おすすめ2
気がついたらいつの間にか50話過ぎていました。
何か番外編でもと思わなくも無かったのですが、なんだかこの話は寄り道が難しいです。
取りあえず、先々へと頑張りたいと思うのですが、ストックが……。
「これはまた……雅だねぇ」
あれから一週間後の放課後、楓君と待ち合わせて向かった大学は藤杜学園という場所だった。
敷地内にはとても緑が多く良く手入れがされていて、特に目を引いたのは学校の名前にもなっている藤棚がぐるりと張り巡らされた水辺の一角。
そこに設えられたベンチに腰掛けてホッと息をつき、眺めているだけで癒やされそうなその風景を見つめていると
「どうぞ、先輩」
私がぼーっとしている間に買いに行ってかれたらしい楓君が、カップのミルクティーを差し出してくれた。
「あぁ、ごめん、気を遣わせちゃったね」
「いえいえ、今日は僕の我が儘に付き合って貰ったのでこれくらい」
「名前を聞いた事くらいはあったけど、こんな場所とは思わなかったよ、綺麗な学校だね……空気も穏やかで、なんだかホッとする」
食堂も図書館も大きくて立派な建物ではあったけれど、皇樹みたいに目を見張るって程では無く、学校が終わってから来たから授業は終わっていたけれどすれ違う生徒達もどこかおっとりとしていて、本当に違うもんなんだなとしみじみ思う。
「皇樹に比べれば見劣りするかもしれませんが、僕たちの一族は……特に女性はここの出身が多いんです」
「そんな事無い、比べられるものじゃないよ、タイプが全然違うし……そか、渚はここ?」
「受かれば、ですけど、先輩なら問題ないと思いますが、結構ここも偏差値は高いんです」
「なら、楽勝でしょう? 私は塾行ってこれだけど、渚は習い事くらいで勉強は自力だし」
「ふふ、でも四月から家庭教師が付く予定です、今から嫌がっていますよ」
「あ~、ま、1年くらいは仕方ないか、頑張れ渚だね、楓君もここ予定なの?」
「僕は……まだ、先輩達より1年余地がありますから」
そう呟くと、楓君は手に持っていた紙コップをくしゃりと握りしめた。
飲み終わっていたみたいで火傷とかの心配は無かったけれど、らしくない仕草にあれ? って思う。
でも、片方の手で髪をかき上げそのまま目元を塞いでしまうから……表情も読めなくて
「焦らないでゆっくり考えれば良いと思うよ、私も楓君が決める頃なら相談も乗れるだろうし」
「そう……ですね」
私の言葉に同意はしてくれるけれど、なんだか元気がない?
「ここは、僕の母の出身校でもあるんです……子供の頃はよく、お気に入りだった水辺のベンチで本を読んでいると、他校の父が放課後会いに来て、とか、父へのプレゼントのセータを編む母の姿を声を掛けずに眺めていた、とか、夫婦揃ってそんなのろけ話を僕にして来て」
懐かしげにお伽噺のような綺麗な思い出を話してくれながらも、手を下ろした楓君の表情はやはり翳りがある。
「憧れていたのかもしれません、僕もいつか藤杜で大切な人と待ち合わせをすることに」
憧れを口にしつつも楓君の声は寂しげで
「でも、先輩達は先に行ってしまう、……偏差値が足りなければ勉強して上げる事は可能です、でも、時間だけは……1年の違いは、大きすぎて」
苦しさを吐き出すように呟く言葉にはっとなる。
「進路の話なんてしちゃったから、寂しがらせちゃった? ごめん……」
「いえ、違うんです、そうじゃなくて」
ふるふると首を振りながら、ふと握りしめたままの紙コップに気がつくと、すっと立ち上がって
「先輩のも下さい、一緒に捨てて来ます」
私が行くよって言いたかったけれど、優しく手を差し伸べてくれる楓君の瞳どこか潤んでいるようにも見えて驚いてしまう。
その切なげな顔の理由が良く分からなくて、どんな言葉を掛けたら良いかすら迷ってしまった私は、敢えてコップを託す事にした。
読んで頂きありがとうございます
次作は翌週月曜日予定ですが、その後また少しお時間頂くかもしれません。




