第34話~交差~
そうしてインテグラリッシュ王国に戻った春香は待っていたハピダルの元へと向かった。
向かっている春香にはマリアーノの言葉がかなり気がかりであった。
自分の過去とその後の現世の様子を見られるようになったマリアーノの能力が故だと信じ込もうとする春香であったが、その一方でこの世界で生き抜いていくには召喚者のような絶対的な存在を必要とするのではないかという考えを自身が持っていたからである。
そう考えているうちにハピダルの元までついたが、以前のような忠誠心が湧いてこない。
ハピダルが何か喋っているが全然入ってこない。
何を話しているか。
内容も理解できなくなっていた。
自分の主君のはずが、その人への想いは何もなくなっていた。
ー 自分の中の何かがおかしい...
ー 今まであれほどまでに仕えていた人に何の感情も湧かない...
すると春香はマリアーノのある言葉を思い出した。
それは八年前のある日。
大規模の戦争を終えたハピダルの元をマリアーノが訪れた際に初対面であった彼女が春香に耳元で囁いた言葉であった。
「召喚者は主君に大きく依存する特性があるけど、それを解いてしまえば召喚者は自由になれるわ。貴女も一緒よ~。私は自分の力で術式を解いて自由になった。でも貴女はその魔術を解くような能力は...ないわね~...。」
春香はその真相に八年越しに勘付くこととなった。
ー マリアーノ様がおっしゃった召喚者の自由とはこのことなのか...?
ー にしてはエクスパンドライズに対する思いが心の中に強くある気がする...。
エクスパンドライズを旅立つ際にマリアーノに掛けられた術には違和感を覚えただけだったが、召喚者の自由というものを手に入れたような気がしたのだった。
心の中で締め付けられていた絶対的な主従関係を感じなくなり、今まで何も思わずにただただ従ってきたハピダルの言葉、意思に背くような感情も出てきたのであった。
「春香よ...。少し難しい顔をしているが何かあったのか...?」
「え、あ、いや...。別に特に...。少し考え事をしてました...。」
「それなら別にいいんだが...。フロストから聞いた。大丈夫か...?」
「えぇ...。体の方は十分に回復しました...。ただ少し気持ちの方が軽くなったような...。何か縛り付けるものが無くなったような...。今までにない感情が胸にあるような気が...。」
「それは妾に関する感情ではないよな...?」
「いや実は...。ハピダル様の言葉が、意思が今までのように共有されてないように感じるんですよね...。」
「まさか...。春香よ...。マリアーノに何かされていないか...?」
「マリアーノ様には半永久的な治癒魔術の解除をしてもらっただけですね...。」
ー しまった...。
ー マリアーノにやられた...。
ハピダルはマリアーノによって支配魔術が解除され、春香が自由を手にしたのだとすぐに勘付いたのだ。
ただ何のためにマリアーノは行動に移したのか。
それは長年ともに戦ったハピダルでさえ確かなことはわからなかったが、何となくのことは察しがついた。
ただ何とかしなければ春香が自らの元を離れていくのではないかという不安と焦りが出てきた。
「春香...。お前は自由を手にしてどうするつもりなんだ...。」
「私は現世に戻る方法を模索するためにマリアーノ様の下に行きますわ。あのお方の魔術は他の誰よりも特殊なものよ。あのお方の下で私は強くなろうかと思いますわ。」
「でもあいつの魔術とお前の魔術は全く違うものじゃぞ...。」
「それでも私はマリアーノ様の下で新たな魔術を手にして過去について見られるような魔術を習得することを望むわ。だから私を止めないでほしいの...。」
「それでも妾にはお前を止める義務がある。妾は貴様の主なのじゃぞ...。」
「主...?何を言っておりますの...?我が心は既にマリアーノ様の下にありますわ...。」
「お...おい...。まさか...。」
この春香の言葉によってハピダルは完全に理解した。
それは春香はマリアーノに自身がかけた洗脳が解かれただけでなく、それを上書きされているということだ。
春香は既にマリアーノの手の下にあるということを意味するものであった。
ならさらに上書きすればいいじゃないかと思うだろうが、洗脳をかけるには元の洗脳を解く必要があり、もし解かずに上書きすれば脳へのダメージが大きくなり、最終的には死に至る可能性があるため無意味にはできないということだ。
さらに、特殊な魔術を使うマリアーノの洗脳術式もまた非常に複雑であり、同等の能力者をもってしても解くのは難しいという。
ハピダルも当然無理ということだ。
理解しいた時には既に遅かった。
春香は自ら転移術式を張り、別れの言葉も言わず、あっという間にいなくなってしまったのだ。
ハピダルはとにかく頭に来ていた。
マリアーノにしてやられたこと、自らの最高傑作である春香を横取りされたこと、自分の至らなさなど全てに怒っていた。
ハピダルはすぐに動き出した。
ー 春香を持っていかれたなら、同じ双方技術者の佐藤陽介を手に入れてしまえばいいんじゃないか...。
春香はいないが彼女はまだ戦線に復帰できていないような状況なので恐れることはない。
それ以上に気を付けるべきはフロストウィングを倒し、秘密迷宮を倒壊させた今回のターゲットである佐藤陽介だ。
名目はできた。
ー ここでマリアーノを倒し、決着をつけてやろうじゃないか...。
少し準備をしたら開戦の時となる。
戦士時代からずっと切磋琢磨してきた両者についにけりをつける時が来たのだ。
一方、エクスパンドライズでは早々と戻ってきた春香に安心しているマリアーノの姿があった。
あまりにも春香が早く戻ってきたため、即時開戦の場合の戦力整理はまだ全然終わっていないが、向こうも不測の事態で、さらに春香という主要戦力を失ったダメージは大きいだろうと予測していたため、焦ることはなかった。
召喚者は召喚術式を使えないという根底にある使用条件のため、どんな敵にもマリアーノが召喚者を使って戦うことはできないが、今回の春香略奪のような戦い方はできる。
召喚者が魔術師の場合、魔術的な適合性が非常に高く、複雑な術式をいとも簡単に発動したり、その魔術の解析をもこなしてしまう。
召喚者の特徴は召喚主の魔力量、精神に依存するという。
ただ春香のように精神は他人に洗脳されている場合でも魔力量は召喚主、つまりハピダルの魔力量に依存し続けていることになる。
マリアーノは次の戦いに向けての備えは既に万全である。
ロジェスタンスこそ壊滅的な損害を受けたが、主力であるアルザードとステピックムーブに関しては全く損害を受けなかった。
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こちらの作品は不定期更新となっております。
また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。
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