第37話~あの場所~
柊が突然姿を消し、街中に死体が大量に転がっている状況に混乱が起きているエクスパンドライズであった。
攻撃系の能力が扱える者のみが生き残り、回復術者や能力が使えない者などは全滅してしまっている。
「柊は俺と別々に行動したところから行方が分からない...。単独行動は危険かもしれません...。」
「そうね...。ただ碧依はもうここにはいないと私は...。」
「エリスの言う通りね...。碧依なら大体元々居た場所にしっかり戻ってくるはず...。」
「エリス...。イザベラ...。なら柊は何処へ...。」
「それは...。インテグラリッシュ王国にいるな...。」
「リーダー...。でも俺と別れてからそんなに時間は経ってない...。そんなすぐにインテグラリッシュに行けるなんて俺には思えません...。」
「葉山の意見が恐らく正解だわ~...。ハピダルの思惑も私には分かる...。」
「私もマリアーノ様に同感です。恐らく私がこちらに来たことが原因でこうなってしまった...。面目ない...。」
「いや、春香ちゃんのせいではないわ。私はハピダルの召喚術式を妨害する術式を仕掛けたわ。ハピダルは春香ちゃんに代わる新たな強者を手に入れようとしている。そこで白羽の矢が立ったのが陽介だと思うわ...。それで陽介を、いや私たちを誘き寄せるためにずっと柊を狙っていた。そしてあの場所まで連れてったと...。」
「神官...。あの場所とは...。」
「陽介には馴染のある場所だわ~。」
「え...。俺に馴染のある場所ですか...?」
陽介は考えた。
自分の馴染のあるインテグラリッシュの場所とは何か。
教会なのか、あのビル群なのか、滞在してた時の部屋なのか...。
思い当たる場所はいくつもあったがどこも柊を連れていくのに適当な場所ではないように感じた。
とにかく柊を見つけ出すために口を開いた。
「とりあえず...どう動きますか...?」
「今すぐ動かせる戦力は私たち六人ね...。もちろん私を含めてよ。」
「マリアーノ様。私が思うにインテグラリッシュ自体もまだ完全な戦力は整備されていないと思われます。フロストウィングはハピダル様の新たな右腕として成れない場所を勤めていますし、全盛に比べれば大したことはないと。それに私がこちらに来る時にはまだ何も準備できていないような状況でしたし...。仕掛けるならば早めの方がいいと...。」
「それでも春香さんは...。」
「イザベラ...。今は私の心配よりも碧依ちゃんの心配を。まだ魔術だって使えるし覚えたものを忘れてもそれはまた覚え直せばいい...。マリアーノ様、決断を。」
「みんな準備はいいわね...。五分で片づけるわよ。」
集合してからわずか十分での決断だったが、あの場所へと向かっていく一向であった。
「この魔法陣に入りなさい...。転移術式展開。柊碧依の場所まで一気に行くわ。着いたら即戦闘になるから覚悟しなさい。」
「こ、この場所は...。」
「陽介!考え事なんてしずに戦いなさい。」
「春香さん...。」
あの場所とは確かに陽介に馴染のある場所であった。
大都市を形成するインテグラリッシュ王国の中で拓けていて戦闘に向いている地域なんて一つしかなかった。
それは春香と特訓していた思い出の湿地帯だ。
スライムなどの魔物もいることが対人戦において何よりも厄介である。
そして一つ外れれば気に覆われた場所で、四方八方囲まれるような完全アウェーの地形が特徴の戦場だ。
戦場のど真ん中に転移した六人を待ち構えていたのは千を超える数の武装兵である。
一方エクスパンドライズ側は真ん中に残り支援する葉山とマリアーノ、そを中心に零時方向にエリス、三時方向に陽介、六時方向にイザベラ、九時方向に春香という布陣だ。
合図と同時に両軍一斉に飛び出していった。
インテグラリッシュ王国側は能力を持たない剣を携えた兵が中心で力には圧倒的な差はあった。
「陽介。背中は任せたわよ...。」
「もちろん任されました。春香さんに成長したことろを見せたかったんですから...。」
「後ろにいるから見られないけれど背中を託せるところまで貴方は成長した...。頼んだわよ。」
「任してくださいって。」
エリス、イザベラ、春香の三人は基本遠距離からの攻撃で敵勢を寄せ付けなかった。
一方陽介は、光電の剣と瞬間移動を組み合わせて瞬間的に切り刻んでいき攻撃力、スピードともに圧倒していった。
「これは俺の怒りだ...。春香さんへの感謝とか色々あるけど俺の発散に付き合ってくれ。」
敵陣に向かって猪突猛進していく陽介の様はその字のごとく猪のようであった。
飛び回って残像だけを残して戦う陽介は、立ちはだかった三百の人の壁を三十秒足らずで蹴散らしていった。
「陽介!春香ちゃんの助太刀に向かって。」
「了解です。やはりブランクが...。」
「いや、それだけではないわ。春香ちゃんのところだけ異常に敵の数が多いの。きっとこれも何らかの意図があるのね...。」
「春香さん!助けに来ました。」
「陽介か...。ありがとう。」
「やっぱりブランクですか...?春香さんがこんなに苦戦するはずか...。」
「いや...。これは私の実力不足だわ...。戦いで致命傷を受けたとかブランクがあったとか...そんなことを言い訳にしたくはないわ。」
「でも...。」
「貴方に見せられるような大きく頼もしい背中なんて私にはもう...。私は弱い...。ただそれだけよ...。」
「それでも...。それでも貴女は俺の師匠であり憧れなんです...。だから...。だから胸を張って、俺の前だけでも師匠らしく逞しい背中で鼓舞してください...。」
「それもそうね...。でも今は目の前の敵に集中しなさい。碧依ちゃん、助けるんでしょ?それに陽介。貴方はもう立派よ...。いつまでも”師匠”って慕ってくれるのはすごく嬉しいけど私も貴方も次のステップに進まないといけないの...。この前も言ったけど恩はもう十分返してもらったわ。こうして貴方と一緒に戦って、成長を実感して、貴方はもう誰かについて回るような人間じゃない。あの時とは違う立派な魔術師よ。」
「春香さん...。俺は進み続けるよ...。だから少しでもいいところ、見せてやる。」
目の色が変わった陽介は、春香の魔術を気にすることなく突っ込んでいった。
そして次々と敵を斬り込んでいき圧倒してみせた。
「俺...。ちょっとはいいところ...見せられたのかな...。」
周りから敵を排除し、一同は真ん中のマリアーノの下へ集まった。
そしてあたりを見渡して何か違和感を全員が覚えた。
「柊(碧依)がいない...。」
全員が口を揃えて同じ言葉を発した。
辺りどこを見渡してもいない。
「いないならなんでここにあれだけの兵が...。」
「それは分からないわ~。けど少なからず柊はこの近くにいるわ。私の魔術、闇の碧眼である程度の位置なら把握できる。ここ一帯を皆で探すわよ...。」
行方不明の柊を探すのは敵を一掃してからが本番である。
未だ未知の土地にきた三人と、春香を中心に何となくだがこの土地を理解している三人が入り混じる今のチームでは既知の人物の記憶が頼りとなる。
しかし一筋縄ではいかないのがアブドゥル=ハピダルという王の厄介なところである。
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