第52話~生きる意味~
ー 私は何の為に、誰が為にこの世界に移ってきたのだろうか ー
召喚直後、春香はこのような悩みを抱えていた。
右も左もわからない世界で、なぜか戦闘の知識だけ備わっていて目の前の敵に立ち向かっていく。
そんな世界に降り立って、自分は『どんな存在であるべきなのか』を考えた日は数えられなかった。
今までは学生として、目標もないままただただ時間を消費していくことに過ぎなかった人生だったが、急に降り立ったこの世界では今までの人生とは違い、どこか自分の中にあった潜在意識のような、想像の中の姿の自分のようなものになれたような気がした。
ただ、どこかで自分に対する存在意義というものを確かめるような意識がふつふつと湧いてくるような感覚になることもあった。
それを経てノイローゼになりかけていた春香に手を差し伸べたのが召喚主の好敵手であったアスケル=マリアーノという存在だったのだという。
巧みな精神系魔術を扱い、春香自身の脳内に一つの暗示をかけることでノイローゼから解き放ったという出来事もあり、マリアーノという人物を春香の中で神格化していた。
それが春香がエクスパンドライズ行きを即決した一つの所以でもあるという。
ただ、春香は未だに『何の為、誰が為』という所の答えには辿り着くことができずにいた。
いや正しくは『見つかったが正解ではなかった』というところだろうか。
その答えに正解があるのかどうかは分からないが、春香が追い求めるものは自分の存在意義そのものだった。
現世に戻れたら自分の存在意義の正解を見つけることができるのだろうか、そのような思考が今の春香未来という人物を動かす一つの原動力になっていた。
ただ春香の頭の中には『存在意義を見つけ出したい』という思いが強く、それを見つけることができれば別に現世に戻る必要はないとも考えている。
そんな春香だが、今日もまた精神系魔術の習得に励んでいた。
マリアーノから渡された魔法陣とその使い方が記された魔導書を見ながら魔法の形成を行っていた。
目を瞑り意識を集中させ、対象へと放つ。
マリアーノが予め掛けておいた可視化魔法によって普通では見えない精神系魔術が目に見えて効果が分かるようになっていた。
目に見えることで、春香にも心の眼がついたような感覚になり、より研ぎ澄まされた魔術を放っていた。
春香は改めてアスケル=マリアーノという人物の柔軟性や応用力に感心していた。
一方マリアーノは恭介とともに何かを語り合っていた。
「恭介はこの世界が何によってできているか分かる?」
マリアーノは何かよくわからない質問を恭介に投げかけていた。
「それは…、大気とか大地とか、そういうものじゃないでしょうか...。」
じっくり考えて出した答えにしてはかなり無難な答えが恭介の口から出た。
「違うわ。もっと哲学的に考えてみなさい。」
ますます意味のわからない問に恭介はかなり困惑しながら目線を上にあげ空を見ながら考えた。
そして天啓でも聞こえたかのような感じでビビっと恭介の頭の中に答えが舞い降りた。
「それは『生命』でしょうか…。」
恭介は答えが導き出せたことをかなり誇らしげな顔をしてマリアーノの方を見つめた。
「まぁ、ちょっと正解。くらいにしておくわ~。」
マリアーノは馬鹿な恭介が答えられるはずがないと思っていたので正直驚いていた反面、もう少しの要素にも気付いてほしかったと言わんばかりの表情をしていた。
「私はね、この世界は三つの要素でできていると思うの。一つ目が『時』、まぁ時間のことね。二つ目が『生』、生命もこれのうちのひとつね。そして三つ目が『愛』。この三要素よ。」
恭介にはその三つがどのようにつながっていくのか、何もわからなかった。
ー『時』とはその一瞬が永遠に続くようなもので、
『生』とは神秘的で終わりのある『時』の流れのようなもので、
『愛』とは美しく尊く儚い『生』の交わり合いのようなものである。ー
これに込められたメッセージを読み取ることは常人には不可能であると恭介が思い知らされた瞬間であった。
でも何で急に今そんなことを言い出したか、恭介は不思議でしょうがなかった。
「恭介はさ...、何でこうやって色々な障壁にぶつかっても立ち上がってまた進んでいけると思う?」
マリアーノはまたまた難しい質問を恭介にぶつけていた。
「それは...、いつまでも楽しく暮らせる世界があればいいな...って。だからそのためにみんなで戦ってるんだって思ってます。」
これが恭介の本音であることはその表情からしてしっかりと読み取ることができた。
「私はね...、色々な人とこうやって長い間関わってきてある程度分かったことがあるの。この世界の人って言うのはみんなが何かしらの『正義』のために戦っているんだって。それが世界を救うことだって自分のエゴだって関係ない。ハピダルと陽介が戦った時にだって両者が自分の、自分だけの『正義』のために戦っていたの。私にとっての『正義』はこの世界の調和を図ること。春香ちゃんが自分の生きる意味とか存在意義とかを探して現世に戻ろうとしているわ。それは私たちみたいには『正義』を抱えて生きていないから。厳密には『正義』を失ったというところかしら。」
マリアーノの話をだいぶ真剣に聞いている恭介だがあまり何を言っているか分からず、ただただマリアーノが一人熱く語っているような雰囲気になっていた。
「『正義』って言うのは言い換えれば『生きる意味』そのものなの。生きる意味を失った者からこの世界から消えていく。ただ春香ちゃんが生きているのはあの子は召喚者だから。陽介みたいな転生者は実際には一度死んだ身。その死に抗った者のみが神から何かしらの力を与えられて実体を持ったままこの世界で第二の人生を歩んでいくというもの。ハピダルが消えたのは陽介がトドメを刺したからって言う理由もあるけど自分がこの世界で生きていく意味を失ったからよ。」
ようやく何となく意味が分かったところで恭介が一つ質問をした。
「我々のような人間には寿命というものもある。その必ず終わりが来る人生の中で我々は何をすればいいんでしょうか...。」
「それは正義を持ち続けることよ。前に私が不老不死について話したことがあると思う。魔法の神官のようなレベルの人は不老不死なんだって。でも実際には違うわ。私もハピダルも不老不死だったわ。でもハピダルは死んだ。それでこの世に不老不死なんて存在しないことが分かったの。私たちが時空を超越した存在って言うのは間違いないんだけど、死なないのは正義を持ち続けたが故のものだったわけ。そういう点では私の考える世界の三要素の『生』ってものは狂ってくることになるわね...。」
マリアーノも自分でも何言っているかわからなくなってきたような表情をしていた。
「つまり、自分の中の自分を持ち続けろということですね!!」
いつになく自信満々な恭介を見て、マリアーノは特に貴方には関係ないけどねと思いながら恭介の手を引っ張り春香が鍛錬に励んでいる場所へと移動していった。
ご覧いただきありがとうございます。
こちらの作品は不定期更新となっております。
大変長く間をあけてしまい申し訳ありません。
内容を振り返りつつ前話にも触れていただけるとありがたく思います。
また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。
また、本作品はTwitterでの投稿告知を行っておりますので是非「転生魔術師の覇道譚」(@tenseimajutsusi)で検索していただけると助かります。
今後ともよろしくお願いします。




