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転生魔術師の覇道譚  作者: 蒼翔ユウキ
第三章~魂と過去、生命編~
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第53話~師匠と弟子~

 マリアーノと恭介が難しい話をしていた時、春香はまたいつもの場所で鍛錬に励んでいた。

 術のレベルが上がっていくとともにマリアーノのかけた可視化魔法の効果は確実に感じられなくなっていったが、春香はそれが成長の証だと自らに言い聞かせて着実にレベルアップしていった。


 ー 今なら私も自分の力で自由になれるかも...。

 そう春香は何度か思い、その度に記憶の中へと進もうとしたが未だに進展がないまま時間が過ぎていった。

 それでもこの期間の間に見つけたものがあった。

 それは『ふたつの意味』だ。

 自分自身と向き合うことが精神系魔術の第一歩であることをはじめに明かされていたこともあって、特に自分自身に親身に向き合ってきたのがこの期間だった。

 ー 生きているのならばあんなことにチャレンジしてみたい。生きているのならば自分の思い通りに生きてみたい。

 そんな感情が今まで献身的で自分は二の次だった春香にもきっと芽生えてきたのだろうか。


 鍛錬を積んで、自分と向き合って、また鍛錬を積む、その繰り返しの毎日を送っていた春香にとっては、自分自身のエゴを前面に出せるようになっていくことはきっといいことなのだろう。

 春香は自分と向き合う際には必ず空を見上げている。

 そこにはどんな意味が隠されているかは分からないが、春香なりの思いや意識の顕れである。




 「また上見て考えてるね~。」

 のほほんとした声で春香に話しかけたのは、ひたすら恭介相手に喋りたおしてすごくやり切った感を前面に出しているマリアーノだった。

 その横には言葉の量に圧倒されて頭がパンクしている恭介の姿があった。

 そのまますっきりとした顔のマリアーノが言葉を続ける。

 「どう?何か見つかった?」

 するとどこか遥か彼方を見つめているような表情をしている春香が答えた。

 「見つかった...、かな...。多分...。」

 「なんか歯切れが悪いわね...。きっと何か引っかかってるんじゃないの?普段理路整然としている貴女ならそんな答え出ないはずよ...。」

 「それは...。」

 上を見ていた春香が言葉に詰まって俯いた。

 さらにそれを見たマリアーノが問い詰めるように春香に語りだした。

 「まだ自分の心に正直になれてないんじゃないかしら。それとも失敗でも恐れているの?一度きりの人生だから悔いのないように歩んでいきたいのはみんな一緒。でもね、挑戦する権利を与えられるのはごく一部の人間だけなの。例えばオリンピックで金メダルを取るって言う目標があるとするじゃん。でもそれに挑戦できるチャンスを貰ったのはその競技をやっている中の最上層のみなの。そもそもその土俵にすら立てない人だって大勢いるのよ。今の貴女は現世に戻るって言う挑戦する権利を得ている人間なの。なら自分の思うがままに、自分の心に忠実に挑めばいいじゃない。失敗したって誰も怒らない、誰もそんなことで見離したりはしない。もっと仲間を、そして自分を信じることを忘れないでちょうだい...。そして、何に悩んでいるのかしら...?」

 マリアーノのこの言葉を聞いた春香は顔を上げてフッ一息吐いてから自分の思いを語りはじめた。

 「私には叶えたい夢がある。それはもう一度みんなで笑いあってのんびりと生きていきたいって夢。でもこの世界では争いが絶えなくて...。私の一番の想いを叶えるには正直まだ時間がかかり過ぎるかなって...。でもこの世界で築き上げたコミュニティを手放すのは争いよりももっと怖いこと...。もし別れもせずにこの世界を離れることになったらそれはそれできっと後悔するし...。それに向こうの世界では私がいなくなってからどれだけという年月が経っているし、何がどう変わっているかもわからない...。私の居場所なんてどこにもないのかもしれない。毎日こうやって空を見つめて自分の居場所を探して、本当にこれで私は幸せになれるのかって...。もう一回戦士に戻ってこの世界を私の手で私色に染め上げるって選択もできるなって...。色々考えてたらいつも芝生(ここ)で...。」

