8.これは……-どうしますかアルファワン-
全45話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
ここの気候は赤道に近い事もあって、昼間は暑い日が多い。もちろんレイドライバーには冷房の類も装備されてはいるが、今回は潜入時間が長い。なのでパイロットスーツにちょっと細工がなされている。
その細工とは体の血管の太いところ、首や脇、脚などにチューブが付いていて、その中を水が循環する事で涼をとり、最小限の電力でまた冷やして循環させるようになっている。その水は最終的には飲料用にもなる、そういった仕組みだ。
これは長期戦が予想されるときは装備される事になっている。
もう一つ、パイロットスーツにも細工が施されている。それは股間の部分だ。いつもの戦闘なら股間部には吸収性のゲルが仕込まれていて一度や二度の尿なら溜めることが出来る。だが今回は長期戦だ、大と小、両方にチューブが挿入されていてコックピットの裏側に行くようになってる。
作戦が言い渡されてから六日間、トリシャは毎日のように固形の便が出ないように下剤を飲ませられては排出し、目的の状態まで持っていくという[処置]を受けていた。
――これはこれで嫌なものね。
女性の隊員が手伝ってくれている事もあり、若干は気恥ずかしさも薄らいでいる。あの孤児院にいた頃の身体検査に比べれば、今更恥ずかしくて抵抗するという気も起きないが、あまり気分のいいものではない。
予定通り午前零時に現場到着、レイドライバーを降ろしてトレーラーは[ご無事で]の言葉を残して帰っていく。予定ではミラール市で他の部隊と一緒に待機、との事だ。
一方、潜入部隊は迷彩服をまとっている。分隊規模というだけあって数は少ない。具体的には八名である。
ここは林の中である。もちろんそういう[隠れやすいところ]を狙ったのだ。
レイドライバーが射撃体勢をとって寝そべる。それに分隊隊員たちがカモフラージュの幕をかぶせていく。ちょうど適したくぼみがあり、トリシャはそこに陣を敷いた。これなら昼間はともかくとしても夜間はこちらから物音を立てない限りまず見つからないだろう。
もちろんホログラムも入れる。そうすれば目視での発見は困難になるからだ。
そんなレイドライバーをかくした分隊の隊員たちは、作業が終わると、
「後方支援をお願いします」
と指向性の無線で一言いったあと、そのまま前進していった。
分隊の隊員たちはそのまま徒歩で林の中を移動していた。隠密行動という事もあり、皆が無言のまま進む。途中、
「休憩」
と隠れやすいところで休憩をとりながら先に進む。
「これは……」
隊長が思わず絶句する。話には聞いていたが、林は基地の周り百メートル手前でなくなっていた。当の基地は、というとフェンスに囲まれていて、所々に見張り場が立てられている。
「どうしますかアルファワン」
そう言うのは副隊長、アルファツーだ。
「現時点では動きようがないな、もうじき夜が明ける。さしあたっては明日の夜を待つ事にする」
今日はここで野営だ。その間もアルファワンとツーの間で話し合いがもたれていた。その結果、とりあえず格納庫と思われる場所の近くまで移動し、そこから探る事になった。
格納庫は今いる場所とは反対側にある、という情報は事前に共有されていた。そこに滑走路がある事も。
今いる場所というのは、前回カズたちが攻め込んだ方向なのだ。ミラール市経由で来るとどうしてもここに帰着する。だが、敵だってそれは同じだろう。現に、今いる場所から見える範囲だけで兵士が四人、見張り場が二つも設営されているのだから。
次の日の夜、分隊は林の中を大きく迂回して格納庫側に回り込んでいた。
――ここまでくれば何か見えるかも。
というアルファワンたちの淡い期待とともに。
途中、何度かトラップのようなものを発見した。具体的には警報機である。それらをひとつずつ回避していくものだから、夜しか行軍できない現在、明かりのない状態での行軍の為、数百メートルしか離れていないその目的地まで一日を使っていた。
そして格納庫側まで来たものの、
「見せてはくれんか……」
それはそうだ、エルミダス基地でもレイドライバーは直ぐに格納される。ここも同じだ、という事なのだろう。
だが、問題はそこではない。
「これからどうしますか?」
のアルファツーの問いに、
「しばらくここで様子見をするぞ」
そう、日中になれば戦闘機が出てくるはず。そう考えたのだ。
部隊はここに陣をとる。
クリスの話ではカズの救出が最優先となり、基地の全容までは掴んでいない、という事だった。それだけカズの存在というものが大きいのだ。なので、直ぐに撤退したものだから、基地の内部までは入っていない。正確に言えばカズは入ってはいるが戦闘しながら、である。
撤退した将校たちは、基地の爆破までは考えていなかった。それは良くも悪くもレイドライバーという兵器の存在が大きい。レイドライバーが派遣されれば、ほぼその戦闘は[もらったもの]なのだ。そんなだから、カズが負傷したという事実だけで直ぐに撤退、となってしまったのだ。
――もう少し情報があれば。
と考えるのは妥当ではあるが、それは当事者でないから言えるのだろう。制空権も失った状態で、敵は撤退しているとはいえ、もしもエルミダスまで航空機による爆撃を喰らえばどうなるか。それほどエルミダスという土地は同盟連合の足掛かりになる地なのだ。
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