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柊高校物語  作者: 萌葱
35/61

私は、判ってない?

切り時が作れず、長さ的には2話分と少し長いです

「ジェラルド、行くぞ!」

「えぇ、ヒルダ、あなたと共にならどこままででも……」

「〜〜っ! だからっ! そーゆー事をだな!!」

 紆余曲折の果てにヒルダもジェラルドも一緒に……って所で幕は降りて。

 瞬間、誇張でなく破裂したような拍手の中のカーテンコール、私は恥ずかしながらWキャストとして岬先輩と共に紹介を受けた。

 最初に言っておくと、そのこと自体はとても光栄なことだったと、そう思っている。


「優穂ちゃん! 凄く、凄く素敵だったよ」

 劇の終了後、クラス展示の受付に腰を下ろすと程なく、この所練習で忙しくあまり一緒に居られなかった渚が、教室に顔を出すなり嬉しげに声を掛けてくれた。

「ありがとう、そう言って貰えると頑張った甲斐があるよ」

「でも、寂しかったの! だからね優穂ちゃんが忙しい間見つけたケーキ屋さん、今度一緒に行こうね」

 渚のクラスの出し物は喫茶店で、リサーチなんて名目で随分色々な店に行ったとは聞いていた。

「渚のお眼鏡に適ったお店か、楽しみ」

「ふふっ、任せて、5件は確定だから!」

「えと、週2、にしとこうか?」

 ……小ぶりで華奢なその手のひらは誇らしげに全開で、練習期間中にも寄り道が多かった自覚のある私は、不意にこの前の「太りますよ?」と呟いていた楓君の言葉を思い出し、少しだけ不安になった。


「ちょっと良い? 楠さんだよね、握手してくれないか?」

 すると、渚の後ろから遠慮がちに声を掛けてきた男子生徒は、学年章を見ると3年生?

「握手? ですか、はい」

 手を差し出すと、その手を両手でくるんだその先輩は、嬉しげに劇の感想を言う。

 殺陣はシャープなのに、恋に悩む姿は切なくなるほど綺麗で……って、ちょいちょいそれは私では無いと突っ込みたくなるけど、嬉しげに言いたい事を言うとくるりと後ろを向いて

「待たせた、次の人どうぞ」

 とか、どうやら彼の後ろにも人が並んでいるんだけど……うちのクラス展示のお客さんでは無いっぽい?

「悪い、瀬文、ちょっとだけここ変わって貰って良いか?」

「加賀?」

 隣に座ってた加賀はすっと席を立って、こくりと渚は頷いて

「え? いや、うちのクラスの受付だよ?」

「大丈夫、優穂ちゃん、そっちのお客さんの相手してて、加賀君、簡単に段取りだけ教えてくれる?」

 私そっちのけで2人でパタパタするのが気にはなったけど、何だかこっちには握手だの、劇の内容だの話しかけてくる人がどんどん増えてて……。

「2Aの展示にご用の方はこっちで聞きますよ~」

 鈴を転がす様な渚の声を隣で聞きながら、私はそんなクラス展示とは関係ないお客様の対応に追われる事になってしまった。


「感動しました! 記念に握手して下さい」

 うん、コレくらいは、まぁ

「楠さんが演劇好きって初めて知ったよ! 今度一緒に劇場に!」

「嫌いじゃ無いけれど、今回のはそういう訳じゃ……」

「楠さん、サイン、貰える?」

「え? ごめん、そーゆーの考えたことなくて……フツーに署名になってしまうけど?」

 それに果たしていかほどの価値が……?

「すっ! 凄く、綺麗でした、楠さん、あのっ! ラストシーンの笑顔がっ……今度一緒にっ」

「それ多分……」

「ソレこいつじゃねーから! 後、悪いがここは2Aのクラス展示のブースだ、例の演劇に関しての楠への用事は演劇部通してくれ」

「加賀?」

「ちょい、裏いくぞ?」

「う、うん?」

「大丈夫、私が変わるから」

「瀬文さんもいきなり加賀がごめんね、助かったよ」

 クラスメートの中澤さんと小谷君が来てくれて、戻って来た加賀に促されるまま、何故か渚も一緒に教室を仕切った裏のブースに来て、漸く一息つく。

「お前要領悪すぎ、一々そんな丁寧に相手しなくて良いから」

「う、だって、見て来てくれたって人にはちゃんと相手しないと演劇部に迷惑かける……」

「あのな、迷惑かかってるのはお前だろ?」

「私は大丈夫だよ、嫌な思いとかでは無いし、ただ、ちょっとびっくりしただけで……」

「ったく、楓の要領半分分けて貰え」

 ……っ!? そうだ! 私でこうなら、ほぼ主演の彼の方が大変なことに

「だから、要領分けて貰えつったろ? あいつはクラスの出し物は全部裏方だとよ、一切表出ねーで品出しと勘定に徹してやがる」

 たしか彼のクラスは縁日で完全シフト制と言ってたから、多分最初からその根回しをしてたのかな?