 マリアーノは頷きながらじっくりと春香の話を聞いていた。


 「要するに何をするにも怖いってことよね...。分かるわ。私にはそんな経験記憶にないけど、同じ立場だったらきっと同じように悩んでるはずよ。」

 マリアーノがすかさず春香のことをフォローする言葉を投げかけた。

 また、一度仲間に会って胸中を打ち明けるべきだとも話して、春香の気持ちの部分からまた新たなアプローチをかけていこうと模索していた。



 そうして一度芝生を離れて教会へと戻っていった三人だった。



 教会へ戻ると陽介や柊など、エクスパンドライズでは比較的春香の近くにいた人物がそろっていた。

 ただ、特にマリアーノが呼びかけたとかそういうわけではなく、普段からこの場所に集まってゲームに会話にと交流していたようだ。

 春香が教会から旅立って(?)から1か月以上の月日が流れていたが、以前とは見違えるほどの活気に満ち溢れていた。

 暫くの間、平穏な日々がこのエクスパンドライズやその周辺には訪れていたことで、街全体が活気づいていたが、春香は遠く離れた地へいた訳だから当然知ることもなかった。

 マリアーノから街や人々の様子が語られることも少なかったのが、春香がギャップを感じた大きな要因でもあった。


 しかし、春香は自分の視野がいかに小さくなっていたか、ということにこの町を見て感じていた。

 ー 自分のことしか考えられていなかったようね...。

 ただマリアーノは春香に無駄な情報を敢えて与えないようにもしていた。

 各々の想いが交差し、入れ違うこともやはり少なくはないのだ。


 春香が雰囲気の変わった街に心を躍らせていると、小走りで陽介がやってきた。

 「春香さん!久しぶりです!」

 元気な挨拶をしてきた陽介は、なんだか以前壁の前であった時よりも幾分も楽しんでいるように春香には映って見えた。

 また、出会ったころとは違った少年心を前面に押し出してくる陽介に対して、少し成長を感じているところもあった。

 あれだけ落ち込んでいた気分も、これだけ明るい人と街に影響して少しだけ前を向けたような気がした春香だった。

 「えぇ、久しぶりね...。」

 ただ、その声色はやはり心情を隠すことはできずに、明らかに何かを抱えているような、不安や迷いが前面に出ているような感じがした。

 それはいつもなら気付くことのない陽介ですら何かを察するような、そんなような落ち込みようで、それまで陽介に刻まれた毅然としている頼れるお姉さんからは程遠い姿であった。


 「春香さん、どうかした...の...?」

 陽介はなるべく気分を害さないようにと恐る恐る尋ねた。

 さっきまで元気印のような存在だった陽介が、真面目に心配そうな顔をして聞いているのを見ていたマリアーノが、話しやすいようにと教会の奥の部屋へと連れて行って二人きりにした。


 少しどんよりとした部屋の空気の中、陽介は春香の顔色を窺うことしかできなかった。

 そこにはどちらも話だしずらいような雰囲気が漂っていた。

 春香は自分がこの重たい雰囲気を持ち込んでしまったことを後悔しながらも、陽介に話しかけてほしくてジッと待っていた。

 きっと自分から話し出すと陽介にすべてを見抜かれそうになるくらい弱いところを見せかねないから、あわよくば世間話とかで場を和ませてくれないかとも春香は思っていた。

 ただ、そんなこと気付けるほど陽介の勘は冴えていなかった。

 どちらも無言で相手の様子を窺いながらしばらくの間過ごしていた。


 そうして無言のままおよそ5分が経過した後、陽介がとうとう口を開いた。

 「春香さんは今、何を思ってますか...?俺は何で春香さんが帰ってきたかよく分かんないし...。でも何か嫌なことでもあったかな~とかは分かった。きっと魔法の神官(マジックプリースト)がここに押し込んだのもきっとあんまり聞かれたくないことがあったから...。俺じゃ話したくないですか...?」

