第47話~空~
春香は自分の過去を目の前でしばらく見つめていた。
母の温もりを傍で感じていたら、どこか懐かしいような気がしていた。またそれとともに目の前にいる自分に対して少し嫉妬していた。
自分の母親なのに目の前の自分にしか相手をしないので、どこか自分の母じゃない様な気がしてならなかったから少し心がモヤモヤしていた。それは自分に年下の兄弟が生まれた時の様な、自分にかまってくれなくなった時の様なちょっとした喪失感を感じていた。
しばらく無言で見つめていると、急に視界が暗転した。
夜が来たのだろうか、それとも停電したのだろうか。
だた、視界が明るくなるとそこには見慣れた風景があった。
「私の家の前...。」
もちろんこの世界では物理的な干渉はできないため、家に入ることも誰かに触れることもできない。そんな記憶の中の世界の延長線である。
春香は庭に行き、そこから見えるリビングを窓越しに覗いた。
そこに見えたのは少し大人になったブレザー姿の春香と、少し老けた母の姿だった。
どうやら喧嘩をしているのだろうか。声は聞こえずとも伝わってくる感情があった。
春香はただそれを眺めることしかできなかったが、心にモヤモヤとした感情を抱いていた。
しばらくすると窓の向こうの春香が、その場を速足で離れていった。
何があって、何をして、何で怒っていたのだろうか。今の春香には全く分からなかったが、先ほどよりも強いモヤモヤを抱えていた。
ー あの時の私は何をしていたんだろうか...。
そんな感情が頭の中にいっぱいだった時にまた視界が暗転した。
次に見えた景色は暗闇の中の天井、つまり門の中へと戻ってきたのだった。
春香は試練を終えたと思い門の先の森へと向かった。
ただ、その先にあったのは見えない壁。結界だ。
春香はその場に座り込んでしまった。
それは精神の疲れからなのだろうか、ただしばらくそこから動くことはなかった。
しばらくして様子を見に来たマリアーノが見つけた春香の姿は、どこか落ち込んでいるような疲れているようなオーラがあり、目の奥に光がなく、気疲れしているような表情で、俯いて体育座りをしてその場からは動くような気配はなかった。
「春香ちゃんもやっと試練の意味が分かったかしらね...。自分の過去の複数の分岐点が一気に自分に襲いかかってくるようなもの...。過去に立ち向かえばその分精神を消耗していくから...。でもこれを乗り越えなければその先に行くこともできない...。試練って言うからにはそれなりに難しくて大変なものよ。」
マリアーノは歩いて門の外に戻りながらそう春香に語りかけていった。
しばらくして春香が目を覚ました頃。外を見てみると既に日は暮れていた。
外へ出ると壁についている照明が一直線に並んでいて、3キロほど先までよく見えるような感じがしている。辺りには微精霊が群がって微かな光を放っており、自然の中に一人取り残された春香は、その幻想的な景色に見入っていた。
ー 私は過去で何を見てきたんだろうか...。
精神に大きな負荷がかかっているため、少しメンタルブレイクを起こしていた春香であった。
少しすると春香は芝に寝転んで夜空を見上げた。
そこには雲一つない満天の星空が広がっていた。
「すごい星空だ...。エクスパンドライズにはこんな場所もあるのね...。」
春香は空を見上げながらボソッと呟いた。
しばらく空を見ながら心を無にしていた。
「春香さん...。横、いいですか...?」
「え、えぇ...。いいわよ...。」
「空、綺麗ですね...。なんか久しぶりに景色を楽しめそう...。」
「そ、そうね...。ところで陽介は何で此処に...。」
「神官にちょっと様子を見てきてって...。」
「心配かけたわね...。ごめん...。」
「心配...。まぁ心配はしてますけどそれよりも応援してますよ。」
「そ、それは...。ありがとう...。で、でも...」
「この星空、ここじゃなきゃこれは見れないですよね...。教会の方ではこんなに星も見えないし微精霊だってこんなにはいない。この世界が地球とは違うのかとか、どんな場所にあるのか。俺には何も分かんねぇけど...。でもどこにいようと宇宙は繋がっているんですよ。それが例え太陽系じゃなくても銀河の端でも...。」
「で、でも...」
「俺は一回死んだ身でもう現世には戻れない。だから異世界に来てもう一回人生やり直すチャンスだって思ってる。でも春香さん、貴女は違う。この先の人生、どこでだってきっとまだ楽しみがあると思う。俺よりは年上だけどまだ若いじゃん。正直俺が今、過去を見て、何を振り返って何を乗り越えるかなんて分かりやしない。でも、やらなきゃダメなんでしょ?だったらどんだけ時間をかけようが、どんな手を使おうが、最後まで足掻かなきゃ叶えられることも叶えれない。まだまだ俺は未熟だけど貴女と一緒に我武者羅にやってきたあの時あの瞬間があるから今の俺がいる。それを教えてくれたのは貴女なんですよ、春香さん。」
ー そうだ...。私は何を思っていたのだろうか...。やっぱり陽介にはいつも気付かされてばっかね...。
春香は空を見たまま少し微笑んだ。
夜が明け、春香が目を開けると昨日の夜と同じ場所で寝ていた。横に陽介はいないが、すごくいい目覚めであった。
体を起こすとマリアーノがこちらへと歩いて来ていた。それを見て今日もまた始まるんだなと自覚した。
「おはようございます...。昨日はその...。」
「昨日のことはいいのよ。ゆっくりでも前を向けたらそれで。また今日も始まるんだからさ。」
マリアーノが神官としてこの国で絶大な信頼を受ける理由はこういう所があるからだ。普段は特に何も考えていない様な風貌から突発的にその相手の気を起こす発言をする。その発言に何かの魔法でもかかっているかのような感じがあるのだ。
「じゃあ今日も始めましょうか。」
二人で門の中へと入っていった。
「今日もまた同じようなことが起こるわ。春香ちゃんにはまた過去が襲ってくることになるけど、精神が疲弊すると思うわ。その時は誰にでも頼るといい。私だって陽介だって、それに他のみんなもきっとあなたのことを見ているはずよ。じゃあ私は失礼するわ~。」
そう言い残し、マリアーノは門の外へと出ていった。
また今日も試練が始まっていく。
春香は震えて重い脚を前へゆっくりと踏み出して先に進んでいった。
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