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柊高校物語  作者: 萌葱
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栗田 加奈子

「さて、キリキリ吐きなさい?」

 公園のベンチに並んで座るなり、にっこり笑顔の加奈子。

 朝いちで教室に飛び込んできた加奈子に、放課後あいてるかと誘われた時点で覚悟はしていたけれど、相変わらずの早耳だ。


 まぁ、隠すことでもないので、このところの一連の出来事を仰せのままに余すところなく吐き出すと

「あ~、だからあんな噂に……」

 そう言って頭を抱えた

「本体には噂ってあんまり聞こえないんだよね? なんて言われてるの?」

 純粋な興味で聞くと

「あんたは何でそう呑気な……」

 呆れつつも答えてくれた内容は

 私が渚を邪険にして泣かせたのに、謝りもしない的な噂がたち、普通ならそんな小競り合いみたいな広める価値すらならないような話が、華奢で可憐な渚に対しての、高身長のショートカット、愛嬌の薄い私との対比もあって、尾ひれ付きで飛び火のように広まった……と言うことだった。


「して、どんな?」

 どれほど華やかな尾ひれ(もの)になっているのかと首をかしげると、暢気にしてるんじゃないよ、と呆れつつも教えてくれた内容は……私が渚を振り払って怪我をさせただの、女の子らしい渚を妬んで置いてけぼりにしただの、渚の周りに居る男子が目当てだった、だの

「皆妄想力豊かだねぇ」

「優穂の現国の回答欄並みにかっ飛んでるね!」

 にっこり返されるのが返って怖い、加奈子の笑顔は怒りを隠す仮面だとよく知っているから。


「瀬文さんモテるからねぇ、そんな噂を聞けば色めきだつ男子も出てきくるだろうね」

「あぁ……お姫様を守る騎士願望みたいなアレか」

 騎士にはほど遠いけど、そういえば名前も知らないのに絡まれたっけ

「私、渚にそんなひどいことしたかなぁ?」

 思わずため息が漏れてしまう。

「ひどい事っていうか、純粋な価値観の相違? 優穂は基本一人行動じゃない? 私とか他の子とも、基本1対1の付き合いだし、でも彼女は常に誰かと居るような、実に女の子の典型みたいな子だし?」

 確かに、短かった彼女との付き合いの中で何度も『一緒に』ってあったなぁと思い出す。

 教室移動なんかは私も行くから断らなかったけど、トイレとかは断っていた

「うーん、私も意識して人と一緒にって事はしたこと無かったから、寂しい思いさせちゃったのかな? ……たださ、トイレって人と行くところ?」

「化粧室って言ったりするでしょ? 髪直したりリップ塗り直しながらおしゃべりしたり結構交流の場なんだよ」

 言われてみればそういう光景はよく見ていたし、渚も化粧室みたいに言ってたな? なんて思う。

 ただあくまで景色のひとつで、自分がそこに混ざるという発想はなかったし、なんて呼んでもトイレはトイレだよなーって私は思ってしまっていた……。

「成る程、確かに色々『違った』んだね」

「そうだね、お互い話して摺り合せってしたら、戻りそうなことでもあるけれど……ただねぇ、瀬文さんの横にいる子たちはかなりヒートアップしてるから、色々吹き込んでそう」

 呟くように言われて、あの時に私を憎々しげに見ていた幹本さんの顔を思い出す

「正直彼女の取り巻きは、タイプの違う優穂に瀬文さんが懐いているのは面白くなかったんだと思うよ……取り繕わずに言うなら邪魔で目障り? だから今回のことは引き離す丁度いい、言い訳になっちゃった?」

「なんか、恋愛沙汰みたい?」

「女の子の友情なんて結構ドロドロしてるもんなんだよ、瀬文さんはそういうのに染まってないあんたの隣が、新鮮で居心地よかったんだろうけど、それはつまり、彼女の周りに居る子みたいに、優穂とはいつも一緒とはいかないとは、知らなかった、ってとこ?」

 ……加奈子の言葉にふと、いつも私の片腕に回されていた柔らかい感覚を思い出してズキリと胸が痛んだ。

 常に一緒ではなかったかもしれないけれど、私は渚と居るのは幸せな時間だったし、今も決して嫌いになったわけじゃない……。


「さて、とりあえずうちのメンバーを中心に話を流していくか!」

「え?」

「何をとぼけた声を出しているの? こんなの完璧冤罪じゃない、事実をそのまま広めるだけであっという間に打ち消せるよ、そーゆーの得意だし」

 妙に張り切っている加奈子は、子供の頃から私を守ってくれたお姉さんモードに切り替わってて焦ってしまう

「いやいや、待って待って? この噂って流しているのは多分渚の友達だよね?」

「ん? まぁ、尾ひれはともかくベースはそうだろうね」

「なら、良いよ打ち消さないで」

 渚は取り巻きも多くて、その中には彼女を崇拝していると言えるような子まで居た、加奈子もタイプは違うけれど友達の多い子で、入学早々からなかなか所属困難と聞く部活? 委員会? みたいなのに名を連ねている。

 そんな2人がぶつかれば取り巻きだけでなく本体にだって影響がないわけがない。

「時が解決するかもしれないし? 私には加奈子が居てくれる、それだけで十分!」

 嘘じゃないよって微笑んでみせれば

「皆心配して、私のところに聞きに来るんだよ? 由紀恵とか倉橋さんとか」

 そう言って、違うクラスに居る、一緒に受験をくぐり抜けた同じ中学校から来た友達の名を聞かされて大丈夫って再度思う。

 今、広まっている噂に踊らされずに、純粋に私を心配してくれる人はちゃんと居る、加奈子側が私のために動けばきっと彼女たちだって巻き込まれる、それくらいならこれ位のことどってこと無いって、心底思った。


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