 「そ、そう言うわけではない...。貴方を拒絶したりはしない...。」

 陽介が不安になるようなことにはすぐ否定をいれたが、それ以上に言いたいことが言えずにいた。

 それは今まで師匠として陽介に接してきた以上、弱いところは見せられないという感情と陽介の前では憧れの存在でなくてはならないというプライドとが自分の中で押し寄せてきた所為であった。

 自分よりもレベルが低い人物に迷いや葛藤を打ち明けるということは戦士として一人前でないことを指すこの世界では、実力者であるほどそれを抱えて生きていかなければならないという。

 そういった世の不条理がまた春香自身を苦しめていくものでもあるのだ。


 無の空間に耐えきれなかったのか気を利かせたのかハ分からないが、陽介が春香のいなかった日常について色々語っていた。

 しかしそれが春香の頭に入ることはなく、耳から耳へと流れていった。

 春香の中ではどうやって打ち明けようか、それしかなかった。


 ちなみにマリアーノは外から聞いているが、こんなに暗い雰囲気になるとは思っておらず、陽介に普段の会話のような感覚で話すものだと思っていた為、すごく心配になり、連れてこない方がよかったのではないかとも思っていた。


 陽介が長々と話している時に春香が急に話し始めた。

 「ねぇ...。ちょっといいかしら...。」

 急に声を出した春香にびっくりした陽介は思わず横に飛び跳ねるように動いた。

 「今日私がここにきた理由(わけ)を話すわ。」

 そう言うと春香が話を進めていった。

 「私さ、マリアーノ様に修行つけてもらってしばらく経つじゃない?それはさ、予めわかってたんだけどやっぱり難しいものでさ...。幾つもの自分の過去と向き合って、段階を踏むためにどれだけって鍛錬も積んだけど、正直何の為にやってるのかって、分かんなくなってきてさ...。最初こそ自分の野望だとかこれからの人の希望になりたいだとか息巻いていたけど、結局今の自分を守りたいし...。もし現世に戻れたとしてもそれが本当に私にとって幸せなのかなとか、今のこのコミュニティを自分の手でぶち壊して行くほどの自信がないって言うか...。前も話したかもしれないけど何かを成功させるってことは何かを手放すってことなのかなって...。それが回りまわって私の幸せを手放すことになるんじゃないかって思うとやっぱり怖くてさ...。そうしていたらマリアーノ様が背を押してくれて...。」

 椅子の上で体育座りしながら俯いて話す春香の表情はやはり無に近い負の感情が溢れていた。

 陽介は特に理解したわけではないが、何となく自分の思いを伝えた。

 「やっぱり怖いものってあるよね...。俺、春香さんって完璧だし理路整然としてて特に不安とか悩みとかって感じないもんだって思ってて少し怖いなぁって思ってた。でもこうやって思いを聞いて、やっぱ人間なんだなぁって。全てが完璧なんでそんな人やっぱどこにも存在しないよね...。俺、勇気もらいました!」

 何とか励ましを入れようとした陽介の言葉はやはりどこか様子を窺っているような口ぶりだった。

 ただ春香は陽介の言葉を聞いて何となくだが自分の本当の思いを語ろうと思った。

 「そうよ...。私は完璧なんかじゃないわ...。ただ師匠である以上貴方の前ではそんな姿見せられないって思っていたわ...。もちろん私も人だし負の感情だってもちろん在る。精神修行の第一歩はその負の感情に如何に立ち向かうか...、きっとそれを図っていたんでしょうね...。でもここに来てようやく気付いたの。世界を変えるのは誰でもできるけど私を変えられるのは私だけなんだって...。久しぶりに見たエクスパンドライズの地は凄く変化して見えた。もちろん外見的なところもだけど、それ以上に内面的なところが全然違うなって...。それは私以外のみんなが創りあげたもの。私がいなくてもこの街は進んでいく。少なくともマリアーノ様(あの人)がいる限りね。もちろんさっきも言ったけどこの世界を離れてまた一からのスタートになるのは凄く不安でいっぱい。でもやっぱりやれることはやっとかないと、それはきっと私じゃないんだって思うの...。」

