7.次にこのハッチを開けるのは-無事に済んでくれるといいけど、ね-
全45話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
ちょうど六日が経ったその日、トリシャはレイドライバーに搭乗した状態でトレーラーに乗せられる。それまでの期間、夜型の生活が続いた。他の隊員とは別行動である。練習の為に夜間訓練もしてきたのだ。
――次にこのコックピットハッチを開けるのはいつになるのかしら。
元々がスナイパー仕様のトリシャの機体には他の機体にはない装備が施されている。その中でも大きいのが、待機命令の事を考えて食料を多く搭載できることだ。食料、と言っても流動食だが二週間分用意されている。当然、コアユニットとサブプロセッサー用の食料も増設可能となっている。
では水分は? というと、ある程度の水分は搭載していくのだが、基本は[自給自足]である。つまり、尿をろ過して使用するのだ。それはコアユニットにも言える。食料自体が流動食と言う形態をとっているので、実はそんなに搭載していく水分は多くない。
つまり、一度コックピットに[備え付けられた]ら、最長でも二週間は出てこられない事を意味している。
――いよいよね。こんな長期の実戦での経験は初めてだわ。
初めは、コックピットにずっといるのはしんどかった。何しろ同じ態勢のままでいなければならないのだから。だが、流石は教練、徐々に躰のほうがなじんでいって、今では一週間くらいは全然平気になったのだ。
一週間くらい、それはレイドライバーが運用されている環境が大きい。[待つ]機会があまりないのだ。しいて言えば敵地占領前にしばらく偵察、報告ののち本体が戦闘状態に入ったらその支援、そのくらいなのである。なので一週間という時間も、教練の中での話であって、長期戦はこれが初めてなのだ。
――二週間で戻って来られればいいけれど。
実働部隊がどのくらいで情報を入手出来るかにもよるが、カズからは十日で結論が出なければ引き上げ、という指示を受けている。戻りの事も考えて、十日かけてダメなら中止するという意味らしい。
そうこうしているうちにトリシャは車上の人となった。しばらく平たんな道を行くとしばらくしてミラールの街が見えてくる。レイドライバーはすっぽりと布に覆われているので外の様子が分からない。そこで、トレーラーの上部にカメラが取り付けられていてそこから景色を見る事が出来る。
――これは……ひどい。
直接市街地には入らないものの、道路は市街地を中心に考えて作られている。自然と市街地近くまでは行くことになる。
そこでトリシャが目にしたもの。それは夜で分かりずらいになりにもうっすらと見える、黒焦げになった街の姿である。話によると街の住人は比較的無事な場所に集まっているという。しかし、基地が比較的街の中心部に近いところに設営されていた事もあり、街の人口の四割が亡くなったそうだ。残った人たちも多かれ少なかれ外傷があり、まともに動けるのは全体の一割程度、という話だ。
帝国は[同盟連合による攻撃で市街地にまで被害が出た]と言っているが、核汚染が起きている事を同盟連合が表明すると[自分たちは見捨てられた]という事実に気が付くものが増えた。同盟連合から医療を施してもらっているというのもあるのだろうが、今ではミラール市の意思は同盟連合側にある。
「ここの人たちは皆仮設暮らしを?」
トリシャにしては珍しくドライバーに聞く。
「ええ、さっき分かれた道の反対側が今いる人たちが住んでいる場所になります」
「そこに救護も?」
「こんな状態ですからね、医療の知識のない事たちも教えてもらいながら皆でやっているみたいですよ。なんせ無事な人の方が少ないですから」
――そうか、無事な人もいたんだ。
「これからの予定は?」
とトリシャが聞くと、
「このまま走ってアルカテイル市から十キロのところまで行きます。そこで少尉を降ろして、部隊はそのまま基地を目指すと聞いてますが」
まぁ、トリシャも概略は聞いてはいたのだが、緊張していたせいもありそぞらになっていたのだ。
「何もなければ十日経ったらお迎えに上がります。何かあれば、その時は臨機応変にという事で」
――無事に済んでくれるといいけど、ね。
トリシャは少し不安であった。
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