第35話~師弟~
エクスパンドライズに再び合流した春香がまず向かったのはマリアーノの下であった。
自分の存在意義を確認した春香はインテグラリッシュ王国を完全に離れエクスパンドライズに仕えるということをマリアーノに明かした。
ただ春香はまだ戦えるまで回復した訳ではない。
仮に今戦争が起きたらまず狙われるであろう。
さらにマリアーノの特殊な魔術を学びに来たという春香にも大きな壁が立ちはだかることになる。
それはマリアーノとは根本的な魔術適正が異なるということだ。
マリアーノの魔術は精神的な色が強く、春香の魔術は戦闘的な色が強い特徴がある。
マリアーノは戦士の時代もあったため今でも多少の攻撃魔術を使えるが、以前の春香のようには動けない。
一方春香には精神系魔術の適性はなく、それを獲得するためにはその引き換えに双方技術者特有の攻撃力を失うこととなる。
双方技術者の最大の特徴である異能の力というものを失い、攻撃魔術も以前のように使えなくなるというデメリットがつきものである。
もちろんマリアーノは春香がそのような魔術の獲得を目指していても、戦力として見ている以上失いたくない存在である。
ただそれを止められない理由もマリアーノにはある。
それは春香が自身と同じ召喚者であり、そこから来る同情のようなものだった。
”もし現世で生きていたならば”というifルートも自分と同じ術式で見られるようになるため、その手助けをしてあげたいという思いからきているのだ。
また、春香が戦線に復帰するまでにはまだ時間がかかると予想されるため、春香の人生のためにもここで一線を退かせることも検討していた。
「春香ちゃ~ん。貴女は何を私に教えてほしいのかな...。」
ー 一応聞いてみるが答えは想像できる...。
「それは...。」
ー やっぱそうよね...。
ー 自分の”もしもの姿”...見たいわよね...。
「マリアーノ様のように自分の過去を...。もし現世で今も生きていたならば...。って思うんですよね...。」
ー ですよね...。
ー 仕方のないことですわ...。
ー 主らしく真実を伝えなきゃね...。
「そう言うと思って伝えたいことがあるわ...。まず貴女が戦線に復帰するにはまだ結構な時間化必要だわ。」
「やっぱりそうですか...。思うように自分の炎を制御できなくなったので薄々気付いてはいましたけど...。」
「そこで貴女には一線を退いてもらおうかな...と思っているんだけど...。」
「一線を退くというと...。もう二度と戦線には立たないということですか...。」
「えぇ...。でもこの術式を使うにはすべてを犠牲にしなければならないわ...。攻撃魔術も双方技術者もよ...。残念ながらあれもこれも全てできるなんていう世界じゃないのよ...。」
「だから一線を退けと...。」
「もちろんその覚悟があっていったのよね...?あと精神系の魔術を使いやすい属性は光と闇よ。貴女の炎系統の魔術では適正もあまり高くないわ...。その分失敗する可能性ももちろん高いわ。」
「それくらいのことは私にもわかります...。私にだって覚悟だってあるし、そこに希望があるとも思ってます。」
「希望...?」
「私はここから現世に戻れるって思ってるんです...。もちろんそこには大きな壁があると思いますけど、その希望を捨てちゃいけないって思うんです...。過去を、召喚後の現世の様子を見られたマリアーノ様とならこの世界も一方通行じゃなくなると思うんです...。」
「...。私が諦めていたことに挑戦し、それを私と完成させようってことね...。」
「私たちならできると思うんです...。私は戦えなくても新しい道を、可能性を探していきたいんです...。そのためにここに来たんですから。」
春香から感じる覚悟は計り知れないものであった。
召喚者という現世にあらゆるものを残し去った不遇な者を自らの手で救ってあげたいという野望は、いつしか春香を衝き動かす原動力となっていた。
春香は自身がもう一度現世に戻ってその可能性を見せることが、失意に落ちた召喚者の唯一の希望になるのだという思いを一身に背負っていた。