 そう語る春香の顔は先ほどとは違い前を向いていて、目には涙を浮かべながら決意を伝えた。

 その様子を見ていた陽介も自分の想いを春香に伝えた。

 「俺は春香さんの決めたことに反対はしません...。でも寂しいとは思う。だって俺の、大事な"師匠"なんだから...。でも旅立ちは応援しなくちゃ...。最後まで俺は弟子らしく師匠を送り出す、それこそが最高の恩返しだと...。」

 やはり別れの時は誰しも辛いものだ。

 涙ながらにも陽介は立派に春香に思いの丈をぶつけた。


 振り返れば二人が出会ったのは陽介がマリアーノに連れられて修行へと勤しむ為に訪れたインテグラリッシュ王国の中、大きな背中と圧倒的なオーラに魅入られたのが始まりだった。

 同じ双方技術者(ダブルスキル)とは言っても能力自体は全く別物だった陽介をある程度戦えるまでに育て上げた恩師で、フロストウィングを凌ぐほどの実力を手に入れられたのも春香未来という人物の功績は大きい。

 さらに春香は座学にも力を入れていたことで、より幅広い戦い方を選べるようになったのもそのおかげなのである。

 皇との戦いやハピダルとの戦いでようやく陽介は春香に認められるような存在になったのも記憶に新しい。

 そんな春香に想いを馳せていた陽介が春香に今思うことはただ一つだった。


 ー いつだって最後は我が儘であれ。


 ということだ。

 それは正義だとかそういう類のものと同じで、最後に決めるのはいつだって自分なのだから、自分のエゴにもっと忠実にいようという気持ちの顕れなのだ。

 負の感情でこの世界が成り立っているならば自己中心的な感情が渦巻いていてもいいじゃないか。

 エゴこそが生きる意味で、それを失った時が人が人として消える時なのだから。

 幸せになりたいだとか、人を幸せにしたいだとか、この世界を守りたいだって、あのハンバーグステーキが食べたいだって全部自分のエゴなわけで、それが生きる意味なのだから。


 ただ陽介は口に出せないまま、「いってらっしゃい...。」とボソッと上を見ながら呟き部屋を去った。

 そして速足のまま自分の部屋へと戻り、布団に包まって一人涙を流していた。

 いくら陽介ほど胆が据わった人間だろうと家族のように親しい人間が離れていくということはそういうことだ。

 それほど長い期間を共にしたわけではないが、今までのあれやこれやを思い出し枕に顔を埋めてしばらく泣いていた。


 春香はそのまま天井を見上げてこの世界での記憶を辿った。


 この師弟をよく見ていたマリアーノはまるで聖母のように見守っていた。

 自身は旧友を消滅させたくらいでは何とでもなかった圧倒的精神力の持ち主で、正に士そのものだった。

 こんなこともよくあると思いながら見ていたが、やはり特別な関係値なだけに春香自身の精神コントロール能力の乱れと、急な別れを告げられた陽介の精神的な乱れには気を遣っていた。

 春香の場合はこの時点での乱れが起こると現世に戻るという行為そのものが1からのスタートになりかねないからだ。

 万が一の場合に備えて外から支配魔法を一時的にはかけているが、その効果の範疇を超えるとマリアーノですら手に負えなくなるといった危険性すらも存在しているのが恐ろしいという。

 マリアーノが外から盗み聞きしていたのも魔術がかけられていたことが理由の一つだった。


 ただ春香はマリアーノの想定していたほどの精神的な乱れや精神コントロール能力に損傷はなく、案外落ち着いて前を向いていた。

 大きく深呼吸をして部屋から胸を張ってでできた春香は、先ほどとは見違えるほどに強くなったと感じられるような異彩(オーラ)を放っていた。

 それを見てマリアーノは安堵の表情を浮かべ、こっそりと春香にかけていた魔術を解き教会のチャペルの部分へと二人で歩いて行った。

ご覧いただきありがとうございます。

こちらの作品は不定期更新となっております。

また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。

また、本作品はTwitterでの投稿告知を行っておりますので是非「蒼翔ユウキ」(@sosho_yuki)で検索していただけると助かります。

今後ともよろしくお願いします。

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