「楓はね、あの役受けた時点で色々予想も準備もしてたから」

「まぁな、楓は準備期間があったってのはあるかもな、主演とは言えスタントなのにファンとか言い出す奴がいる方が予想外だったし、でも、あいつら岬先輩とお前、ごっちゃにしてねぇ? フツー混ざるか? ありえんと思うんだが」

「ファンについては、加賀君の認識不足だと思う、優穂ちゃんのヒルダはとっても凜々しくて格好良かったもの、けれど、岬先輩とは全然違うってのにって言うのは賛成!、区別つかないなんてファン失格!」

 ……彼らが果たしてファンなのか? はどうでも良くはあるけど

「確かにうちのクラス展示メインなのに、これだけ無関係な人多いと迷惑だよね」

 うちのクラスの展示は「校内風景」というお題での写真のパネル展示、柊高内での何気ない風景を切り取ったスナップを飾り、静かめの音楽を流している、地味ではあるけれどコレはコレで味があるとポツポツ人は来るんだけど、今はざわついて居て……はっきり言って私が邪魔だ。

「さっきクラス委員に言ってシフト変えて貰った、受付別の奴で埋める代わりに片付けメインだと」

「それは……助かるけど」

「けど? 何かあるのか?」

 さっき渚に受付を任せてすっと消えた加賀、何だろうと思ってたらそんな段取りをしてきてくれたらしい。

「ううん、ありがとう」

 加賀は楓君の要領を見習えと言うけれど、本人だって凄いサクサクぶりだと思う、只あわあわしてた自分を顧みれば、少し凹んでしまうくらいには。

「ねぇ? 私、違うクラスだけどもうちょっとここに居ても良い?」

「別に構わねーけど? でも、楠片付けまでフリーだし、折角なら一緒にその辺回ってきたらどうだ?」

「ん~、それも魅力的だし、お話終わったらそうするかも? でも、ちょっとここ出る前に私の話を聞いて欲しいの」

 ふわりと微笑む渚は、何だかちょっと前より大人っぽく見えた……。


「だから……ね? 優穂ちゃんはそんなに受け入れちゃダメ、相手がもっと近づけると思ってしまったら、もっとどんどん来ちゃうから、困っちゃうのは優穂ちゃんなんだよ?」

 渚のお話というのは「自称ファンの取り扱い方」らしい。

 憧れてるとか、友達になりたい、とか近づいてくる人は好意の言葉であっても、必ずしも受け入れないといけない物ではないし、距離感は必要って一生懸命に伝えてくれる言葉は、普段そんなに人に注目される事の無い私にとって新鮮な視点だった。

「あの後、色々反省したの……あの時、私が何も判ってなかったから、優穂ちゃんとどんどん距離が開いちゃったでしょう? もう、あんな事は嫌だし……言ったでしょ? 私も優穂ちゃんを守りたいって?」

 やっぱり、渚は前より変わった、って思う。

 背が伸びた訳でも無く、変わらず華奢な体つき、天真爛漫な笑顔……けれど、鈴を転がすような甘い声音はそのままなのに、いつの間にか舌っ足らずさは無くなり、私を見つめる瞳は今までよりも強くはっきりしていて

「渚……」

 何だろう? あの時みたいに私を守る、なんて言ってくれるのが、凄く嬉しいって思うのに、心の何処かがざわざわする。


 今回のボディガードだって、気がつけば周りで段取りが組まれていて、加賀はこの前の詫びだ、なんて言ってくれたけど、自分だってあの時は大変だった筈なのに。

 ……靴に蝋が塗られたあの日、はっきり感じた……私は彼らに凄く甘やかされているんだ、って。

 私は一人で立てているって、今まで勘違いをしていたかもしれない? 

 渚とのすれ違いの時、加賀と距離が出来た時、そして演劇部の手助けを決めた時……どれも、私は大丈夫って思ってたけど、本当にそうだったのかな? 何というか……私は、判ってない?

 私の周りに居る人の想いと、それにどれほど守られて居たのか。

 自覚し切れていない自分、取りこぼしていたかもしれない想い……今まで無意識に見ないようにしていた胸の奥、そこには私の知らない私がいる様な気がして……。


……久々の渚ちゃんがお話ししたかったようです。

さくさく加賀君に少し変わった渚ちゃん。

そして優穂は何を思うのか………。

続きは次週月曜日です。


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