4.トリシャが二人に興味を示したのは-そんな生活が、五年半も続いた-
全45話予定です
そんな、他人に対して消極的ともいえるトリシャが二人に興味を示したのは、なにか通ずるものを感じ取ったのか、はたまたただの興味本位か。実際のところトリシャにとって二人は友達になった、という認識は本人にはなかったのだが、それでも彼女はその二人と[友達のようなもの]になったのだ。
人間は、一人でいるより複数人でいたほうが生活もしやすい。特に身寄りのない状態であればなおさらである。人付き合いの苦手なトリシャもそれは何となく分かっていたようで、教育課程で分からない事があればその二人に教えてもらい、また分からない事を彼女ら、といっても主にレイリアに、であるがそれぞれ教えあっていた。いわゆる[ギブ・アンド・テイク]の関係を築いたのだ。
ふと、トリシャは二人の事を考えた事がある。
――レイリアやクリスはどうしてここに連れてこられたのだろう。
見たところ、これは他の娘たちにも言えるのだが、初めからここにいた、という感じではなさそうだった。
これも多分、であるが、彼女と同時期に連れてこられたのはほぼ間違いないだろう。建物も新しかったのもある。
当時の、いや今でも孤児院と言えば、オンボロな平屋と相場が決まっていたのに、鉄筋の、それこそ[軍用ではないか?]と、今ではそう思えるほど頑丈に出来ていたのだ。実際、ペンキの匂いがまだ取れていなかったのもこの建物が新造されて間もない事を裏付けていると言えるだろう。
だが、余分なことは聞かない、トリシャはそう心に誓ってもいた。ただでさえその日の生活にビクビクしている毎日だ、これ以上の面倒事はまっぴら御免である。
そんな生活が、五年半も続いた。
それまで三人とも何とか脱落者にはならず、ここの異質とも呼べる生活に不本意ながらも心も躰も心底なじんでしまった頃、周りを見れば残っていたのはごくわずかであった。具体的な人数でいえば九人である。当初、連れてこられた時は三十人以上いたであろう子供たちが、五年半余りで九人である。
そんなある日、日課になっていた朝礼の場で、施設の関係者とはまた違う雰囲気の男性が壇に立ち、
「これから、きみたちは軍に入隊してもらう。そして今までの経歴や出生に関する情報は一切消去するものとする。つまり、リストに載らない[ゴースト]になるのだ。今後は名前のみがきみたちが相手に伝える事が出来る唯一の情報であり、過去を聞かれても話してはならない。まぁ、過去を話す機会などないとは思うが。破ればどうなるか、今のきみたちならもう言わなくても分かるであろう?」
ほぼ間違いなく[突然いなくなる]事になるのだろう、そういう意味ではあの二人の過去を聞かなくて正解だった、とトリシャは思ったものだ。
それからニ年半、軍律などのおさらいとレイドライバーのパイロットとしての訓練に日を費やしてレイドライバー隊に配属となる。
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