第8話~本質~
「瞬間移動!からの電刃連鎖!」
ー ドォォォォォン
「深淵より、湧き出る水野螺旋よ!きらめく波紋を宿し力、我が手に集え!地獄水魔!」
ー ズドォォォォン
「凄い威力ですねイザベラ...。さすが魔導士と言ったところでしょうか。それに陽介だって覚えたての魔術師とは思えない火力を持ってますね...。あれは恭介が教えたんですよね?」
「あぁ...。実はな~柊。昨日陽介と二人でご飯食べてたんだ。その時に俺が酔っ払って教えたんだけどよ~。なんか上手くいったみてぇだな。ハッハッハッハー!」
「あれ酔っ払って教えたやつなんですね...。でも今まで火力はエリスとイザベラに頼りきりだったものなので、これで更に戦いやすくなりましたね...。」
「俺たちは基本が後方支援がメインの術者だからな。今も少し離れた丘の上で傍観してるくらいだからなぁ...。」
「私は回復術者で恭介は精神・空間系術者ですからね...。恭介は精神干渉してバフ供給とか結界組んだりとかはできますけど...。とか言ってたらみんな帰ってきましたね...。」
「リーダー!碧依!見てくれてましたか?!瞬間移動と電刃連鎖の組み合わせを連続で使えるようになってきました。今日の敵では光の大太刀を使う機会がなかったんで試してみたかったんですけど剣を抜くこともなかったです...。」
「ちゃんと見てたぞ陽介~!ちゃっかりコンボ決めちゃって~。お前格闘ゲーム好きだろ?w」
「マジで格ゲー意識して戦ってましたよ!w」
「陽介の攻撃力もなかなかのモノでしたね。詠唱せずに使える小魔法を駆使してそれに瞬間移動を組み合わせての戦いもいいものでしたよ!」
「陽介の攻撃はテンポもよくて一緒に戦っててもやりやすかったわ。私の地獄水魔も連携の中で使いやすい感じだったわ。」
ー 俺めっちゃ褒められてる...。
ー なんかめっちゃ嬉しいし気分上がるわ~...。
久しぶりに褒められて俺はどこか気持ちの悪い笑顔を浮かべていた。
「ただ課題も山積みだから陽介ももっと鍛錬が必要だな!また明日からの依頼もしっかりこなそう!」
俺は褒められて気分よくニヤニヤしながら冒険者ギルドへ帰った。
「陽介!ちょっと時間ありまする?」
「魔法の神官...。どうかなさいました?」
「実は西の方の大陸の教か...冒険者ギルドがあなたの転生についての情報をつかんだって言う情報が入ってきたわ~。これが何を意味するかお分かり~?」
ー この人何言ってんだ...。
ー ただ情報をつかんだってだけだけだろ...。
「その顔はわかってないってことね...。端的に説明するとその冒険者ギルドがここに宣戦布告する可能性があるってわけよ。つまり、あなたの存在を巡った争いが起こるかもしれないってわけ。最初の時にも言ったはずよ。あなたは世界でも十数人の存在でその利権を巡り争いが起きる可能性があるってことを。私はここのリーダーであるから貴方の身を守る義務があるわ。」
「だからつまり...どういうことだ...?」
「あなたでもわかるようにすごく簡単に言うわ。あなたの存在を守るためにここにいる人員を総動員することになるわ。それはここの威厳を懸けた戦いにもなる。貴方の存在は貴方が強大な術者になるまで公言は避けたいところなの。だから成長のためにアルザードで依頼をこなしているうちはいいんだけれど...。とにかくここから無意味に出てはいけないということだわ。」
「な、なるほど...。」
ー 俺の存在はギルド間のパワーバランスを崩しかねない存在というのか...。
俺は自分の中で現状を整理してみた。
ー 俺はこの世界に転生して双方技術者という能力ということが分かり、魔法の神官に言われた通り俺を救ってくれた美女:柊碧依のいるギルド『アルザード』に所属した。リーダー:葉山恭介の教えにより様々な技を習得し、大きく成長させようとしているのはいいが、その双方技術者という特殊な能力が原因でほかの冒険者ギルドに攻め込まれる恐れがあり、それによりギルド間のパワーバランスを崩壊させかねないから立派に成長するまであまり出しゃばりすぎるなよという警告を魔法の神官から受けたということか...。
ー 俺の存在ひとつで世界はいろんな方向へ傾いていくということなのだろうか...。
ー そもそもなんで異能の力と魔術が同時に使える双方技術者が誕生したんだ...。
ー それもこの世界に十数人という少なさで...。
ー しかもその存在をギルドを上げて守らなければならないとは一体なんでなんだ...。
タッタッタ...ドカァァン!!