「分かった...。貴女に協力しようと思うわ...。でも私はもうこっちでの生活も長いしエクスパンドライズを背負う立場の人間。こっちに行くことはできないわ...。」
「それでもいいんです...。もし失敗しようと私が次の人への架け橋となればそれで...。」
「貴女の覚悟は十分に受け取ったわ...。できる限りの協力は惜しまないと誓うわ。ただエクスパンドライズの現状は分かるよね...。貴女を引き抜いたことでハピダルにも目をつけられているわ...。戦力が整い次第開戦といったことかしら...。」
「でも私は...。」
「貴女が戦場に立つことはないわ...。そうはさせない。陽介を、みんなを信じなさい。必ず勝利するわ...。」
「でも陽介はまだ未熟ですよ...。やっぱり私が...。」
「貴女は今、守られるべき存在よ。弟子を信じなさい。貴女の負傷で彼はきっと覚醒したわ。自分がやらなきゃって...。」
「それはそうかもですけど...。でもインテグラリッシュ王国にはフロストウィング含め三体のドラゴンが存在します...。いくら陽介が成長してようと容易に勝てるとは思いません。しかも私がいなくなった今、ハピダルは陽介を狙うでしょう。決して簡単な戦になるとは思えません...。」
「そこについては心配いらないわ...。ドラゴンの調査、インテグラリッシュ王国の戦力、戦術等もうこっちは動き始めているわ。既に大方のことは調べ上げているわ。」
「でも陽介に頼りすぎるのはよくないかと...。彼は攻撃には長けてるけど、防御力は弱点以外の何でもありません...。」
「流石に私も何もすべて一人でどうにかできるなんて思ってないわ。誰にだって弱点はある。十人いば十通りの弱点がある。みんながみんな貴女のように一人で何もかもできるような人間じゃない。でも、それでも相手よりも強くあるためにチームがある。弱点を補うためにチームがあって、自分の長所を最大限に生かせるように動いているわ。個の力ももちろん大事だけどそれよりも大事なのはチーム力なのよ。だからあの子たちに頼りなさい。」
これがマリアーノの凄いところだ。
相手を自分の世界に連れ込んでしまうような巧みな話術にその透き通った声。
言葉に魂が宿っているかのような聞こえをする。
ただマリアーノが伝えたかった事の一番はアンドロメダ皇国戦と同じく、春香の存在を自分はとても大事にしているからとにかくそれを理解してほしいということだ。
良くも悪くも過保護な性格のマリアーノらしいが、春香に対しては特にそうである。
こう言われた春香はマリアーノに従うしかなく、仲間の健闘を信じるしかなかった。
自分の忠告した通りインテグラリッシュには多くの高能力者がいて、エクスパンドライズにとっては難しい戦いになることは分かってはいたが、戦力にならない自分がもどかしくて仕方なかった。
そんなある日。
陽介は自室に戻るために廊下を歩いていたところを春香に呼び止められた。
「陽介...。何か困りごとはないか...。」
「どうしたんですか?何かすごく不安そうな顔してますけど...。もしかして俺のこと心配してくれたり...。」
「いや...。そういうわけではないんだが...。マリアーノ様と少し話をしておってな...。私は余程のことがない限り戦線には復帰しないということになったんだ...。」
「え...。それは...どうして...。」
「怪我の治りがかなり悪くてな...。時間が経てば復帰できるのだがだな...。」
「俺はいつまでも待ってます。俺だってその...。」
「私は貴方に伝えたいことは伝えたつもりよ。双方技術者としても貴方の能力の方が私よりも融通が利くし、バリエーションだって豊富よ。」
「でも俺はその判断に納得しませんよ...。まだ恩返しもできてない...。目の前で成長した姿を見せられたわけでもない...。それなのにいなくなるなんて...。そんなのって...。」
「私は居なくなるわけじゃないわ...。私にも戦う以外の野望があってさ...。しばらく戦えないなら早くその野望のために尽くしてもいいかなって思ったの...。別にもう二度と陽介の前に顔を出さないわけじゃないしさ...。そんなに泣かないでくれるかな...。それに恩はもう沢山返してもらったと思うけどね...。」
