第9話~その時~
「聖なる光、神秘なる生命の泉よ、対象の傷を癒し力を取り戻さん!強回復魔術!」
それは人体を覆うくらいのサイズでそう複雑な術式ではないようだ。
そして体が何か神秘的な光で照らされる感覚とともに、何かに心を現れるような感覚がし目が覚めた。
「...。柊...。なのか...。」
「そうですわ。貴方の部屋から活動反応が急に消えたため、魔法の神官より呼び出しを受けて強回復魔術を貴方に向けて使ったという所存であります。体の方は大丈夫なんですか...?」
「体は特に異常はないんだけど...。少し考え事をしてたら気付いたら...。」
「一時的な疲れというところでしょうか。無理は禁物です。魔法の神官からも言われている通り貴方はここで守られていく存在です。」
「でもよ...。俺、この世界の本質に何となく気付いちゃったんだよ...。それでちょっと考え事とか自分の責任感とかそういうものを感じていたら俺は本当にここに居ていいのかなってさ...。」
「柊。俺に言えることでいいからとにかく何でも教えてくれ!」
「貴方がこの冒険者ギルドの本質に気付いてしまったのは既にこちらとしても把握しております。魔法の神官。彼女は闇の神官。いわゆる闇属性魔術師であり心理・精神系術者よ。その能力の主な使い手は予知や予言が主なものでその応用で人の心理を掌握し、操り人形のように扱うことだってできます。ただ現状、そのような術式をこちら側に向けて使用したことはございませんのでご安心を。貴方が察していることの大まかな内容はそれで合っています。まずここは冒険者ギルドとご案内いたしましたが本当は『エクスパンドライズ』という宗教の教会となっております。この世界の宗教は、ある一つの宗教が光、闇、水、火、地、風といった様々な魔術的能力によって派生したものとなります。そしてここはその闇属性魔術が中心の教会となっているわけです。」
「ちょ、ちょっといいか...。魔術の属性があるのはわかってんだけどよ。その属性ってのが何か作用するものでもあるんか?」
「魔術の属性にはそれぞれに弱点属性というものがございます。光と闇は互いに弱点であり、火は水に弱く、水は地に弱く、地は風に弱く、風は火に弱いという関係性があります。また光と闇のグループと火、水、地、風の四原則と言われるグループは互いに弱点であり、その関係性から互いに牽制し合っています。」
「んで、その魔術結社ともいえるその教会はどれくらい存在するんだ?属性ごとに一つずつなのが相場だろうが...。」
「それが一つずつではないのがこの世界の宗教的な問題なんです...。属性ごとの宗派からさらに派生しているのが争いを生む原因となっているのです。そしてこの世界では数十から小さいものまで数えると、おおよそ100近い教会による支配地というものがあります。」
「その中で魔術も異能も使える貴重な存在である双方技術者が狙われるってことか...。」
「そういった認識で間違いないと思います。とは言ってもここは闇属性の教会でも最大派閥の教会です。広大な土地に多くの信者を抱える教会です。それが功を奏して今まで大きな戦闘というのは第四次大魔法戦争以来あまり行われてこなかったようです。しかし、我々が双方技術者というものを手に入れたという事実が出回ると、それの略奪を口実に宣戦布告ということが起こり得ないのです。実際にそのような例が過去にあったのです。ただ、双方技術者は大きく成長すると手がつけられない様な能力者となり、戦争を回避することができるという可能性があるのです。魔法の神官はここの土地を統べるものとして民を守るために最善を尽くそうとした結果があなたの存在を隠すことだったということです。」
俺は少し引っかかることがありながらも納得した。
柊の言うことに間違いはなさそうだし、信用しないわけがないといったところか。
しかし、言動心理のすべてを見透かされていると知った以上、無茶な行動はできないし、それはこの世界に来て救ってくれた人々への裏切りとなるということだ。
最初に話しかけたエルフの人々だって、そこら辺を歩いているオークやゴブリンだってそう。
そして、この世界に転生してきた人間に対してだって裏切りを図ることとなりかねない。
俺は異世界に幸せな日常を取り返しに来たのに周りを不幸に誘うわけにはいかないということだ。
そして俺は再びクエストという名の外敵排除ミッションを敢行していくこととなる。
しかし、ある程度の内容が明かされた今、俺は以前よりも考えることが増えて戦闘に全力を尽くすのを疎かになってしまっていくのだ。
また、未だに光の大太刀を使う機会もなく、その能力やパワーも把握できないまましばらくの月日が経って行った。
転生してから初めて何もない日々が続いていった。
俺は昼間はミッションをこなし、空いている時間でこの日常の違和感をしばらく探していた。
転生してから一カ月半近くたったとある日のことだった。
「陽介!ちょっといいか?教会の入り口当たりのところに今すぐ来てくれ。」
アルザードのリーダーである葉山恭介からのお呼び出しだ。
その声はちょっと焦ったような声で、電話越しに息を切らしながら走っている様子が伝わってくる。
「陽介。ちょっと大事な話がある。」
葉山は切羽詰まった様子で話しかけてきた。
「何かやばいことでもあったんですか?!」
「あぁ。お前に関する情報を隣の教会自治区の中で広まりつつあるという情報が入った。恐らくスパイかなんかの仕業であると考えられるが、とにかくここに危険が訪れる可能性があると魔法の神官から忠告が入った。」
「だったら俺も一緒に戦います!ここら辺の訓練で鍛えたものの威力を試す場面ですよ!」
「いや待て。我々アルザードはエクスパンドライズの中でも切り込み・戦闘特化部隊である。だから我々は戦争になったらその戦場にいち早く向かわなければならない。けどお前は超重要保護人物なのはわかってるな。これからまだ魔法の神官と話し合うけどお前が戦場に行くか、ここで匿われていくかはまだわからん。お前個人の意見としては戦いたいとは思うけど、そうできない事情がある可能性もある。」
「そんなこと言ってもこの日常は俺が守りたいんです。幸せな日常を取り戻すために俺はこっちの異世界に転生したんだ!」
「お前の気持ちも重々承知してる。だがよ、お前が最前線に出てって連れ去られたりしたらどうする。この世界で双方技術者が重宝されているのはわかるだろ?双方技術者ってのは説明受けただろうけど、この世界のパワーバランスを整えるための鍵ともいえる。それにこの教会は大きな力を持つのに双方技術者が今まで居なかった。そこでお前の誕生と来たら他の派閥を牽制する為の大きなピースとなるんだ。俺もお前の気持ちに応えたいし一緒に戦いたいから魔法の神官には交渉するつもりだからお前も準備を怠らないでくれ。」
ー教会所属の能力者に告ぐ。只今より対エステイミール教に対する作戦発表を行う。直ちに地下の大講義室に集合せよー
「これが出たってことは開戦の合図だな...。行くぞ陽介。」
ー これから俺の存在を巡っての戦争だって言うのか...。
ドキドキでもワクワクでもない高揚感に身を包まれるとともに、足が僅かに震えていた。
ご覧いただきありがとうございます。
こちらの作品は不定期更新となっております。
また作者の語彙力のなさなど思うところはたくさんあるかもしれませんが、温かく見守っていただけると幸いです。
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今後ともよろしくお願いします。