「痛てて...。大丈夫ですか...?」
目の前には修道服に身を包んだ綺麗な女性が倒れていた。
恐らくこの女性とぶつかったのであろう。
俺に全く痛みはないが修道服というところにどこか違和感を覚えた。
「いえ...こちらこそすいません...。少し焦ってしまって...。」
「なんかこれからあるんですか?」
「えぇ。今日の礼拝の時間が迫っておりますので...。すいません!遅れそうなので失礼しますね。ヒャァァァァ!」
ー なんか...自由な人...だな...。
ー ていうか修道服を着た人が結構入口の方に向かってってるけど何してんだ...?
颯爽と走り抜ける修道服を着た人の少し後ろを追った後で俺はある光景を目の当たりにした。
「...十字架...なのか...。」
見た感じ縦8メートル、幅5メートルくらいの大きさだろうか。
かなりの大きさであるのは確かだ。
ー 俺の中の認識では十字架があるイコール教会だ。
よく考えれば最初から教会という感じはたっぷりだった。
冒険者ギルドとは思えない綺麗で厳かな見た目の建物に、リーダーのランクは神官である。
つまり魔法の神官は文字通り、魔術に関する神の力の系譜を持つ者ということだ。
そうすれば双方技術者を巡った争いが起きるのもおかしくはない。
昔から国家間の戦争が起きる原因の一つとして宗教的な考え方の違いというものもある。
歴史は必ず繰り返して起こるものである。
今まで保たれていた均衡が突如として崩壊するとき、それは開戦の時を意味するのであるということだ。
そしてそのトリガー的存在が双方技術者であり、佐藤陽介自身であるということだ。
それなら魔法の神官の言っていたことも理解できる。
いかにして俺の存在を隠し、守りながら俺を成長させれるか。
また、守るべきものは俺だけではない。
教会を治めるものである以上、この地域一帯すべてを守り抜かなければならないという義務もある。
少し魔法の神官の言葉が足りないことや語彙力のなさ、ここが教会であることを隠していたことが原因で俺に上手く伝えられなかったのだろうとは思うが、この人には詳細は分からないが何か凄い能力があることが分かった。
俺は自分が置かれている状況を理解した。
外をなるべく出歩いてはいけないし、勝手な行動は起こしてはいけない。
すべてが監視の中の生活となるのであった。
部屋を一歩出れば、完全武装した傭兵と行動を共にしなければならないし、教会の中では常に魔法の神官と一緒であり、外へ出るときはアルザードのメンバーが必ず一緒である。
ー そもそもアルザードって何なんだ...。
ここが冒険者ギルドではなく教会であるという事実を知った以上、アルザードは冒険者の集まるギルドではないということだ。
ただ、アルザードの活動は俺の知る限り郊外に出たモンスターや害のある生物の排除であり、それ以外のことは全くの無知である。
みんなが結構この教会から近いところには住んでいて、いつでも集まれるような位置関係にいるのもわかってはいるが、緊急で集まったことは一度もない。
と考えるとアルザードも当然魔法の神官とグルだったということではないか。
俺が転生したころには双方技術者が転生してきたということを知っていて、それを柊に連れてこさせたとも考えられる。
そして、アルザードのメンバーにもここが冒険者ギルドであるという説明をさせて、余計なことに巻き込まないようにと魔法の神官が画策したのではないだろうか。
俺は今までにないくらい考え事をしたため少し頭が痛くなってそのままベッドに倒れこんでしまった。
ご覧いただきありがとうございます。こちらの作品は不定期更新となっております。
また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。