない!
「舐めんな!!」
俺は機械の右腕を大きな銃へと変形させ、銃口を噛みついているドラゴンの顔に向ける。
「吹っ飛べ!」
銃口から弾丸が放たれ、ドラゴンの頭を吹き飛ばす。
脳みそと蒼い血が俺の身体に飛び散る。
「かかってこい!!」
俺は剣の腕でドラゴンを切り裂き、銃の腕でドラゴンの身体を撃ち抜いた。
次々とドラゴンたちは命を堕とし、地面に向かって落ちていく。
俺は戦いをやめなかった。
機械の身体から火花が飛び散ろうと、剣と銃がボロボロになろうと、痛みを感じようと、止まらない。
止まるわけにはいかない!
ここで止まったら、俺は!!
「モブを……舐めんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
憧れたものにはなれなかった。
憧れたものになれないと分かった。
どんだけ努力しても……うまくいかない。
俺は一般人だ。特別な存在にはなれない。
ならせめて最高のモブとして戦って死のう。
胸が張れる……かっこいいモブになって……笑って死のう。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺はドラゴンを殺しながら、思い出す。
今までのことを。
そして……叶わない夢を追いかけていた自分のことを。
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