第45話~累積と破綻~
マリアーノは春香の過去を見るために、春香に術式をかけた。そして二人で春香の記憶の中に入り込むことに成功した。
二人の目の前に広がるのはまさに近未来と言わんばかりの光景が広がっていた。まるで電脳世界にいるような、頭の中で想像するしかない様なそんな光景だ。車はどちらかというと飛行機やドローンに近いような形をして空を飛んでおり、完全自動運転なので運転免許なんて必要ない。電車なんてものはなく、飛行機も廃れていったようだが自動車産業だけは形を変えて生き残ったのだ。
「春香ちゃん...。これはいつのどこなの...?」
文明の発展とその驚きのあまり他に言葉が出てこないマリアーノであった。
「今は2860年の5月でしょうか。場所は愛知県名古屋市、私の地元ですね...。恐らく私が召喚されるほんの数日前ですね...。」
「私には考えられない世界ね...。100年後の世界とかをみんなで想像していた時の光景に近いものがあるけどすごい発展のしかたね。名古屋でこれってことは東京はもっとすごいことになってるんでしょうね。」
「実はですね、東京には人が住んでないんですよ。というよりかは"住めない"ですかね。2500年ごろに関東というか東京が中心で起きた異常気象によって人が離れちゃって、管理していた人がいなくなっちゃったから建物は倒壊。都市としての機能も壊滅的な状態になって今現在では新たな生態系ができて、もう誰も手出しできなくなっちゃったみたいですね...。」
「えっ...。ってことは今、日本の首都はどこになってるの...?」
「今は大阪ですね。環境問題にいち早く対策を始めて、都市の成長も凄まじかったって授業で聞いたような...。」
「大阪ねぇ...。」
マリアーノは東京が首都でないと聞いて本当にそれ以上の言葉が出なくなっていた。あれだけ発展していた東京が今や森林だということをマリアーノの世代を生きる人の誰が信じるだろうか。恐らく誰も信じることはない。それでも間違いなく春香未来という一人の人物が生きた世界なのだ。
「凄い世界ね...。でももう春香ちゃんが離れてから5年ちょっと経つじゃない?そしたらまた話も変わってくるかもしれないわね...。確かにこの世界から今の世界に召喚されちゃ、ちょっと物足りない気も理解できるわ...。インテグラリッシュみたいなところはここまでとは言えないけどまあまあ発展してる。でもエクスパンドライズはね...。私が都市計画とかそういうのにあんまり興味がないって言うか...。他のことばっかりやってたら全然発展しなくてね...。それでも800年以上かけて世界はこんなに変わって、しかもその300年前には東京という大都市が消滅している。春香ちゃんが退いてからの世界ってきっともっと変わってるんじゃないかしら。それは街並みとかそういうのだけじゃなくてさ...。人間関係とか、家族とか、大切なもの、こと、場所とかなんでも。家族に変化って言うのはそうそう起きるものじゃないけど人間関係とかは一瞬で全て変わるのよ。ある日突然あるものが好きになったとか嫌いになったとか。そういう経験ってやっぱり人間ならあると思うの。じっくり積み重ねた人間関係も破綻するのは一瞬。それが世界の怖いところなの。今この世界に帰ったとして貴女に降りかかる困難、苦難って言うのはやっぱり多いと思うの。それでも帰りたいって言うから私はそれは手伝うわ。でも前も言ったけど基本的には一方通行の世界。仮に帰って、その生活が嫌になったからってまた同じように私たちのところへ帰ってこられるって私は思わないの。5年以上かけて積み上げてきた私たちとの関係も思い出とかは残るけどやっぱり関係って言うのはそこで終わっちゃうの。それだけは忘れないでいてほしいな。」
春香はマリアーノの言葉が余程響いたのか、しばらく固まったまま何も考えられなくなっていた。確かに召喚者としてこの異世界に来てから積み上げてきたものは少なくない。人間関係だけでなく知識や戦い方、世渡りなどここでしか学べないことも多かった。さらに春香は召喚当時は大学生であった。そのため今帰ったところで当時の環境にそのまま帰れるわけではないことももちろん理解していたからである。
「もう過去を見るのはいい?なんかそんな雰囲気あるけど...。まあそろそろ帰ろうか。春香ちゃんの記憶に入りたかったのは私がただ単にどんな世界かって言うのを見たかっただけよ。800年で世界ってどこまで進化するのか。それが見たかった。でもそれと同時に貴女に私の生きた時代とのギャップを感じてほしかったの。さっきも伝えたけど世界は変わる。進化し続けてるの。帰ってからその波に乗れるかどうかって言うのは貴女次第だし、それからの世界の進化のスピード以上に貴女は進まなくちゃいけないの。今回のこれもいい精神修行になったんじゃないかな...?」
