第36話~大事件~
春香はマリアーノとともに、魔術の習得に励んだ。
適正外の魔術習得にはかなりい手こずっており、なかなか上手くいかない日々が続いていた。
ただ自らの双方技術者を捨ててでも掴みたいもののために邁進していた。
まず自身の魔術を忘れる所から始まるが、これがまた難しいのである。
元々精神系魔術にも適応している光と闇の二属性の場合は比較的容易に行えるものであるが、春香は火属性であり、尚且つ火炎操作系の双方技術者だ。
マリアーノが新たな精神系魔術を獲得するのとはまた訳が違う。
火、水、風、土の元素属性と呼ばれる四属性は攻撃魔術が中心であり、あまり精神系魔術の適合者がいないという特徴もあってか、その教会の首長は光、闇属性の首長ほどの力を持ち合わせないという特徴もある。
その代わりではないが、パワーバランスが均衡になるようにできているこの世界ではその個人の能力によってまた違った新しい能力を獲得できるということもある。
その具体例が召喚術式である。
首長にならずに攻撃魔術を使うものが精神系魔術を使用することで徐々にだが脳内の記憶が書き換わっていき、その結果術式の習得というものに繋がっていく。
ただ途中で今までのような攻撃魔術を使用するとそれがすべてパーになってしまうというのが難しい点である。
それは特に適性の低い元素属性の魔術師にはよく起こることで、魔術師としての能力がいくら高くてもできないものはできないのである。
「基本的に精神系魔術は攻撃魔術と違って自分の空間の中に魔法陣をイメージして発動するわ。攻撃魔術はその場所にイメージして発動するものが多いけどこれはまた別。あとは詠唱が必須になるからそれを忘れたら発動はできないわ。じゃあまずは簡単な結界の張り方からやるわ~。これは詠唱なしで使えるわ~。」
「目に見えて分からないので実際張れたかどうかは分かんないですね...。」
「それは当たり前よ~。一回やってみて~。」
ー イメージ...イメージ...とにかくイメージ...。
「まぁなかなか簡単にはいかないものよね~。結界に関してはあまりイメージしすぎないほうがいいかもしれないわ。これは魔法陣を展開するような魔術じゃないから”フィールド展開”くらいの感じでいいわ~。」
ー 言われた通りに...。
「できたじゃない...。結界は少し特殊な精神系魔術だけどだいたいなんでもそんな感じだわ~。これ以外は比較的難易度上がるけどなにやる~。比較的簡単なのは精神攻撃かしら。敵を中身から壊していく恐ろしい魔術よ~。とは言ってもお互い掛け合うとどっちもが死ぬかもしれないから~。ちょっといい場所に行くわ~。」
そう言って向かった先は捕虜が捕らえられている中心地からは少し離れた山の中にある牢獄だ。
ここには過去の戦争で捕虜としたものが投獄されており、非人道的な精神系魔術の練習はこの捕虜を使って行うという。
マリアーノはそこの看守に極悪人二人を差し出すように指示した。
「じゃあ春香ちゃん。しっかり見てて。...精神掌握。これで右の男の精神を完全にコントロールできるようになったわ。」
「これもやはりイメージで...?」
「そうね...。自分がこんな風にしたいっていう思いが強ければ強いほどそれは反映されるわ。この精神掌握はただ対象の心臓を魔法陣で縛り付けただけよ~。」
ー 我が炎により対象の精神を掌握し、主導権を得る術式を展開...。
ー そしてあとはとにかくイメージする...。
「精神掌握...。」
「どうかしら。上手くいくと手の上に心臓を掴んてるような感じがするわ~。」
「ならきっと成功しているんだと...。それでこれから何を...。」
「精神攻撃の一番簡単なのは手の上にあるその感覚を自分の手でぶっ壊してあげることね。するとその対象の心臓はその手によって潰されるわ~。まあこれが正しい精神攻撃とはあまり思わないけどこれも一つだわ~。」
まさに手の上で踊らされるという感じだろうか。
精神攻撃に耐性がないものは簡単に葬れるというものだ。
マリアーノに心臓を潰された男は何の外傷も受けていないがその場に転がり、そのまま立つことはなかった。
一方その頃の教会にはかなり衝撃的な事件が起きていた。
