6.私が適任でしょうね-機密を知らずに機密事項にアクセスできるキーだ-
全45話予定です
「という訳なんだけど」
解散してレイドライバーのパイロットに非常呼集をかけて、いつも使用しているハイロットの控室に全員を呼んだ。
「えー、また待機ぃー?」
レイリアだ。だが、
「レイリア、きみは前回からまだ骨折が完治してないだろう? まぁ、一か月経つから普段の生活には支障ないとはいえ、戦闘、それも単体となると」
「私が適任でしょうね」
トリシャだ。
「という訳でクリスも今回は待機だ」
「作戦内容は理解しました。ですが、その……」
何か言いにくそうにしている。その言葉の続きを、
「私が出ていけば済む話でしょ。それに司令部のご指名なんだから。で、作戦決行は一週間後なのは分かったけど、準備は?」
との問いに、
「これから徐々に、かなぁ。何しろ今回は隠密行動だ、移動だって夜間に制限されている。眠るのは昼間、それも交代でだ」
――そういえば、私はいつ眠ればいいの?
多分カズのその発言に対してトリシャの顔が訴えていたのだろう、
「トリシャが眠っている間は[メインコンピューター]が全周警戒をするよ。その間は休んでいていいよ」
「なるほどね。じゃあ睡眠時間は短め?」
「そうなるね。少し苦労かけるけど、よろしく」
とカズが締めるが、
「ねぇ、ねぇ、あたしたちは何かできないの?」
レイリアは食らいついてくる。それを、
「レイリアさん、これは上層部の命令ですよ。それに相手は敵地、こちらが何かできる訳じゃあないんですから」
クリスの言うとおりである。いかに鋭敏な高性能なレーダーを装備しているレイドライバーとはいえその探索範囲は限られている。それこそ、ここから相手の基地までは街一つ隔てて数十キロは離れているのだ。そんな遠くのものを感知できる技術なんて存在しない。
「それはそうなんだけどぉ、何かないの?」
それでも、と食い下がるレイリアに、
「私なら大丈夫よ。それに[待つ]のには慣れてる」
トリシャはスナイパーである。それは引き金を引くのより待つ時間の方が圧倒的に長い。九割九分九厘は[待つ]仕事なのだ。
――本当は待つのは嫌いなんだけど。
「じゃあ、私はしばらく寝かせてもらうわ。レイリア、夕方になったら起こしてくれる?」
その言葉に、
「うん、起こすー」
それくらいしか他のメンバーは今回、やる事がないのだ。
「あ、そうだ」
トリシャが廊下に出たところでカズが呼び止める。偶然なのか、わざとなのか。
「なにかしら?」
そう返すトリシャに、
「もしかしたら想定外の事もあり得るかも知れない。これを」
そう言って渡されたのはメモリーチップだ。この世界ではどこにでも、それこそ全世界中で出回っているメモリーチップである。それには輪っかが付けられていた。
「これは?」
「きみが、レイドライバーの機密を知らずに機密事項にアクセスできるキーだ。刺せば認識してメニューが出る。一応渡しておくよ、無くさないでね、あとで回収するから」
――使いたくはないけど、その可能性もあるって事なのね。
「分かったわ、受け取っておく」
そう言って首から輪っかをさげた。
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