第31話~思惑~
情報の拡散を恐れたマリアーノは外的な情報発信を抑え、春香の安否を隠し、戦争に勝利した事実のみを伝えた。
被害状況や死者数といった情報の拡散を恐れ、エクスパンドライズの正当性を固辞しようという姿勢の表れである。
もちろんインテグラリッシュ王国にも同じような内容で伝えているため、アブドゥル=ハピダルに春香の被害状況は伝わっていない。
マリアーノの慎重すぎる性格が故の行動ではあるが、非常に知的である。
はっきり言って今の状態の春香を人間兵器として起用するのは難しいと考えているマリアーノにとってアブドゥル=ハピダルにその事実が伝わることが一番いけないことで、それを理由に戦争となったら勝てっこないのだ。
ただでさえ主戦力の一つであるロジェスタンスの多くの戦闘員を失っているエクスパンドライズにとって次の戦争は自滅行為に近いようなもので、戦力が整うまでは大人しく使用という考えである。
戦後処理に努めるエクスパンドライズの面々ではあったが、それが必ずしもスムーズにいくとは限らない。
アンドロメダ皇国は他国からの影響を受けていたようで、本土ではその残党の処理もあり戦闘行為は引き続き行われてきた。
さらに、エクスパンドライズからは少し離れたところにアンドロメダ皇国はあり、直接的な統治は難しく、飛び地での代理の支配者を決めなければならなかった。
また国内でも奇襲を受けた地区の損害は特に酷く、業火に焼かれたためそこの住居等の建造物はもちろんのこと、山や田畑までもが焼け散ってしまったのだ。
さらに、戦争による死者を弔うことに追われていた日々であった。
マリアーノは飛び地の支配者について頭を悩ませていた。
正直誰でもいいという思いはありながらも、自分の意見について従順で、リーダーとしての威厳と知識があるような人材を探していた。
適合者として葉山恭介の名もあったが、彼はアルザードのリーダーであり、エクスパンドライズにとっての第一主戦力である部隊のリーダーを離れたところに置くわけにはいかないのだ。
また、絶対王政のようなシステムをとっていたアンドロメダ皇国の国王:アレクサンドルを死罪としたことによって、現地を詳しく知るリーダー格という人物はおらず、適合者はなかなか見つからなかったため、アルザードの現地調査だけでは何も進んでいかなかった。
目を覚ました春香は皆の前へと出ると、その復帰を歓迎され、温かく迎え入れられた。
はじめてエクスパンドライズの一員として加わったあの人は違い、皆が避けることはなく、どちらかというと春香を待ち望んでいたようだった。
ただ情報の拡散を抑えるために、アルザードには帰ってくるまでその事実は告げられることはなく、特に陽介はずっとその心配をしていた。
陽介にとっては自分を育ててくれた師匠。
帰国したときに気を苦を消されていたようなこともあり、インテグラリッシュ王国に思うところもあるが春香に対しては感謝の念が大きい。
そして数日経ったある日にアレクサンドルの死罪が執行されることになった。
マリアーノはアレクサンドルの戦争行為を是として特に否定することはなかったが、自国民のため、敵国への牽制の意味合いも込めて極刑を課したという形をとった。
国の利益を優先する以上、戦争というものは避けては通れないものではあるが、それを犯したものは必ず裁かれるという世の中の摂理である。
そして死罪執行の日にアルザードはエクスパンドライズに帰還した。
持ち帰った成果をマリアーノは非常に満足していた。
大量の宝をアレクサンドルに見せつけ、その成果をも見せつけた。
エクスパンドライズがアンドロメダ皇国を完全制圧したことをアピールし、教会の最深部にある処刑場へと向かった。
そこは真っ暗な部屋で明かりも何もない。
真ん中には上から吊るされたロープがかかっており、その下には椅子が置いてあるだけの至ってシンプルなつくりの部屋である。
拷問の際に四肢を失い、胴体だけの人間になり痩せ細ったアレクサンドルが運ばれて椅子に座らさせられた。
椅子に座り腹部をロープでぐるぐる巻きにされた。
ただアレクサンドルの処刑方法は絞首刑ではない。
しばらくすると、マリアーノがアレクサンドルの前に歩いてきた。
その右手には日本刀のような見るからに切れ味の良さそうな刀を持っていた。
