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柊高校物語  作者: 萌葱
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なんでこんな事に

この劇中劇も結構好きです

 柊高校の演劇部は女子しか居なくて、宝塚のような構造になっているって言うのは入学前に渚ちゃんから聞いていた。

 良家の子女が集まる名門だけあって衣装や舞台装置も揃ったそこは素人集団ながら見応えもあって、なかなか面白かった、とは去年の文化祭の後の渚ちゃんの感想。

 でも、彼女は肝心なことを僕に言ってなかった。

 それは、部員そのものは女子で構成されているが、男子のキャストは客演って形でちょいちょい一般生徒からスカウトされるって事。

 ……知ってれば、あんな易々と部室まで足を運ばなかったものを。

 そして僕は、男子視点の意見を聞きたいなんて言葉で、ついうかうかと渡された脚本に目を通し、そのままの流れで依頼された僕の役が、主役ヒルダの年下の同僚で彼女を密かに恋い慕う役と聞き、ちょっと興味持ってしまった。


 幼い頃から男として育てられたヒルダは突然女に戻れと言われ、最初は愚痴を零すくらいでなんとか自分を保っていた。

 しかし、ある切っ掛けで心密かに終わらせた初恋の相手が、近々結婚すると聞いてしまってから、歯車は狂いだした。

「駄目です、昨夜は寝られていないのでしょう? そのような体で訓練など!」

「書類は僕が確認します、そこのソファに座って居て下さい、体を休めるだけでも、せめて」

「何を考えているのですか……こんなにびしょ濡れで! 着替えて、体を温めて、タオルはそこにあります、が! やめて下さいっ……僕が部屋を出るまでボタンを外さないでっ!」

 ……何というか、脚本を読んだ時ジェラルドには『判るよ……』と肩を叩きたくなるような親近感を感じてしまったんだ。

 近しい同僚と心を許してくれていても男としては見られていない、けれど、女に戻れと言われて苦しんでいる彼女に、今更自分の気持ちを伝えることも出来なくて、この苦悩が見せ場のひとつでもあって。

 身近な年下の同僚ジェラルドが押さえ続けた想いをそこここで垣間見せる脚本を読んだ時、ふと思ったんだ、先輩がこの役をしている僕を見たら、ちょっとはただの後輩から抜け出せるかも? って

 

 僕が演劇部に協力して暫くして、僕とのシーンで岬先輩は小石に躓いてかなり酷い捻挫をしてしまった、そして演劇部としては動きの激しいシーンのみ代役を立てることに決め、よりによってその代役が優穂先輩だった。

 ただの事故とも人の悪意とも、あの時点では明確には出来無かったが、僕としては反対一択。

 ……先輩がトラブルに巻き込まれるかもしれないって言うのが勿論1番の理由だけど、他にも色々あって。

 だって、僕はただ一回、先輩の前であのシーンをやって見たかっただけなのに、何が悲しくて毎日好きな人の前で違う女性に恋する役なんてしているんだろう? そしたら目新しさも何も無く、単なる劇中のワンシーンになってしまうよね?

 高身長の運動神経の良い女性ってだけなら、優穂先輩で無くてもバスケ部やバレー部の誰かでも良かったんじゃ無いか? って実際の所今だって思ってる。


「はいタオル、使って」

「ありがとう、でも、自分のがあるから良いよ」

「お茶、受け取って下さい」

「ありがとう、幾らかな?」

「そんな……差し入れなんです」

「ごめんね? だったら受け取れない」

 他にも……、あの日先輩達に匿って貰ってから多少は大人しくなったこの子達が、演劇部の協力をする代わりに見学の許可を得て毎日居るってこと。

 元々演劇部の客演は自分で言うのもなんだけど、人気の高い男子生徒を呼ぶことが多いと後に聞き、つまり、こういうことは侭有るらしくて、気がついた時にはもうほぼ毎日彼女たちはここに居た。

 ……僕の態度を見て、いつもの事と許可してしまった、なんて部長は謝ってくれたけれど、そもそもそんな取り決めに、僕がどうこう言えるものでも無くて、だけどこんなやり取りを毎日先輩の前でやってるのはとってもストレスなのは確か。

 

「僕の気持ちなど気がつかなくても良い、ずっとただの同僚のままでも、誰よりも近くに居られれば……って、それだけが、僕の望みでした……でも、こんな風に傷ついていく貴方をただ見てることしか出来ない、なんて……僕は、どうしたら」

 濡れた服を着替えるヒルダを残し、慌てたように部屋を出て、そのドアを閉めるなりそこに背を預け苦しげに呟く独白。

 ちらりと舞台の横に目をやれば、うっとりと僕を見る視線と睨むように岬先輩を見つめる視線があるのが判る……だけど僕は

「お疲れ、はいタオル」 

 舞台から降りた先輩がにこにこと僕のタオルを渡し、その瞳にはそのどちらも無いってことが、いちばん、キツくて

 本当に何でこんな事になっちゃったのかな? って思うと深いため息が漏れた。


続きはまた次の月曜日になります

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