起
・放課後・
雪子はロッカーから紙袋を取り出して帰宅する準備をしていた。
「あれ......カバンに入りそうにないですね...仕方ない、抱えて帰りましょう」
そう言って雪子は紙袋を抱えて足を進めた。
「早く帰りましょう...流石に重過ぎます...」
校門に辿り着く頃には腕が痺れかけふらふらとしていた。
いつも使っているバスで帰ろうと学校近くのバス停で待っていると『ピコポン☆』と、スマホから音がした。
「ふえ?」スマホを見るとそこには一通のメールが入ってた。
[dear雪子へ 急ぎで悪いんだけど今日中に型紙作んなきゃならないのに模造紙切らしちゃって...
視察も兼ねて街で模造紙買ってきて!お願い!
from雛菊(お母さん)]
「こ、これは大変です...!重いですけどお店のためです!買いに行かないと!」
お店のため。
雪子は長年続く老舗呉服店『呉服おとなし』の娘である。
家柄のせいか雪子は言葉遣いは丁寧ではあるが若干古めかしい表現をしたり、世間で流行っているものが分からなかったりと浮世に慣れていない事がありよく「古い」と言われていた。
それがトラウマとなり雪子なりの「古くない、つまり今風」を勉強した。
そう、猛勉強したのだ。
その結果
「えっと、模造紙が売っているお店は...」と、言いながら雪子はスマホを駆使し始めた。
素人には何をやっているか分からない画面を出したり、指飛んじゃうよ!?と、思わせるスピードで文字を打ち「あ、いつも降りる所から3つ目の街にバス停から15分の所で30枚492円で売ってるお店があります!」と、一瞬で模造紙が売っている、それも安価で売っている場所を見つけ出した。
雪子は雪子のトラウマをバネにして今の様なスマホの操作は勿論、パソコン、機械類全般の操作及び内情が詳しくなったのである。
ここまで辿り着くのにどれほどの努力をしたのか計り知れない。
しかし、機械類には詳しくても「世間で流行っている事」には詳しくなっていないので、結局浮世離れしたままなのは変わらないのであった。