そして刀を両手で持ち一瞬でアレクサンドルを切り刻んだ。
椅子には不規則にバラバラになった死体が転がり、多くの血液が流れた。
エクスパンドライズでの処刑方法は全て魔法の神官であるマリアーノが決めることができる。
そしてその刑を執行するのもマリアーノ自身である。
アレクサンドルを捕まえてからここまで実に二週間程度の話である。
その間国内では戦争による被害の復興が次々に進められ、国内の戦後処理については順調に終わりを迎えようとしていた。
春香の状態も徐々に良くなっていき、まだ戦線復帰とは言わないが魔術を発動することなどのある程度の動きはできるようになった。
そんな時違和感があったのはインテグラリッシュ王国にいるアブドゥル=ハピダルである。
彼は終戦と聞いているのに春香がなかなか帰ってこないことに違和感を感じていた。
彼にとって春香は最強の部下であり、自分の右腕を担っているため戦力としても参謀としても失いたくない人材であったことは間違いない。
そんな人物が帰ってこないとなると、死んだという最悪の事態も考えなくてはならない。
ただでさえ渋々貸した春香であるため、ここで失えばその報復と新たな存在の獲得のためにエクスパンドライズに戦争を仕掛けることも考えているという。
そしてハピダルが選ぶ春香の代わりになるような人材というのが佐藤陽介である。
これには訳があり、春香とともに陽介が修行している時に戦争の可能性を示唆していた面はあるが、それは陽介が戦争の時にいかに厄介な存在となるかを測っていたという。
そして春香が自分の口から負ける可能性があるといったことで、ハピダルは春香の後釜として引き抜くことを検討していたのだ。
また陽介と戦ったフロストウィングはハピダルに陽介のことをこう語っている。
”彼の能力は随一じゃ。組み合わせも自由で声からの伸びしろも凄まじい。いずれかは世界一の能力者に君臨するだけの能力はある。”
最強の魔物であるドラゴンのフロストウィングがこう語るように陽介はまだ能力者の原石に近い存在である。
いずれかの最強を自分の手中に収めたいハピダルは陽介がインテグラリッシュ王国を去ってからずっとそのタイミングを狙っていた。
一方エクスパンドライズにとって春香未来という人物は国を高めるのに必要な人物で、戦力になろうがならまいが必ず手に入れたいとマリアーノは考えている。
もともとマリアーノとハピダルは同じ舞台で戦った戦士同士で、今はどちらもが国を率いるリーダーとなっている。
その繋がりから春香を借りることができたが、春香は召喚者で基本的にはハピダルの魔力に依存するという性質を持っている。
その中で確実に自分のモノにするには洗脳とその繋がりの術式の解除である。
ただ、召喚術式は非常に複雑な術式であり、使用する際に自分への精神依存等の洗脳するための術式を組み込むのでさらに複雑な術式となる。
術式が複雑になればなるほどその術式を解除するのは困難になるため、誰も召喚術式にかかる依存と洗脳を解こうとはしなかった。
それは術式を解いて召喚者を強奪するよりも、自らの体の傷を犠牲にして召喚術式を使った方が効率も成功率もよく、メリットが大きい為である。
でもなぜマリアーノは春香未来をそこまでして手に入れたいかという疑問が出てくると思う。
その答えは春香の思考力と判断力にマリアーノがほれ込んでいるからである。
春香は陽介に戦闘というものを教えるために、戦術についての学びを共有したり、現場での指示を常に任されていたりとエクスパンドライズに戦術面と判断力で大きく貢献することが見込めるからだという。
マリアーノは春香が負傷し、眠っている間にかかっている術式の解析を行い、ある程度の春香強奪に関する算段がたったという。
両国の思惑が対立する中でアブドゥル=ハピダルはついに動き出した。
アブドゥル=ハピダルがエクスパンドライズに使者を出したのだ。
しかもその使者というのが氷のドラゴンであるフロストウィングであった。
交渉次第では国交を維持するが、返答次第では戦争も致し方ないという判断のためであるという。
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