第30話~要求~
「柊!春香さんは...。大丈夫なんでしょうか...。」
「陽介...。戦いはとりあえず終わったんですね...。」
「あぁ。それより春香さんは...。」
「今私を含めた回復術師で懸命に魔術をかけています。ですが胸部をしっかり刺されているので可能性は3割程度といったところでしょうか...。今は一応意識はあるようです。」
春香のとりあえずの無事を確認して、陽介はマリアーノと葉山の元へと向かった。
「魔法の神官...。召喚者、皇雄一を撃破して参りました。」
「あぁ...。助かったわ陽介...。貴方が生きて帰って来てくれて私は嬉しいわ...。」
「ところで他のみんなは...。」
「あいつらならまだ戦っているさ...。お前が召喚者との戦いに集中できるようにってな...。」
「なら俺も行かなきゃじゃないですか。」
「あぁ...。もちろんだ。陽介。俺たちであいつらの手助けをしに行くぞ。」
「それもいいけど私も連れて行きなさい...。最後は皇国の王を話をつけるか殺し合うかしなきゃだわ...。だから三人で行きましょ...。ここは柊に任せるわ...。」
戦争というものはそういうものだ。
最後は敵将の首をとるか降参させるかのどちらかだ。
マリアーノ自身は降参を願っているが、万が一の時は殺し合いに発展すると考えている。
ただマリアーノもそうだが、基本的に国を治める者はもともとの武力が高いものではあるが、そのトップに立つときに武力が低下し、その対価として統率力を手に入れるという。
魔法の神官と呼ばれるマリアーノらが攻撃においてあまり活躍できなかったのもこれが所以でのことである。
二人の召喚者を倒したエクスパンドライズにとっては敵の脅威はもう去ったと言っても過言ではない。
マリアーノ含め多くのエクスパンドライズ側の者が勝利を確信し、アンドロメダ皇国の多くの者は敗戦を実感していた。
そのため周りでの戦闘も終わり、エリス、イザベラ、ステピックムーブといった戦いに出ていた者は戦闘行為を停止し、柊がいる丘の上へと退いた。
アンドロメダ皇国の宣戦布告には、双方技術者の佐藤陽介の略奪と領土の拡大が目的であった。
しかしこの状況で領土の拡大はおろか、佐藤陽介の略奪はできたもんじゃないのは明らかである。
対するマリアーノの要求は召喚者の召喚術式の封印と賠償であり、その条件がのまれなければ更なる攻撃をも是さないという姿勢だ。
戦の影響で火の場となった草原を進んでいき、その奥にアンドロメダ皇国の本陣があった。
そこには豪華な衣装を身に纏い、下を向いた王が鎮座しており、マリアーノらの登場を待っていたかのような様子である。
マリアーノは冷静な装いで陽介と葉山を少し離れたところで待機させ、一人で王の元へ向かった。
「貴様...。こうなった経緯を説明せよ...。」
「これはアスケル=マリアーノ。やはり大王というものは格が違うようですな...。ハハハ...。」
「貴様何を笑っておる。私は説明を求めているんだわ。早くして頂戴。」
「まあまあそんな怖い顔を...。こっちも二人を殺されて少し怒ってるんだ...。」
「仕掛けてきたのは貴様だろ...。我々が勝ったならば悪は全て貴様じゃ。はよ話をせんか。」
「まあ大王...。胸ぐらなんか掴んじゃって...。しかもせっかく可愛いお顔もすごく険しいのでは?」
「誰のせいかわかっておらんのか...。なんて馬鹿げた人間だこと...。」
「馬鹿とは何事じゃ...。ただ俺はまだお前らに勝ちなんか譲ったつもりはないぞ...。」
「ただここで足掻こうが貴様には無力なのは分かってるわ...。貴様は王となるときに能力が制限されて召喚術式と洗脳以外使えなくなったはずよ...。そのくらい情報は入ってきているわよ...。」
「そこまでわかっていれば俺が何をするかくらいわかるだろ...。召喚術式展開...。俺の魔力に依存する能力者を生みだし給え...。......。」
「そうはいかぬわ...。ここはエクスパンドライズの土地よ。あなたの召喚術式も発動させないようん結界を張ってあるわ~。さて...。これで私の要求を聞くかしら...。」
「仕方あるまい...。そこまでされてはお手上げだ。話を聞こうアスケル=マリアーノ。」
「私からの要求は召喚術式の禁止と我が国の損害に対する賠償よ。これを聞かなければここであなたを殺すわ。」
「召喚術式の禁止というのはつまりこの俺の存在意義を消すということか...。それはなぜだ。」
