……おい、何で無いんだ?
基本文章はシンプル&簡潔を信条としているはずなのですが、この物語で特に加賀君の視点はルビ多用になりがちです。
私の中での彼っぽさ、なんだと思うのですが、苦手な方いらっしゃいましたらごめんなさい。
また、この手のシーンになりますと、長めになります、先日ほどではありませんがお時間ある時にお付き合いいただけましたら嬉しいです
正直俺はガキの頃から人間関係でも勉強でもあんま苦労はした記憶が無い。
今までの人生それなりにモテてきて、VDのチョコレートとか告白とか、普通にそんなやり取りも経験して来てたから……知らなかったんだ。
あの日みたいな胸が焦げるような感覚が恋なら、今が初めてになるっ……て。
嘘だろ? って思った、今までデートなんぞもして来たし、そんなもんひとりじゃ出来ねーから、それなりに相手も居た訳で、そりゃ告ってきたのは全部あっちからだったし、いつもそんな長続きはしなかったけれど、誠意は尽くしたし、大事にはしてきた。
でも、今までの女達がどんな振る舞いをしても、例えば目の前で他の男のキスを受け入れるシーンを見せられた時さえ、あんな胸の痛みを感じたことは、無かった。
後に妬かせれば主導権を取れると思ったとかでの演技だと知った時は、告白を軽々しく受けるべきでは無かったと反省はしたものの、別れを決めたのは秒だったし、世の中で騒がれる恋とか愛とかって、こんなモンかって……醒めてた。
判ってなかったんだ、なんで俺がアイツを放って置けなくて、らしくもねぇ世話焼きみたいなコトしてたのかって、好きな奴は甘やかしてぇ、なんて、そんな普通なことさえ。
そのくせあいつの楓への甘やかしを、可愛い弟分だよなって、余裕ぶっときながら、無自覚な侭、凄ぇ妬いてた。
だから結局、あんなシーン見ただけで問い詰めずに居られ無かったって訳、だ。
気付いてしまえば、もっと甘やかしてぇし、それが許される立場に居たいって思う……だが。
感受性残念娘だったか、この上なく失礼だが、流石親友と納得もする言葉。
物語上での感情のベクトルも読めない奴が、友達面して側に居る奴の裏のキモチなんぞ気付く訳もねぇ。
かと言って、我ながらそんな綺麗なモンばっかでもねぇこんな気持ち、その気がねーって判りきってる奴にぶつければ、傷つけるし、悩ませる。
俺からの甘やかしは受け取る理由は無いって言いきる楠に……理由はある、なんて言い出すことさえ、出来なくて。
「……納得できない」
「は?」
日本文学の大スターである某大作家の代表作を俎上にあげて、こいつはまた何を言い出すのか……
「だってさ、このふたりは何でたったひとり同じ人だけしか好きになれなかったんだろう? 女の人なんて男の人と同じ数だけ居るんだから、思いつめるくらいなら違う人探せばよかったのに……」
不思議そうに人の感情と言うものをまるで無視してそんなことを言いだすのに頭が痛くなる。
いや、感覚としては判る、ちょっと前の俺もそんな感じではあった。 ただ、物語でそれを言い出したら、どんな恋愛物も成り立たない、位のことは判ってたわけで。
「お前なぁ……、それが出来たら世の中の揉め事の7割位はなくなるんじゃねーのか? その辺のごちゃつきから、文学や芸術が生まれるって事だと思うが?」
「まぁね、ゲームでも明らかに足手まといなのに姫連れて行ったりするし、時代物でも色っぽい花魁にフラフラすると、窮地に陥らされたりするとか、お約束なのは判るけど……でも、そんな感情がなければ、世の中すっきりなのにって思わない?」
よりによってそんな事を、口にしている本人にそんな感情を抱いている人間の前で言うから、俺はどんどん臆病になる。
楠は年頃ともいうべき俺たちの周囲が愛だ恋だとかしましい中、そういう話題を敬遠しがちで、理解出来ない興味がないと、公言している。
楠も俺を1番近い男の友達とは認識してはいる様子でこれまでの1年間もあってその距離は近い……けれど、だからこそ、違う関係になりたいと思っても、傷つけそうで、怯えられそうで……俺から離れていくんじゃ無いかって、それが怖くて、一歩も動けずに居る。
「……してみれば判るんじゃねぇ? 自分じゃコントロール出来ない感情ってのを知れば、少しは現国の点も上がるかもしれねーぜ」
自分だけがそんな感情に囚われているのが少し悔しくて、そんな軽口を叩くと
「ふむ、成る程? もういい加減読解には苦労しているんだよね、恋か……」
感心したように呟かれて、焦る。
「おい?」
「どうすればいいのかな? 取り敢えず学校の人間は駄目だよね? あの時噂広まりまくってて悪印象取っ払うのがそもそも大変だ、じゃぁ、こことか?」
教室内を見回して、橋本君、並木くん、金沢君1人ずつ名前を上げてはなにか考えている様子に苛立ちが募る。
その視線はやがてまっすぐ俺を見て
「加賀は無いでしょ」
そう言ってそれた視線。
一瞬の躊躇もなく切り捨てられるのに、我慢できなくて
「……おい、何で無いんだ?」
すると、視線を俺に戻して
「え? だって友達と恋人は違うでしょ? 加賀は好きだけど、こういう好きじゃないんだよね?」
まっすぐに俺を見る何の熱もない、透明な視線
「……っつ」
まだ、人に対する執着も知らないからこその残酷すぎる視線と言葉に呼吸さえ止まりそうなる
「優穂、ごめん、ちょっとここ判る?」
「ん? どこ」
「ん、ここなんだけど……」
藤木の前の席の吉野が声を掛けてきて、くるりと正面に向き直って外された視線に漸く息が出来た心地がした。
「……完全対象外、だ……な」
自室のベッドにどさり横たわり天井を見上げ知らず漏れた、重いため息。
珍しく早く帰れたらしい母親に、手料理が出来てると言われるのに、悪いと思いつつ夜食においてくれと頼んで自室に逃げ込んだ……なんでもない顔を作るのが、もう限界だったから。
嫌いだと言われた訳じゃない、好きな人が出来たと、言われた訳でも。
そもそも、俺は友情以外のこんな気持ちを、敢えて出さずに側に居るんだから、人の感情に疎いあいつが俺の気持ちに気がつくなんて不可能って、判ってるって、のに。
「あんだけきっぱり……好き、とか言っといて……無い、とか……よ」
想い人からの残酷なほど純粋な好意の言葉が苦しくて、飲み込む事さえできず、俺は、本当の初恋って奴のキツさに不貞寝したベッドに沈み込んだまま、起き上がることさえできずにいた。
いつもお付き合いいただきありがとうございます。
続編は来週予定ですが、少し変換点なのもあり若しかしたら1回休み入れさせていただくかもしれません。
その場合は活動報告にてお知らせさせて頂きます。




