カリナ再び
前作誤字が多く申し訳ありません。
ご指摘ありがとうございました。
「ユーイチロウ!」
漸く演劇部の手伝いも終えて、今日は塾も何にもねーし、久々に甘味処でも行くか? なんて話をしながら連れだって駐輪場に向かってたら、行き先から聞こえた声に嫌な予感がした。
「カリナ!」
駐輪場の柱の陰からひょこりと顔を出し、こっちに駆けだしてくるのは案の定で
「危ない!」
俺が足を止めた分少し先を歩いていた楠は、小石に躓きかけたカリナを、片手で抱きとめていた。
「大丈夫? 怪我は無い?」
「あ、ありがとう……」
少しぽわっとした顔で楠を見上げるカリナに嫌な予感はさらに増した。
「……ホント、悪い」
「良いよ、カリナちゃん可愛いし、今日は暇だったし、ただ、本当に良いの? ここのパスポート代」
「それくらい受け取ってくれ、急に遊園地なんて我が儘言ったのはこっちだしな」
転ぶところを抱き留めた楠が俺の友達だと判った途端、カリナの我が儘は爆発し、楠はそれに早々に折れた。
俺としては、さっさと帰した方が無難と思ってはいたが、自分のブレザーの裾を握りしめ涙目になるカリナを楠は放って置けなかったようで。
……まぁ、確かにこうなったカリナをなんとかするのは困難だったから、助かったと言えなくも無い。
「月曜日持ってくる、今日はそんなつもりなかったから持ち合わせ無かっただけだよ?」
「だから良いってば、あいつの自由になる金は俺たちの何倍以上? ってレベルだ」
「え? あの子小3位じゃ無いの?」
「まぁ……色々訳ありでな?」
「ユウホ! ユーイチロウ! 買ってきたわよ!」
「ありがとう、でも、ゆっくりで良いよ、又転んじゃう」
満員御礼のキャラクターショップ、店は小ぶりなのに人でギュウギュウで、中に入るのを楠が遠慮したのを見て、カリナは我が儘も言わずお付きのSPだけを連れて入っていった。
その後どうやら隣接したフードショップでアイスを買って来てくれたらしく
「ユウホに最初に選ばせてあげる! ストロベリー、チョコミント、バニラどれが良い?」
「ん? どれも好きだからカリナちゃんからどうぞ?」
「ダメ! 私が誘ったんだもの! ユウホはオキャクサマなの!」
……こんな風に気遣うカリナを見るのは初めてで微笑ましいやら恐ろしいやら
「ありがとう、ならチョコミント貰うね」
楠がそれを受け取ると、嬉しそうに笑って
「ユーイチローはバニラよね?」
俺にもアイスを渡すと、カリナは当たり前な顔をして楠の隣に腰を掛けている。
3人揃ってアイスを食べて……これってハタからは何に見えるんだろうな? なんてことをちょっと考えた。
「ユウホ! アレに乗るわ! 大丈夫?」
「おー、歯ごたえ有りそうなジェットコースターだね、任せて」
「オバケヤシキは平気? ここはライドタイプじゃ無いから怖くても歩かなきゃダメなの」
「感受性に難ありと言われる私はお化け屋敷には強いよ?」
「カンジュセイ?」
きょとっ? とするカリナは珍しく年相応で可愛げがあり、同じ事を思ったのか、ふふっと笑った楠はカリナをギュッと抱きしめて
「怖かったら私が抱いて運んであげるから大丈夫! いく?」
「え!? カリナなら大丈夫、ユウホだって案内できるわ! ユーイチロウ行くわよ」
抱きしめられた事に目を丸くして、けれど嬉しげに頬を染めつつ、口では虚勢を張る姿は、いつもの爆弾娘が嘘だろう? と思わせるには十分で。
「あぁ……高いとこって気持ちいい~」
その後も、フリーフォールの最中そよ風のように重力を楽しむ楠に、しっかりと抱きつきながら、カリナは心地良さげに悲鳴を上げていた。
「……そろそろ帰らなきゃね? 今日は凄く楽しかった、ありがとう、カリナちゃん」
遊園地の大観覧車に3人で乗って、巻きこまれた癖にそんなことを言い出すからカリナはとうとうポロポロ涙をこぼし
「……ううん、ううん! カリナも凄く楽しかった……離れたくない」
そのまま楠に抱きつきながら、愚図るように額を擦り付け……しまいには眠ってしまった。
「ありがとな、カリナ凄く楽しかったんだと思う」
「ううん、私もこんなところ来るの久しぶりだから楽しんじゃった、ただ……」
「ん?」
「カリナちゃんは少し、……寂しい子なのかもね」
抱きつくカリナの髪を撫ぜる指先は優しくて
「ねぇ、加賀、アイス代返したら、カリナちゃんは傷つく?」
「お、判ってんじゃねーか?」
読解力少し上がったんじゃね? って答えれば、また優しくその髪を解きながら
「そっか……」
何かを納得したように呟くと、ゴトンと観覧車は始点に戻り、外で待っていたSPは眠ったカリナに驚いた顔をしたが其の儘抱き上げ、俺たちは帰りの車に向かった。
カリナはまだ眠ったままで、楠の家まで送ると言えば遠慮したものの、起きた時に別れの挨拶くらいはしてやって欲しいと頼むと、気後れしつつ車に乗り込んだ。
隣で宿題のプリントの確認をしているその横顔を見て考える。
俺の極近くに居るこいつの事は、カリナという存在によって、今日明らかにはなっただろう。
只、カリナ経由であればそれは余計な雑音が入る前に、加賀の中枢の耳に入るって事でもあって……あの時はまだ、先の事も覚悟もノープランのままで距離を置き、隠すしか無かった。
だけど、今なお、この立ち位置のままでも、離れられない俺の執着を考えれば、そろそろ覚悟を決めるべきなのかも、しれない。
次作は来週予定です。