「召喚者というのは強い者になれば、一人で一部隊を壊滅できるレベルの者も生まれるわ。召喚者という存在を貴様から消さなければきっとまた同じことだわ...。」
「じゃあもしこの要求を受け入れたとして俺はどうなるんだ。」
「貴様はエクスパンドライズのある場所に勾留したのちにまた考えるわ。ただ自由はないと思いなさい。もぬけの殻になっているアンドロメダ皇国の本土には我々の使者を派遣してエクスパンドライズとして統治するわ。」
「なるほど...。どっちみち我は死ぬということか...。ならばここで盛大に暴れてやろうじゃあないかぁぁぁぁ...。って動けねえじゃねえか...。」
「貴様は本当に馬鹿か...。こんなことは予想できるわ...。陽介、恭介。運んで頂戴。」
そういわれると葉山と陽介はアンドロメダ皇国の王であるマリア・デ・アレクサンドルをマリアーノが言っていたあの場所である教会の地下深くの牢獄へと連れ帰った。
そしてマリアーノは急ぎ足で丘の上の春香の元へと向かった。
春香を助けなければ本当にインテグラリッシュ王国との戦争となってしまうということもあり、この戦争で戦力がかなり削がれたため避けたいことではあった。
丘へ戻ると相変わらず春香は横たわっているが、腹部からの出血具合が少々よくなっており、若干回復に向かっているようではあるが、春香の反応は鈍く、意識も朦朧としているような状態である。
マリアーノは春香を含めた負傷者を教会へと搬送することを指示した。
そんな春香は瞑った目の中で何かが見えていた。
そして記憶の中で動く幼き頃の自分の姿を第三者の視点で見ていた。
そして徐々にその自分が成長していく。
記憶にあることないこと全てが早送りで流れていくようだ。
召喚される前の記憶からこの世界に来てからこの戦いまでの全てが思い出されていく。
春香は走馬灯を見ていたのだ。
走馬灯を見ながら春香は自分の歩んできた人生を振り返っていた。
私なりの生き方で過ごしてきたこの人生に間違いはなかったのか。
後悔はなかったのか。
私が生まれてきた意味は何だったのか。
この世界に召喚されてからは私の思うような生活ができたのだろうか。
私はこの世界で求められていることを成せたのだろうか。
まだやり切ってない。
まだ生きたい。
まだ私はやれる。
自分の過去を振り返り、まだ自分の人生に公開を感じた春香の目にうっすら光が差し込んだ。
少し眩しく目を開け起き上がると、そこはベッドの上であった。
辺りには誰もいないがどこかの部屋にいるようだった。
刺された腹部を見ると血は完全に止まっており、傷口も痕は残ったが塞がっていた。
扉を開けて外を見ると誰か女性の姿があった。
「マリアーノ...様...でしょうか...?」
「そうですわ。って春香ちゃん...。よかったわ...。」
マリアーノは嬉しさのあまり、春香に飛びつき強く抱きしめた。
「よかった...。よかった...。もう死んじゃうかと思った。もう喋れないのかと思った...。よかった...。本当によかった...。」
「マリアーノ様...。そんなに泣かないでください...。私は一応無事です...。記憶はあの後からないですが体は無事です...。」
「よかったぁぁぁぁぁ...。もう本当に...。」
マリアーノは春香が目を覚ましたことに大号泣していた。
戦争が終わり実に五日の日時が過ぎ、もう助からないとも思っていただけにマリアーノの思いはとにかく春香が目を覚ましてくれてよかったという思いでいっぱいであった。
春香が眠っている日々のうちに様々なことが起こった。
アルザードがアンドロメダ皇国の本土を統治するための礎を固めに行き、ステピックムーブと捕虜で被害が出た部分の復興にあたり、マリアーノはアレクサンドルに拷問をし、言葉詰めをして事実を全て話させた。
アンドロメダ皇国は完全にエクスパンドライズの傘下として存在する形となり、事実上の消滅を意味し、アレクサンドルは召喚術式を使う危険な魔術師と判断し、エクスパンドライズに大きな被害を与えたとして死罪が選ばれることとなった。
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こちらの作品は不定期更新となっております。
また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。
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