加……賀?
本日が祝日だったことを忘れていたためドタバタでした。
すっかり楓君と二人で帰ることが当たり前になってしまった帰り道、駐輪場に入って自分の自転車に向かうと
「楠」
とても身近で、けれど最近はすっかり聞くことはなくなっていた声が聞こえた
「加……賀?」
いつかのように金網に背を預けながら、こちらを見ている姿に驚く、今日は学校にもいなくて塾も休んでいたはずなのに?
「なんで?」
「やっと、終わったんだ、今まで悪かった」
「何が……あったの?」
我ながらその問う声は固く、でもそれに柔らかく返す加賀の答えは、まさかの先日楓君が示唆してくれたお家の事情、だった。
詳しくは言えねーけどって、厄介な親戚が来日していて、その都合に振り回されてた事と、機嫌を損ねれば周りに迷惑を掛ける可能性が大で下手に動けなかったって……。
「ろくに説明もしねぇまま、距離置いて悪かった。」
「ホントだよ……」
幻じゃない? 本当にココに居る? 確認したくて、思わず手をを伸ばせば、私の手のひらでは回りきれない加賀の手首のしっかりとした皮膚感が、嘘じゃ無いって教えてくれる。
「ごめん、最初は3、4日って聞いてたんだ……嫌な思いさせたよな? 本当に悪かった」
忙しかったのは事実なんだろう、久々に近くで見る顔は少しやつれても見えて……でも
「それでも、これまでの間にちょっとくらい何か言ってくれることだって……っ」
やばい、聞きたいことも言いたいことも一杯あった筈なのに、話している途中で声が震えて、鼻の奥がつんとして……コレって、もしかして? 頬を伝う水の感触にびっくりして思わずしゃがみ込んでしまう、ないナイ無い! ここ数年映画でも本でも泣いた記憶なんて……。
「く……くす、のき?」
そんな私に加賀が慌てるのもわかるけど、一番意味が分からないのは自分で、けれど、ころころと滑り落ちる涙に私は為す術もなくて
「わ……たしっ!……渚の時みたいに、加賀無くしちゃったかと」
でも、加賀は戻ってきてくれた、そう安心したらますます歯止めがきかなくなって、そのまま、心の澱を吐き出すように嗚咽している私に
「悪かった、ごめん」
大きな体を縮めて、のぞき込むように私を見つめると、ゆっくり、温かい大きな手で頭を撫ぜられて、すると何故か子供のように力が抜けて、自分本位かもしれないとは思いつつ、口にしてしまう
「今度からは、話して? 邪魔をするなと言えば何もしない、だから」
その願いに、加賀は一瞬驚いたように目を見開くと
「お前、鼻真っ赤だ」
困ったようにそっとそこに触れ
「悪かった、約束する」
戻ってきたのは誓うような真摯な声と、再び私の髪に触れる手のひら、だった。
それがトドメだったかのように、とうとう壊れてしまった私の涙腺は、またころころと涙をこぼして
「使って下さい」
目の前に差し出された大判のハンカチ、受け取って視線を向けると、楓君が
「手でこすると、後で痛くなりますよ」
なんて言ってくれる。
私も持っていたけれど、この暗い場所でカバンの中から探すのは難しそうで、好意に甘えることにして
「ありがと」
お礼を言って涙を拭いていると
「こんなに、泣かせて……」
いつも朗らかな彼らしからぬ低い声、驚いて顔を上げると、キツイ瞳で楓君が加賀を睨んでいた。
「か……楓君?」
「いや、いい、オマエにも心配かけた、本当悪かった、ごめん」
加賀がそう言うと、楓君は大きく息を付いて体の力を抜くのが判った。
「終わったんですね? 厄介事は」
「ああ」
「なら、戻って下さいて……れな……った、です」
後半独り言のように小さくなった声は私には聞こえなかったけれど、加賀には聞こえたみたいで、優しいけれど、どこかが痛むような不思議な顔をして私を見る。
「ん? なんて言ったの?」
「大したことじゃないです、それより余り遅くなると……」
楓君に心配げに言われて
「ああ、もうそんな時間?」
私は慌てて立ち上がり、自分の自転車へと向かったのだった。
読んで頂きありがとうございます、トラブル編は次週月曜にもう1編続きその後は新エピソードに入ります。
よろしくお願いいたします。




