幕開け
───太陽が語りかけてくる───
そんな気持ちを、その時味わったのです。
・歩鳥山高校1年L組教室・
5月も下旬友達などとも仲良くなりそれぞれ気の合う子同士で固まり始める時期。
そんな中、窓際にポツンと1人で本を読んでいる女の子がいた。
そう、少女はいつも1人でいた。
周りの喧騒を物ともせず彼女は物語に夢中になっていた。
[運命なんてねじ伏せて見せる!さぁ私と共に行こう───]
『素敵なお話でした...』
物語の余韻に浸っていると少女に近づいた影が落ちた。
「ねぇ?本好きなの?」
「え...?」
予想だにしない出来事に少女は動揺した。
「えっと、あの...」
「ごめんごめん、驚かせちゃったね!いつも1人でいるからさ...ごめんね!声かけたくなっちゃって!」
「い、いえ、すみません...」
「いいのいいの、謝らないで...ってこの本のキャラクターカッコいいね!金髪碧眼!うんうん!良いとこついてるね〜!...あっ、カッコいいといえば...」
グイグイと食い気味に来られて彼女の脳内は処理が仕切れていない。
「AKABOSHIって知ってる?」
「...?」
「...え?その反応もしかしてAKABOSHI知らないの!?今をときめく超スーパーイケメンアイドルだよ!?!?」
元気そうな女子の声が教室中に響き渡る。
なんとか落ち着きを取り戻した少女は答えた。
「あ...ぼし...でしたっけ?すみません、アイドル...の意味は分かるんですけど、その...わかりません...」
おっとりとした口調の可愛らしい声が不安そうに返事をする。
「マジかぁAKABOSHIも知らないのか...どんだけ世間知らずなの!?...わかった!ちょっとこれ見た方がいいよ!」
そう言って広辞苑が2冊くらい入ってそうな紙袋をドンっと机の上に置いた。
「こ、これは?」
「AKABOSHIのライブ円盤に、特集雑誌それからグッズにそれからetc...とりあえず!これ見て勉強して!」
「えと、」
「い・い・か・ら・み・て!!!
4人組の...超スーパーイケメンアイドルさいっっっっこうだから!!!」
「は、はい...」
「よろしい!......あ、呼ばれたからいくね
またお話ししようね!音無さん!」
「は、はぁ...」
音無さん と、呼ばれた少女は渡された紙袋をじっと見つめた。
まーた、布教?あんたも物好きだねー
音無?さんだっけ?あの子変わってるよねー
よく声かけたよねーあの子なんか古くない?
あー、わかる大和撫子気取ってんの?って感じー
もー!どうしても、布教したくなったの!あたしの勝手でしょー
そんな会話が少女...音無の耳に入った。
『私に話しかけてくれたあの子も...変わり者扱いされてしまうんですね...』
再び紙袋に目を落とした。
「...汚したりすると申し訳ないですから、ロッカーに入れに行きましょう...
...!意外と重いですね...」
そう言って少女はロッカーまで足を運びに行った。
焦げ茶色の腰あたりまで伸びた髪に、白いカチューシャ、少し赤みがかったスピネル石色のような垂れ目に左目の下の泣きぼくろ。
どこにでもいそうな大人しめな女の子、音無雪子。
これは、そんなどこにでもいそうな女の子が輝きを見つけ歩んで行く話───