溢れる3
「お疲れ」
彼女たちが去って、楓君も名残惜しげに帰った後、その場で深くため息をついた私に声を掛けてきたのは加奈子だった。
「楓君に声掛けてくれたの?」
「ま、それが1番確実と思ったんだけどね、読み違ったかも、悪い」
「色々読み違ってたのは私だよ、……加奈子には判ってたんだね」
「まぁ、ね」
「……どっから見てた?」
「関係ないです、あたり?」
ほぼ全部じゃんと思いつつ、いちからの説明が不要そうな状況が有り難いとも思ってしまう。
「あれで、良かったのかな?」
「優穂が精一杯考えて、1番良いと思うことを提案したんだから、彼にとってはそうだと思うよ」
良いも悪いも断じない、加奈子らしい答え。
……でも、今は、それにホッとしてしまう。
「今日は家来な? てか、連絡済みだし」
「え? 済み?」
手回しが良すぎて困ってしまう
「色々話したいこともあるしね、学校のこととか」
あぁ、そういえば皇樹のことも藤杜のことも見学に行った、位で細かい話はしてなかった……。
「お夕飯沢山手伝って貰っちゃったし、後は大丈夫、加奈子とお部屋でゆっくりしてね」
急に来た私に何かあったと察してくれたカナママは、いつもならお泊まりの時は映画だゲームだと一緒に過ごす時間をそう言って、親友とのふたりだけにしてくれた……
「お茶は良し、ポットもある、クッキーに口直しのしょっぱいおせんべいも完璧、さて、久しぶりにがっつり話そうか?」
機嫌は悪くなさげだけれどニコニコの笑顔と完璧の準備が少し怖くて
「夕飯後にそんな食べたら、後が怖いんだけど?」
敢えて少しノリの悪い言葉を選んでみたら
「そんなの気にしたこと無かったクセに? 急にそんなこと言い出すなんて、少しは女子高生としての感性生まれた?」
なんとも刺さる返事が戻るのに、やはり加奈子には適わない。
「妙な抵抗してないでキリキリ吐いてしまいなさいな……吃驚したんでしょう?」
そして続いた言葉の優しさに……本当に、適わない、って。
「本当にポンコツだったよ私、もっと他に言葉、無かったのかな?」
「想いに正解なんてないよ……それは優穂が鈍いとかそういう問題じゃ無い」
「そう、なのかな?」
「お互いの問題、って言うのかな? 楓君は優穂が死ぬほど鈍いなんて誰より知ってると思うし、その中で必死に見つけた答えなのは判っていると思うよ」
きっぱりと言い切った後。
「ただ、さ……」
いつも歯切れの良い加奈子にしては珍しく言い淀むのに、ドキリとその顔を見つめてしまう
「あれだけ懐いて、慕われて、ちらりともその可能性を考えもしてなかった……判ってたけど、そんな優穂が心配では、ある」
親友が迷いつつ続けた言葉は私の胸を貫いた
「また、誰か……傷つけ、る?」
「そっちを心配するのは良いところだけど、それだけじゃ無い、人の感情に疎いと言うことは自分の身を守るのも苦手だって事だよ」
「自分を守る……」
「傷つけようとする人について行ってしまうのも、好意がある人について行ってしまうのもどっちも危ないことだよ? 今までなら私が口出しも出来たけれど、高校を卒業したら私は優穂の側には居られなくなる」
その少し焦るような切羽詰まった真摯な声にもしかしてって、思う
刺激物は大歓迎とかなんとか言ってたのは、面白がっていたとかじゃなく? ともすれば引っ込みがちな私の手を引っ張って、色々な経験をさせてくれようとしていた、あれは
「私……ずっと、守られて、心配させてたんだね?」
「そんなのは良いんだ、好きでやって来たことだし、だから一緒に居た……それは楓君と一緒」
「……っ! こほっ」
急に名前を出されて思わず飲んでたお茶を気管に入れてしまった
「それでも普通の学校行くなら、あんまり心配しなかったんだけどね」
さらりと髪を揺らし、私を真っ正面から見つめた加奈子の瞳の中には、キョトンっと小首をかしげる私が居て
「皇樹……中々だよ? あそこは」
親友で幼馴染みの瞳に映るのは、確かに自分の筈なのに、何だかとても幼げに、見えた。
なんとか、今週は行けました。
次週月曜up出来なかった時は活動報告をご確認下さい。




