第48話~私と私~
そうしてまた新たな一日が始まっていく。
毎日繰り返しの様な、やることは何も変わらない単調な日々が続いていくのだ。
手ごたえがあった日でも、全くダメだった日も、どんなに悔しい日だろうと必ず一日には終わりが来て新たな朝を迎えてまた同じことの繰り返しの日々へと奔走していく。
ー私は何をやっているのだろうか。ー
そのようなことを思う日々も増えていき、何が何かわからなくなるような毎日である。
自分に対しての怒りなのか、憎しみなのか、それとも何なのか。
この気持ちは誰にも理解できないであろう、むしゃくしゃした感情が春香の心の中で渦巻いていた。
それでもまた門の中へと歩みを進めていく。
試練の開始から二週間が経った。
マリアーノは初日以降春香の前に姿を見せることはなかった。
春香はただ一人で毎日部屋に帰ることもなくひたすら試練へと向かう日々を繰り返していた。
ある日には自分の上手くいかない様な過去を見たり、またある日には怒り狂う自分の姿を見たりと自分の過去を見ている内容としては相当耐え難いものを毎日毎日見続けていた。
ーはっきりと成長できたかはわからない。ー
それが春香がここまで試練を積み重ねてきて感じた思いだった。
それもそうだろう。
精神は目に見えて成長を感じられる魔術とは全くの別物なのだから。
それでもマリアーノの考えはこうだった。
「もし仮に現世へ戻ることができたとしても春香ちゃんはもう5年前の人。だから周りに最初から馴染めるわけがないし、今まで通りの生活はどこにも保障されてない。なら今のうちに孤独を味わっておくのも一つの修行なんじゃない?」
それも間違いではないもののどこか人情に欠けるような、民を大切にするマリアーノにしては放っておくとはなかなか珍しい行動に出たものだった。
ただ様子が気になっていないわけではなかったのだ。
暇さえあれば自身の千里眼で春香の様子をチェックし、試練の後のプランを常に考えている。
やはり人情深い彼女の性格が捻じ曲がることはないということだ。
また一日が始まっていく。
一面の芝生の上から体を起こし、春香は大きく深呼吸をした。
「今日もきれいな空気ね...。」
そうボソッと呟くと顔を少し強張らせてから目を閉じて空を見上げた。
「神様、今日も私を見ていただいているでしょうか...。私は昔から芯が強いわりにいつも自分を曲げてしまうような人間でした。いつも誰かの言いなりになって、思っているようなことを実行することがなかった。自分の人生なのに人任せで...。それなのに無いものばかり願って...。何て無様な人生だったんでしょうか...。でもこれは今までの私の話。私が過去で見てきた過去の私の話。二週間でそれに気付けた。それに、一人じゃない。この空は繋がってるんだから...。」
天に向かってそう言ってまた今日も門の中へ入っていった。
視界がだんだん暗くなっていくのも、もう慣れたようなものだった。
ただ一つ違和感があった。
それは周りには誰もおらず、ただ一人実家の自室にいたのだった。
手足は自由に動くし、辺りを歩き回ることもできる。
そしてものを持ったり動かしたりと、物的な干渉ができるようになっていた。
今までとは全く違う感覚に春香自身も非常に驚いていた。
流れる映像を見るだけの日々から自分の好きなように干渉できる世界に変わったのだ。
春香は少し部屋を見渡して思い出に浸った後、自室を出て階段を下り、リビングへと向かった。
「もしかしたら誰かがいるかもしれない。」
そんな思いを抱いてゆっくりゆっくりと階段を下りて行った。
扉を引くと、そこにいたのは制服に身を纏った春香の姿があった。
「あ、あの...。」
春香は過去の自分を見てとっさに声を掛けてしまっていた。
「貴女は私...ですよね...?」
そしてまた意味の分からないようなことを発した。
「私の名前は春香未来。17歳の女子高生よ。」
「私も春香未来って言うの...。今は25歳、8年後の貴女よ...。言っても信じてもらえないと思うけど...実は過去に戻ってきたの...。」
「8年後の私が今の貴女って言うわけなの...?」
「えぇ、そうね...。」
「え、私って8年後どうなってるの?彼氏は居るの?結婚してるの?幸せなの?」
「あ、あの...。そのね...実は、私もうこの世界にはいないんだ...。別に死んだとかそんなんじゃないんだけど、今の私はもう地球の人間じゃないの...。」
「それってどういう意味...。」
「そのね...。実は異世界に召喚されちゃったの。5年ちょっと前にね...。」
「異世界って何...?どんな世界なの...?」
「私が今いる所は異能と魔術が入り混じるような世界よ...。地球では見ることのできないフィクションの世界に本当に入り込んじゃったような世界よ...。争いが絶えない非常に危険な世界。」
「それで、そんな中私は生きてるってことなの...?」
「まぁ、そんなところかな...。異世界ではなかなかな能力を最初から与えてもらったから私は何とか生きてるって感じかな...。」
「すごいじゃん私。それが私の約束された未来って事でしょ?なんかすごく楽しそうじゃん。」
「約束された未来...。まぁそうね。ただね、私がこうやって過去に来てるのには理由があるの。それはね、この世界にもう一回戻りたいからなの。」
「なんで?なんで私はそんなこと思うの?」
「それはこの世界に悔いがあるからよ。私には夢があった。結婚して子供を産んで、この安全で平和な世界でゆっくり人生を謳歌するって夢があった。やり残したことだってたくさんあった。もっと家族に友達に、ありがとうを伝えたかった...。もっと一緒にいたかった。」
「でもそんな泣くようなことじゃないじゃん。顔、すごく幸せそうな顔、してたよ?確かに今の私も同じ夢を持ってるし、きっとそんな未来が待ってるって思ってた。でも夢を叶えることだけが本当の幸せなのかなって思うの。正直今の私じゃその気持ちを味わうこともないし、家族とかとも立ちを失った喪失感とかも味わうことはないけど分かると思うの。きっとどんな所でも私は幸せになれるって。根拠とか理由とか特にあるわけじゃないけど自信はあるの。だからその異世界ってやつを私は悲観しない。もし8年後の私が拒んだとしても今の私は...。」
「私ね、ここ二週間くらいずっと過去を見てきたの。それでさ、気付いたことがあるの。本当はさ、自分の中にこれって決めたやつがあって、誰にも負けたくない様なものをもっててさ。それでも自分を上手く表現できずにいたの。だからずっと自分の心に嘘をついていたような気がするわ。でも変な自信とかこだわりだけはずっとあってさ、それは小さい頃から何にも変わらなかった。だからこの年になってさ、少し心にも立ち位置的にも余裕ができたから自分に嘘つかないで思うがままに突き進んでみようって思ったんだよね...。精神修行はしんどいし辛いし全然上手くいかないし、投げ出したいような毎日の繰り返し。それでも自分に嘘はつかないって決めたの。」
「だったら『頑張れ未来、負けるな未来。』だね。中学の校長の言葉。覚えてない?どうしても投げ出したくなったり辞めたくなったり、幸せじゃない日の方が多いかもしれないけど、幸せを感じた時に全力で感じられるようにするための応援の言葉。そして魔法の様な言葉。それだけは忘れちゃダメだからね...。」
そういうと春香の視界は真っ暗になり、体も地面に倒れ込んだ。
ご覧いただきありがとうございます。
こちらの作品は不定期更新となっております。
また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。
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