「はい...。今までマリアーノ様が私を引き留めようとしていた理由が少しわかったような気がします。それでも私は私の野望を選びます。それはなんと言おうと貴女様が背中を押してくれたから...。私の人生は私だけのもの。まだ誰も成し遂げたことがないもの、それならやらない意味はないじゃないですか。私が召喚者の、人類の未来になりたい。それが私なりの正義なので。そのためなら手段は選ばないですから。」
「そうね。貴女はそういうと思ったわ。そうじゃなかったらまだインテグラリッシュに残ってただろうし、きっと戦っていたわね。でもやっぱり貴女は長くハピダルの下にいただけあって思考が似ているものね...。」
「えぇ。曲がりなりにも多くの時間使えさせていただいた方なので。それに近づいていたことはあるでしょうね...。己の正義の為なら手段は選ばないのはきっとあのお方から大きく影響を受けたのでしょうか。召喚主で正直憎いところもありましたが感謝はしています。」
ただ春香の心はやはり大きく揺れ動いていた。マリアーノの前ではかっこいいことを言ってみせたが内面は超現実主義の彼女。後悔がなければ異世界にずっといることを望んでいた。それにこちらの世界にいれば今の様な幸せはある程度は保障されているからだ。それでも帰って新たな大きい幸せを掴む可能性だってある。苦手だったコミュニケーションもこの世界で学んだこと。恋愛経験ゼロの彼女にとってはあっても帰りたい理由はそこにあった。
ー コンコンコン
春香の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい...。」
「春香さん、今お時間よろしいでしょうか...。」
「陽介...。久しぶりね。でもどうして...。」
「理由がなきゃ話に来ちゃいけないんですか?俺はただ春香さんと久しぶりに話がしたくて...。」
「そうね。理由なんていらないわ。陽介は最近、どうなの?」
「どうって言われましても...って感じなんですけど、今は戦争の被害の復旧ですかね。捕虜を捕まえることができなかったんで自力でなんとかするしかなくて。リーダーを中心にそれぞれの部隊で協力してやってます。」
「そうだったのね...。それは大変でしょ?しっかり休めてる?しっかり訓練してる?」
「ちゃんと休めてますし、特訓だってしてますよ。いつ次の戦いがやってくるかもわからないこの世界ですし、最前線に立って戦うんですから。今まではどちらかというと魔術の特訓をメインでやってましたけど今は瞬間移動の方を重点的に磨いてます。戦い方の幅が広がれば俺、まだまだ強くなれると思うんです。」
「フフフッ。貴方はやっぱり真面目ね。私はもう攻撃魔術を使って実践して教えてあげるようなことはできないけど、作戦面とか、心理面とか。そういう相談ならいつでも待っているわよ。」
「それはありがとうございます。ところで春香さん、なんか表情暗くないですか?気のせいならそれでいいんですけど、なんか目の色がいつもと違うって言うか、雰囲気がちょっと沈んでいるように感じるって言うか...。最近なんかあったんですか?もしかして躓いてもうどうしようもなくなっちゃったとかですか?」
「ん~...。別に躓いてるとかじゃあないんだけど、ちょっと心残りがあってね...。今日、マリアーノ様と一緒にお互いの記憶の中に入り込んで少しだけ過去を振り返ってみたの。」
「過去に戻ったってことですか...?」
「いや、過去に戻ったわけじゃあないわ。ただ記憶を覗き込んだだけよ。それも私じゃまだまだそのレベルには到達できてないからマリアーノ様の術式でね...。そして色々なものを見てきたの。それでも一番驚いたのは日本だけじゃない、世界は800年で大きく進化していることなの。それでも東京の様な場所は崩壊して今の姿になったみたい。それでね、マリアーノ様に言われちゃったんだ。『時間をかけて積み上げたものでも壊れるのは一瞬なんだ』って。それは町とか国とかもそうだけど人間関係とかもまた同じ。短い時間だけどこうやって陽介と積み上げたものもなくなるときは一瞬ってこと。」
「だからってことで悩んでたんですか?もしそうだとしたらそれは俺の知ってる春香さんじゃないです。春香さんはやっぱり自分の信念をもって、それに向かって一生懸命な人。短いながら俺はそれを知っているんです。それにこう積み上げたものがなくなることはありません。俺は春香さんからいろんなことを学んだし、それは今俺にとっての最大の財産なんです。もし目の前から消えて、今後一切会うことができないとしても、俺の心の中では生き続けるんです。昔の友でも父さんでも母さんでもそう。今まで自分に関わってくれた人の多くは今も心の中で生きてるんです。だからもしそういうことが気がかりで自信が持てないならそういうことです。だからお互い頑張りましょ!」
春香は真っ直ぐな陽介の目と言葉から少し勇気を貰えたような気がした。そして春香に言った言葉に対して少し重みを感じた。自分の人生は自分のものだけど決して独りではないってことをまさか陽介から気付かされるとは思わなかったが、少し春香の表情が明るくなったような気がした。
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