面白くなってきた
毎回タイトルに悩みます……。
ただ、数字にすると作者でさえ何番がどの箇所だか判らなくなるという……。
なかなかぴったりとはいかず、語彙力鍛えたいと思います。
「良いねヒルダ! そこでジェラルドと剣先を会わせて……ok!」
男装の主人公がヒルダ、つまり私と岬先輩の役で相手役はジェラルド、ヒルダの所属する警備団の同僚。
ヒルダの一族の長であるヒルダの祖母が一族の中にひとりも直系の男子が居ないのを嘆き、一族の集まるクリスマスの日、孫たちの中で飛び抜けて活発だった彼女を彼女の跡継ぎへと指名する代わりに、男児として暮らせとの命令を下した。
丁度ヒルダの妹を身籠もってた母とその隣に立つ病弱な父親は、その決定に驚きつつも、一族を離れては生きていけないという事実に折れ、葛藤を持ちつつそれを受け入れた。
そんなヒルダにとっての2度目の転機は、それから十数年後のクリスマス、親族の集まる場で再度起こった。
病がちになり気弱になった祖母はヒルダに女に戻り、その幸せを掴んで欲しいなどと言い出したという。
余りに身勝手な言い分。
けれど、その祖母からも男として暮らせと言われた以外は、大事にされたのは事実で、その庇護の元、彼女もその妹達も何不自由なくすくすくと育った恩はあり、また、ずっと一族の長に逆らえず折れてしまった事と娘の女性としての幸せを願う心との間で葛藤を抱いていた両親は、ここぞとばかりに熱心に勧めてくるため、情を捨てきれないヒルダは逃げ場をなくしていく……。
「今更……と言うのも疲れる、今朝など起きたら制服が隠されてドレスが置いてあったんだぞ? あんなもの着方さえ判らん」
椅子に座り書類仕事をこなしながら、カツカツと苛立たしげに指先でテーブルを叩くヒルダ
「ああ、だから急に内勤に、しかし制服は困りますね……無くしたと知れれば始末書ものかもしれません」
「騒ぎになり、クビともなればこれ幸いと、どこかに嫁げだの言い出しかねない……替えも含めて全部やられた、作るにしたって時間は掛かるし、第一ずっとこんな仕事ばかりになったら気が狂う!」
「丁度新調したてで袖も通してない僕の制服がありますので、至急貴方のサイズに直させましょう、新しい制服が出来るまでの繋ぎ位はなるでしょう……今日の所は、裏庭で軽くどうですか? 気晴らし付き合いますよ」
警備団で仲の良い同僚、コンビを組むことも多いジェラルドの誘いにヒルダは目を輝かせ……そして舞台は暗転、ヒルダは岬先輩から私に交代し、ジェラルドとの剣劇シーンとなる。
カキーン……キンッ…………カンッ!
舞台で流れる音に合わせてジェラルドと剣をあわせる、暫し舞台上に流れるのは剣をふるう私たちの息つかいと、剣のぶつかる効果音のみ……そして時間にして3分ほどで
「降参です」
ジェラルドの急所にヒルダの剣先が軽く当たったところでお茶のセットを持った召使いが現れ、今度はそこが休憩のシーンになる。
私は汗を拭きに行く程で一度下がり、岬先輩と交代。
「お疲れ」
加奈子が私にタオルを差し出してくる
「ありがと、部長の演出凄いね、確かにこれなら岬先輩は歩く以上の動きはしないで存分に演技ができる」
「最初に背の高い運動神経のいい女の子知らないか? って言われたときは適任だと思ったけど……でも、大丈夫?」
「ん? 殺陣は問題ないよ、面白くなってきた」
「そっちじゃ無いよ、なんか不自然なことは? 怪我とかしそうになったりしてない?」
「あぁ! うん、平気」
実は演技を見せられてすぐ、決定する前にって部長が話してくれたことがある。
それは、岬先輩の怪我はたまたまの事故では無くて、誰かが仕掛けた? って可能性があるって事、再発防止に出来ることはしているし、本当に誰かが仕組んだかも判らないんだけど、言っておかないとフェアじゃ無いからって教えてくれた部長は、誠意はあると思うのだけど、加奈子は聞いた瞬間私を引っ張って帰りかけた。
「しかし、楓君にこんな才能があったとはね……」
舞台上ではヒルダとジェラルドのお茶の場面、ヒルダの正面に座り、優雅にカップを持ちながら流れるように出てくるセリフに感心する
適任とは思う、岬先輩のヒルダも男装ながら、思わず視線が引きつけられる華やかさも併せ持ち、後半の悩みに沈むシーンは私でさえ女性としての色香を感じるほどだ。
その先輩の相手役をするのだから、華の無い人物では成り立たない。
結果、男装した先輩よりも少し高めの身長に、舞台映えする整った顔立ち、舞台に響く甘く優しい声を持つ楓君が今回文化祭の間のみ客演、となったようだ。
十代の頃からずっと一緒に居るヒルダを、いつの頃からか女性として愛してしまった彼は、だけど誰よりも近くに居るから誰よりも判ってしまっている、ヒルダは自分にそんな風に見られることを望んでいない、と。
何故なら彼だけは、ヒルダがひとりで胸の奥でこっそり殺した初恋を、知っていたから……。
後半になるにつれ自暴自棄になるヒルダが疲れ切って眠ってしまい、うわ言のように呼ぶ初恋の人の名前、それを耳にしたジェラルドは、とっさにうつむきその表情を隠すも、想いを殺しきれず、そっと愛しげにその髪のほつれを解き、その毛先に触れるだけの口付けを落とす……。
ここは物語の象徴的なシーンのひとつで、あくまで客演の楓くんでも、ジェラルドの切なさを最大限に表現出来るよう計算されたメインシーン。
だけど、演劇部の見学に来ている女子のそれを見る表情は様々で……やっぱ、この辺が原因の可能性も有るかなぁ? って思う。
「加奈子、メモってる?」
「なことしなくても、覚えてるよ、まぁ、瀬文君目当てのファンの2~3割ってとこかな? 彼の演技力がヤバすぎて見てられないって風情なのは……んっとにねぇ、見なきゃ良いって思うけど、コントロールできないのが恋って奴かねぇ?」
「さー?」
優穂演劇編、お楽しみいただけたら嬉しいのですが。
続きは来週月曜日となります、よろしくお願いいたします。