それは何者かによる襲撃である。
街は一部が燃え、道にはかなりの数の市民の遺体が転がっていた。
ただ戦った痕跡はなく、それは全くの謎である。
亡くなった市民の多くは焼死であったが、中には死因が全く分からないものも一定数いた。
陽介と柊が出先から戻った時には既にこのような状態で、敵影も確認されなかった。
「ちょ...。俺らがいないときにどうなってんだよ...。」
「こうなってるってことは他のみんなは...。」
「分からねぇけど誰の仕業か...。」
「とりあえず神官に連絡しなければですわね...。」
「なら俺は恭介に...。先を急ごう...。」
「神官...。柊です...。教会含め中心部が何者かに襲撃を受けた模様です...。直ちに帰還なさってください。」
「襲撃って...。被害状況はどうなってんの...?」
「街の一部が燃え、そこら中に死体が...。教会内部が荒らされた形跡はありませんが...。とにかく来てください。」
そのような知らせを受けたマリアーノには少し心当たりがあった。
それは春香未来の存在である。
春香を奪ったのはマリアーノ自身であり、春香を狙ってのインテグラリッシュによる襲撃なのではないかと考えていた。
「春香ちゃん...。少し緊急事態よ...。この続きはまた今度にしてとりあえず急いで帰りましょうか...。」
そういうと転移魔法によってすぐに帰還した。
彼女が目の当たりにしたのは燃え続ける街に転がる死体。
柊の言っていたことを瞬間に理解したというより理解せざるを得なかった。
現状を整理しつつ教会に戻るためにその道を急いだ。
「誰か...。これのこと説明...って...。誰もいない...。」
電話を掛けてきた柊ですらいない。
街にいるのは春香とマリアーノの立った二人であった。
誰もいない街で二人、ひたすらみんなの姿を探し始めた。
教会の裏口や隠し部屋、街の隅々まで見落としの無いようにとにかく探した。
「まだ連絡があってからあまり時間は経ってないわ。誰かを必ず見つけなさい...。」
「碧依ちゃんはまだ近くにいるはず...。陽介たちは...。」
「陽介と柊には私の方から遠方調査の指示を出してたから陽介は近くにいるかもね...。」
「...。だとしたら陽介は碧依ちゃんと一緒にいるってことでしょうか...。」
「いや...。陽介は恐らく恭介のところへ向かってるわ...。陽介ならきっとそうするはずよ...。」
「どうしましょう...。私たちも手分けして探しますか?」
「いや...。二手に分かれれば恐らく貴女は襲われる...。柊同様にね...。攻撃魔術に制限のかかってる貴女では恐らく反抗はできない。私から離れないでいなさい。これでも一国の王なんだから...。」
「分かりました...。」
「神官!!戻っていらしたんですね...。」
「陽介か...。やはり恭介らを...。」
「呼んでまいりました...。って柊は...。」
「それが...。」
「実は碧依ちゃんが見つからないの...。連絡もらってすぐ移動してきたけどその時にはもうどこにもいなくて...。」
「柊がいない...。陽介は俺たちを呼びに来る直前まで一緒にいたんだよな...?」
「はい...。俺がみんなを呼びに行くから柊に神官への連絡をお願いしたのが最後...。」
「ということは可能性は二つ...。」
「マリアーノ様...。その二つの可能性とは一体...。」
「一つ目は他の生存者を探して回っているところ。二つ目は何者かに何処かへ連れ去られたところかしら...。」
「前者ならいいけど後者ならそれはどうして...。俺が一緒にいなかったから...。」
「陽介...。あんま気負っちゃだめよ...。今は目の前のことに集中して...。」
柊が突然消えたある日。
エクスパンドライズには大きすぎる事件が起こった。
ご覧いただきありがとうございます。
こちらの作品は不定期更新となっております。
また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。
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今後ともよろしくお願いします。