「別に俺なんて...。特に何もあげられたことなんて...。」
「いいや...。いろんなものを貰ったわ...。ほぼゼロだった貴方がフロストウィングと戦う姿を見られたこともそう...。私が重傷を負った時には敵にその怒りをすべてぶつけて戦っていた姿だってそう...。こうやっていつまでも私を慕ってくれる姿だって貴方は気付いていないでしょうけど私にとっては立派な恩返しだと思うわ...。」
「そんなこと言ったって俺はまだ何も...。」
「でも私は十分に受け取ったつもりよ...。それに私は召喚者として新たな道を切り開いていかなければならないの...。だから私は戦うことを放棄してでも私は私のやりたいことをやるんだ...。」
「で、でも...。」
「私の人生を決められるのは私だけよ。それに一度しかない私の人生を私がやりたいように生きなきゃそれは私じゃないじゃん。だから私は私らしく前に進み続けようかなってさ...。急に呼び止めてごめんね。じゃあまた...。」
そう言い残した春香は足早に部屋へと戻っていった。
春香の思惑を知った陽介はどこか落ち込んでいるような、暗い雰囲気を醸し出していた。
自分の恩師が自分の成長を確認する前にその舞台を去り、目に見える形での恩返しをできなかったという所に悔いをも感じていた。
「人間関係は常に変わり続けることくらいは分かってる...。けどまさか...。俺はまだあの人に何も返せてない...。俺には何ができる...。何を返すことができる...。」
「それはきっと貴方が進み続けることなんじゃないかしら...。陽介...。」
「柊...。」
「貴方は色々と気負いすぎる所があるから...。少し遠くから聞いてたんだけど春香さんがそういう決断をしたならそれを応援してあげるのが私たちのやることなんじゃないかしら...。もちろん一緒にやりたかったって言うその気持ちも十分に分かるけど、春香さんは春香さんで新たな道に進むことを決めたのよ...。」
「そんなことわかってるよ...。けど俺にはまだ受け入れられねぇ...。まだ何もできてない...。まだ何も返せてない...。受けた恩は返すのが人間じゃないのかよ...。」
「だったら何...。貴方はあの人がいないと何もできないって言うの...。そうじゃないでしょ。独り立ちしていく姿を見せることでも十分に恩返しよ...。春香さんも言ってた通り貴方はもう十分にあの人に恩返ししたと思うわ...。だったら次はそれぞれ新たな道を進み続けるだけじゃいけないのかしら...。」
陽介は柊の言うことに何も言い返せなかった。
よく考えればその通りである。
自分の世界に入り込みすぎて大切な師匠の気持ちを汲み取ることができていなかったのである。
「すまん...。なあ柊...。一つ聞いていいか...。あの人は俺にどんな感情を抱いてるかな...。」
「それは分からないけど親心のようなものはあると思うわ...。あの人と最後に話したのはあの船の上だけど貴方に関する話...。たくさん聞いたわ...。日を追うごとに大きくなっていく背中に成長を感じたって言ってたし、そういうものはあったんじゃないかな...。」
「そうか...。あの人はそんな感情を持ってたのか...。ありがとう、柊...。」
「結構ですわ...。私は貴方に出会った当初からこうやって心のケアをしてきたわけですから...。またいつでも頼ってください...。」
春香の感情を何となくだが理解した陽介はを、両手で頬を叩き気持ちを切り替え、一歩踏み出していった。
頬に残った僅かな痛みも吹っ切れるような真剣な眼差しで明日への一歩を踏みだしていった。
ご覧いただきありがとうございます。
こちらの作品は不定期更新となっております。
また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。
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