おまじない
やっとここまで来ました……が、ここに色々書いてしまうと今回分のネタバレになってしまうので、後書きに。
次回更新は来週の月曜日を予定しています。
「ん〜」
この所、楠はこんな風に消しゴム見つめて悩んでる事が増えた。
「何やってんだ?」
「え? や、何でもないよ?」
そんな風に返すくせに、また消しゴム見つめて溜息……ほんと、どうした、お前?
「詩織、消しゴム落としたよ」
「ん? これか?」
「だめ! 加賀」
「え?」
足元に転がった消しゴム、拾ってやろうとしたらえらい剣幕で止めてくる楠
「ごめんね、加賀君、ちょっとしたおまじないなの」
「へぇ?」
駐輪場で捕捉説明とやらを受けて言うことには、あいつがやってるおまじないは、消しゴムに相手の名前を書いて、誰にも触られず使い切ると距離が近づくとかそんなんらしく
「そんなキャラだったか? あいつ」
「いや、それがね、詩織図書委員でしょ」
「いや、知らねーけど」
「そうなの、でね、本返さずに転校しちゃったらしいの、その人」
「ほう」
「でさ、おまじない聞いた詩織が試すらしい」
「何を?」
「思い続ければ距離が近づくか」
「何て?」
「本返せって」
………あぁ、やっぱあいつもこいつと仲が良いだけの事はある、立派に類友だ。
聞いたときは、色気の欠片もねえって笑い飛ばしたが、その後ふと気がついた、この所消しゴムを手にとってはため息をついてる楠、お前は?
お前の消しゴムには誰かの名前があるのか?
今よりもっと距離を詰めたい男がいる?
「帰るぞ? 楠」
駐輪場に向かおうとして、大抵は一緒に来る楠が1年の教室の前で足を止めた。
「ごめん、ちょっと楓君と話があるの」
「んだよ? またゲームの交換か?」
「そういう訳じゃないんだけどね……」
「どうせ駐輪所来るんだろ? 向こうで待ってればよくね?」
「楓君時々電車の時あるし、ちょっと今日話せないと……」
妙に真剣な顔で呟く、歯切れ悪い言葉
「時間かかるかもだし、先帰ってていいよ」
挙げ句ばいばい、なんて言われてしまえば、気にはなりつつ残る理由もなくて。
「あれ? あのふたり、この前お前のこと介抱してくれた子たちだよな? なんだ、付き合ってたのか?」
この上なく面倒だけど、たまには顔ださねーとそれはそれでもっと面倒な事になる親族の集まり、俺は理由つけてパスのつもりだったけど、今回は抜けられないなんて苦い顔をして言ってる貴文に、この前の借りを返しとくかと付き合う事にして、久々に来た繁華街。
……だが、らしくもねぇことはするもんじゃない、見たくもねぇ物を見ちまった。
そーゆー時いつも会場になるホテルに行く途中にある、城のようなセレクトショップ、店そのものがそんな外見だから、女同士も多いがデートスポットにもなってる、この町のランドマークのひとつ。
そこに戸惑いながら入店しようとする楠とそれを当たり前みてーな顔してエスコートする楓が居た。
「……帰るか?」
その時俺は相当な顔してたんだろう。
隣に居た貴文に揶揄う言葉もなく気遣われたが、そんな訳にもいかねぇし、大丈夫って答えた。
楓が楠に執着してたのは分かってた、だが、それがどんな想いかは計りかねていたし、何より、楠にその気はないと、俺は安心してたんだ。
女にしては背が高く、真っ黒な髪をそのままショートにした見た目通りに、いつもはわりとクールな顔でしらっとしてる楠。
けど、俺が軽口を叩いたり、楓がゲーム話を持って来れば、ガキのようにクルクルと表情を変えるから、何となくその変化を見たくて構ってきた自覚はある。
現国に限り珍回答をかっ飛ばすのをおもしれーとは思うけど、それなりに凹んでたりするから、見かねて合間に勉強を教えてやれば、菓子の差し入れなんてしてくる律儀な奴。
現国弱いから悪意に強いなんて妙な理屈をこねながら、大事な奴は懐に入れすぎて、脆くなる。
クールぶってる癖に熱くて、強がる癖に脆い、一緒に居る時間が増えるほど、目が離せなくなった。
トクベツ扱いって自覚はあった、が、俺が知る色恋って枠にしちまうのは、薄っぺらく感じて、恋なんじゃないって、多分ずっと見ないようにしていた、胸の奥の本当の想い。
でも、この所ちょっとおかしかった楠、あのおまじない……消しゴムには楓の名前が有った? 楓の隣に居る楠の姿に、悩ましげに消しゴムを見つめてた姿が重なって、胸の奥が妬け焦げるような痛みが走る。
実際の所、他の男とデートしてるの見るだけでこんな気持ちになるほど、とっくに心を持ってかれてたって事を俺は思い知らされたのだった。
いつものおまじないでごめんなさい、ちょっと作者的に思い入れのあるもので、懐かしくてつい使ってしまいます。
恋愛タグと言っても許される? かな? まで、20話かかるというかたつむりっぷりですが、少し進んだ想いを楽しんで頂けたら嬉しいです。




