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柊高校物語  作者: 萌葱
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「情けない……な」

 紙コップをゴミ箱に捨てて、ゆっくり息をつく。

 瞳の端に触れてそこに水分が無い事に心底安堵した。

「これじゃ、駄々をこねる子供だ……本当に」

 すぐにでも戻りたい、僕にとって優穂先輩と居られる時間は何より貴重だ。

 だけど……。

 少し遠くに見えるベンチで藤棚を眺めている先輩(想い人)の背中、父も母を迎えに行くときこんな風に見つめたんだろうか。


 瀬文の女性は社交的には表に出るが、立場的には専業主婦が多い。

 そしてその相手は割と早いうちから決められた婚約者ってケースが大半と聞くけれど、学生の時に恋した相手とそのままっていうのも稀にある……僕の両親の様に。

 ふたりの出会いは柊で、母を見初めた父が必死に口説き落として付き合いだしたのだとか。

 高校時代の殆どを一緒に過ごしたふたりは大学進学については将来を考えて、一般家庭に近い家庭で育った母は瀬文の一族の多くが通った藤杜(ここ)、父は他校で自分だけで無く母をも守れるだけの力をつけると、決めたのだとか。

 けれどその後も、時間がある限り父はここに通い、母は学びながら父を待っていた。

 子供の頃から聞かされた話だったけれど、僕が柊に通い出してからは行事のたびに思い出話をする事も多くて……それは、微笑ましくはあったけれど、僕はどの行事も先輩と一緒にって事は出来なかったから、少しだけ、苦くて。

 

 そんな学生時代を過ごしたふたりだったから、人との出会いの余地を最初からなくしてしまうのは惜しいといって、僕に婚約者は決める事はしなかった。

 今までその事には感謝しか無かった……の、だけど。

 先輩は僕を凄く大事にしてくれる、ただの後輩、よりはきっと多くの時間を僕と一緒に過ごして、それを楽しんでくれてもいる。

 きっと、弟、みたいに。

 だから時々思うんだ、本当に弟のままでいられたら、僕に決められた人が最初から居たら……こんな思いはしないですんだのかな? って。

 先輩はどんなに僕が頑張っても、先に卒業してしまうし、ましてや大人しく守られ待つような人じゃ無い。

 判っていて、でも、僕はここに先輩を誘ってしまった。


 ……加賀先輩の本気に気がついてしまったから。

 あの人が一言も告げないまま、独占欲丸出しに自分の世界に先輩を連れて行こうとしている事に。

 加賀の家は瀬文とは違う、妻を家の中で守るよりは共に闘うタイプの家だ。

 だから、結婚相手に求める物は大きく、何よりその水に慣れている事が求められる。


 だから、僕は少しだけ期待していたのかもしれない、加賀先輩はきっといつか優穂先輩を手放さなければいけない日が来るんじゃないかって。

 その間の関係性がどうであるかとか、僕が耐えきれるかどうかとかは、考えたくもなかったけれど……それでも、先輩の側を離れなければ、この1年差が埋まる時が来る、その余地はあるかもって、そう思ってた。


 「皇樹……」

 加賀先輩が加賀の一員として社会に出る前の最後の場、そこに優穂先輩までも連れて行き、経験を積めば、彼女は先輩の隣に立つ人になれる……と?

 学生時代の一過性の相手でなく、生涯を共にする相手に……。

 

 遠くに見える背中を見つめ、早く戻らないとと思うのに、気持ちが乱れすぎて、こんな状態で戻ったら何を口走るか判らなくて、それが、怖くて一歩踏み出すことすら、出来ない。

 都合の良い御伽話だって判っていても、願ってしまう。

 ここで、待っていてくれませんか? 僕があなたに追いつくのを。

 貴方にとって僕は、後輩で弟みたいな存在って判ってます、一緒に居る為に敢えてそう振る舞っても居ました。

 でも、僕だって、貴方を見つけた、同じ学校でも無く学年だって違ったのに、出会えた時期は加賀先輩(あの人)とだって、変わらない、気持ちだって決して負けてるとは思わない。

 だけど、決して埋まらない、この1年の差が……果てしなく大きな距離に思えて。


いつも、読んで頂きありがとうございます。

が、多忙につき2度目のストック切れが……。

ごめんなさい、また暫くお休みを下さい。

6月10日までには戻るか、無理でもその先の予定をお知らせ致します。

よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] たった1年だけど、年下である楓くんにとってはとても大きな1年なんですよね。 ライバルも手強いし(笑) ご多忙とのこと、天気や気温も不安定な様子ですので、ご無理はなさいませんように。
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