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柊高校物語  作者: 萌葱
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その涙が……

 その涙が、僕のためであれば……。

 そう、思ってしまった。


 加賀先輩の事情は何となく想像がついたし、僕らみたいな人種にはままある厄介事、とも、言えると思う。

 ただ、だからって加賀先輩の事情を僕が話せるわけもなく、段々元気がなくなって、だけど心配掛けまいとけなげに振る舞う優穂先輩の側に、だた居ることしか出来なくて。

 先輩と二人きりなのに、そこに居ないことでより存在を主張する加賀先輩のあまりのらしさに本当に困った人だと、思ってた。


 案の定、時間がたてばさらっと戻ってきて、だけどそこで流された優穂先輩の涙に、僕の中にあった僕でさえ知らなかった気持ちを引きずり出された。

 その涙が綺麗だと思ったのなら、憧れ。

 その涙が流れたことに(いきどお)るのならば、友情。

 その涙が(おのれ)のためであればと思ってしまったのならば、きっとそれは、欲望。

 僕は先輩に、恋をしている。


 あれだけ懐いていて何を今更と人によっては言うかもしれない、けれど、僕にとって優穂先輩はずっとただ、トクベツだった。

 渚ちゃんちで出会った時から夢中になった、すらりとした体つきでショートカットの一見クールな先輩。

 僕を渚ちゃんとそっくりと言うけれどおもちゃにしないばかりか、しっかり僕は僕としてみてくれて、運動神経も抜群で縄跳びしている姿は凄く格好良くて、ゲーマーな僕も舌を巻く程、ゲームも大好きで詳しくて、でも、渚ちゃんに時々苦手な読解の問題ををクイズのように出されて、本当に困った顔をした後とんでもない答えを出して凹んでいる姿はクールどこ行った? って……。

 そして……大切な人には凄く優しくて、弱い。

 渚ちゃんの時も思ったけれど、加賀先輩とのことで改めて思った、先輩は相手を大事にしすぎて時々、自分を苦しめてしまう。

 こんなに誰かに夢中になるって、初めてで、でも、同じくらい先輩を大好きな渚ちゃんが居たから、僕は安心してたんだ、この気持ちは恋じゃ無いって。


 そりゃ、風邪を引いた先輩を加賀先輩が送ってった時は悔しかったけど、でも、大好きな友達に自分よりもっと近しい人が居たら、ちょっと悔しいなって思ってしまう、そんな事は渚ちゃんの周りでも有ったことだから……って、僕はずっと敢えて自分の心の奥を見ないようにしてたんだ。


 本当は、きっと一目惚れに近かった。

 そして……もう今は、自分を誤魔化すことも出来ない。

 ホッとしたように涙が止まらない先輩を見て、良かったねって思うのに、なだめるようにその髪に触れる加賀先輩の手を、振り払ってしまいたいと思う……僕にはそんな権利は無いって言うのに。

 

 だから気付きたくなかったんだ。

 今までも加賀先輩の立場は羨ましかったけど、僕にとっては数少ない信頼できる先輩でも有って、だからこんな風にふたりを見ててうまく笑えないってことが、なんだか凄く寂しくもあって。


「無理すんな? 本当悪かった……楠とはまた全然違う意味で、お前には心労掛けた」

「え?」 

 優穂先輩が自転車の方に行くと、いつの間にか先輩が僕の隣に立って珍しく揶揄うでも無い真面目な顔で僕を見下ろしていた、こうしてまじまじ見ると、結構整ってるんだよな、なんて事を思ってしまうと。

「怒って良いぞ? お前は、誰だって自分の大事な奴泣かせたら、そいつぶん殴りてぇって思うだろ?」

 この先輩ときたら……。

「本当に殴って良いんですか?」

「ああ、腹でも顔でも良いぜ?」

「しません、余計優穂先輩泣かせるだけじゃ無いですか」

「楠帰った後とか?」

「……殴られたいんですか?」

「いや? ただ、本気でお前には悪いことしたなって思ってるだけだ」

「僕、先輩のことは尊敬はしてますが、戻ってこなかったとしても先輩ほど嘆き悲しんだりましませんよ?」

「だから、ちげぇよ、惚れた女のあんな顔、見たくなかったんじゃねーのかな? ってな」

「……っ!」

「今回の俺のやった事は明らかにフェアじゃねぇ、色々全部読み違えて必要以上に傷つけた、アイツもオマエも……だから、殴ってチャラにしてくれるって言うんなら、俺は構わない……あぁ、殴ってもチャラに出来ねえ……てのでも、仕方ねえけど」

 いつも自信ありげな先輩が、そんな風に言って少し寂しげな顔をした。

「……もう、こんな形で先輩を傷つけないって、約束してくれますか?」

「あぁ、次こんな事があっても、こんな真似はしない」

「なら、良いです……約束破ったら、次は僕つけ込みますから、優穂先輩の隣に加賀先輩の戻る場所なんて、無くします」

「クッ……流石かわいくねー後輩だ、肝に銘じとく」

「えぇ、忘れないで下さいね? でも、今は戻ってきてくれて、良かったです」

 加賀先輩は僕の言葉に嬉しげに笑って、ああ、又よろしくなって言ってくれた。


 なんでだろう? 僕も加賀先輩も優穂先輩のことは誰にも譲れないほど大好きで、今はっきりライバルだって明らかになったところなのに、それでも僕はやっぱり加賀先輩も大切で、先輩も僕を気遣ってくれた。

 恋心を自覚してしまえば、きっと仲の良い先輩ふたりを見るのは辛いこともあると思う、僕が加賀先輩に勝てるかも判らないし、そもそも優穂先輩が全く違う人を好きになってしまうかもしれない。

 それでも、今は加賀先輩が優穂先輩の隣に戻ってきたことを素直に良かったって、思ってしまったんだ。

 

ここまでお付き合いくださりありがとうございます。

続きは来週月曜日となります、新展開となりますので、宜しくお願いします。

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