加賀 裕一郎
「あのよ? 楠さん、学校で妙なことになってないか?」
教室で予習をしようと少し早めに塾に来ると、背後から塾で唯一同じ高校の加賀君に話しかけられた
「あ~、耳に入っちゃった?」
とうとう噂もそこまで来たか、ってため息が出る
「ちょっと前から時々変な噂は聞いてた、だけど最近目にあまるっつーか……」
「説明したほうが良いよね?」
「ほっといてやりたい気もするが、噂の内容考えるとお前の意見を聞いておきたい」
「だよねー、ひそひそ流されるくらいなら本人確認してくれるのはありがたい、ただ、塾の人には正直私の事情知られたくないから、帰り駐輪所のところでいいかな?」
「構わないが、あんな噂聞いたって、俺はお前をそんな奴とは思ってねぇぞ? ただ、知っちまった以上当人の意見は聞いて置きたいだけだ」
きっぱりと私を見て加賀君は言ってくれた。
私の後ろの席の加賀君は、制服から同じ高校とは知ってたし、はっきり言って塾必要? って位頭が良くて、時々詰まったときに教えて貰ったりとか話す事は有ったけど、まさかこんなことを言ってくれるなんて。
「……っ、下らねぇ」
塾の後、約束通り駐輪場で待っていてくれた彼は、私の身に起こった話をすると、話し終わった途端、いつもは余裕ありげに笑ってることも多い瞳にキツい怒りの感情を浮かばせた。
そうやって真剣な顔をすると、大柄な体にすっと切れ長の瞳の加賀くんは、なまじ造形そのものは整ってるだけになかなか迫力があって、高校生離れして見える。
「まぁ、私がいわゆる女の子との接し方を知らなくて渚を傷つけたのは確かだし、仕方ないかなぁ? と」
「仕方ないって何だ? お前悪くねーだろ? 大体、お前と瀬文の問題になんでそう他人が入ってくる?」
「それは、私もそう思うけど、渚を放っておけない人の気持ちはわかるし」
「それ、人良すぎ」
呆れたように言われて、うーんと思う
「人が良いわけじゃない、ただどっちも大切なんだ、だから、潰し合いはしたくないし、……多分渚の周りの子は彼女の近くに私が居るのが気に入らなかったんだと思うし、男子は……あれは、やっぱ守りたくなるんじゃない? 渚って」
「その幼なじみを使いたくねーなら、俺が時々お前のクラス顔出そうか? 抑止力くらいにはなると思うが」
「それは、絶対やめて、というか、学校では私に関わらない方が良い!」
助けてくれよういう気持ちはありがたいけど、受け取れない。
何でだよ? と不満気に私を見るけれど、撤回はできない。
「加賀君も加奈子も同じだよ? 受けて立つ人が増えればその分傷も増える、それだけは嫌なの……表に立つのは私だけで良い」
それでもなかなか頷かなくて
「私さ、現国苦手でしょ?」
「はぁ? ……何だ? いきなり」
「だから、大丈夫」
「苦手なのは知ってる、でも、大丈夫ってのと結びつかねーんだけど?」
「何かね、昔からよく感情の機微に疎いとか、情緒が無いって言われるんだけどね? だから現国のテストには弱いけど、その分悪意には強いよ? 私」
「……無茶な理屈だな」
「そう? でも本当に大丈夫」
現国とリアルは違くね? と加賀君は言うけれど、私は本当に今のクラスで起こっていることは、不快ではあるけれど我慢できないことでは無いんだ。
ただひとつ、あの時の悲しげな渚の瞳がまだ心に刺さったままで、トゲのように抜けないこと以外は。
「分かった……でも、無理はするなよ?」
「ありがとう、私を信じてくれて嬉しかった」
「それこそ、見損なうなって、怒るぞ?」
鋭い瞳を少し緩めて困ったようにそう言ってくれて、私は高校になってから知り合った人が、初めて味方になってくれた事に気がついた。
後数話ほど状況説明&登場人物紹介的雰囲気がどうしてもあります。
その分落ち着く迄は少し密な投稿を目指したいと思います。