1.女性とおぼしき人の声-一度、気分転換がしたい-
全44話予定です
レイドライバー1,2,3を読んでいない方は、お手数ですがそちらをお読みになってから今作をお読みください(前作からの続きものになります)
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https://mypage.syosetu.com/2478453/
実は、もう一つの並行世界線という事で、ヒューマンシリーズという作品群を寄稿しています(全て完結済みです)
もしよければこちらも読んで頂けるととても嬉しいです!
ヒューマン 1 -繰り返される事件と繰り返す時間遡行-
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ヒューマン 2 -再び繰り返される事件と再び繰り返す時間遡行-
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【R-18】ヒューマン 3 -時間遡行によってもたらされたものは-(これだけR-18なので作者ページに載っていません)
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次作から少しペースを落とさせてください、曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップ予定です
※特に告知していなければ毎日投稿です
1話が大体1500文字前後ですので読み足りないかもしれませんが、スキマ時間にでも!
「……」
深夜にかすかに聞こえる、女性とおぼしき人の声。
ここはエルミダス基地の隊員室である。一般兵なら共同部屋が充てられ、プライバシーなんてものは皆無に等しいのだが、この部屋は違う。なんといっても個室なのだ。
個室が与えられている隊員、そんな隊員はこの基地でも決して多くはない。もともとこの基地はまだ急造の基地なのだ。その為、例え高級士官であってもカーテン一枚で仕切られた共同部屋、という部署も少なくない。その中で個室を与えられている者。
トリシャは[物思い]にふけっていた。
男女問わずそれ自体珍しい事ではない。実際、公か公でないにせよ部隊内で付き合っているカップルもいれば、街に女を買いに出る輩も少なくない。女性だといってもそれは同じだ。男性に比べてこっそり、ではあるが[かよい]をしている女性も中にはいる。
だが、トリシャは違う。想い人を思って[物思い]にふけっている。
――あんたの裸なんかみて喜ぶのは……私よ。ねぇ私を、私を見て。
その想いはおそらく届かないだろう。誰がどう見てもトリシャが相手に対してそんな風に思っているなんて分からないだろうから。だが、確実にその想い人の存在は彼女の中心にいて、ふとした瞬間に現れるのだ。そう、幻影のように。
――私を、どうか私を見て。
そう繰り返しながら。
それはしばらく続いたが、
「はぁー」
というため息で中断した。
「止めよ、止め止め。こんなの……」
そうは言うもののすっかりと[物思い]にふけってしまっている。それ程に想い人が心にいるという事だ。
そのまま机の上にあるポットにスイッチをやる。しばらくしてそれは沸騰したのであらかじめ用意しておいたティーバッグ入りのティーカップにお湯を注ぐ。ダージリンのいい香りがする。
深夜だとカフェインを摂ると眠れなくなる人がいるが、トリシャは違う。昔からコーヒーやら紅茶やらを良く飲んでいた。そのせいなのか、はたまた耐性があるのか真夜中に飲んでも、それこそ寝ぼけながら飲んでも眠れるのだ。なので彼女にとって紅茶は[眠気覚まし]の意味はなさない。
[一度、気分転換がしたい]
そういう事なのだ。
二分ほど滲出したところでティーバッグを引き上げ一口すする。紅茶なんてどれも同じ、と思っていた頃があるが、今はダージリンを好んで飲んでいる。一番癖がなくて飲みやすいからだ。
ティーカップを持って出窓のところへと向かい、カーテンを開ける。下着姿だというのに気にも留めない。
「どうしたものかしら、ね」
――どうしたものかしら。
トリシャの想いは決して通じる事はないだろう。それは彼女の日頃の彼に対する態度からしても明らかだ。レイリアやクリスとは違い一人で過ごす事の方が多い。それを今更、態度を変えたところで何になるのか。
トリシャの中には[私を見てほしい]という自分と[あんな男どうでもいい]という自分の二人が同居していた。
だから、現に今だって物思いの真っ最中だった自分が急に覚めてしまったのだ。だがそれでも消せない心の染み。
初めてそれに気が付いたのは訓練学校での事である。
その男は、他の隊員の事をとても良く観ていてフォローしてくれる。
ある日、上官にクリスが呼び止められているところを偶然見つけた。トリシャの性格だ[助けよう]という気が無い訳ではなかったのだが、元が事なかれ主義の彼女はしばらくそのまま見守っていた。すると上官がニヤニヤしながらクリスに何か言った。トリシャがいた位置からの角度ではクリスがどんな表情を見せていたのか見えなかったが、あろう事かクリスは服を脱いでしまったのだ。
[何やってるの!?]
そう思ってどうしようか悩んでいたところにその男が現れた。その男は上官たちを叱責するとクリスに話しかけていた。一瞬だけ横顔が見えたそのクリスの表情は、まさに一目惚れのそれに似ていた。
トリシャはそのクリスの、恋に落ちたような顔色が気に入らなかったのだ。
そんな男に、自分は恋心のようなものを抱いていると気が付いたのはそう時間もかからなかった。もちろん、その男は自分に対してもとても良く接してくれる。だが、当時から気の強かったトリシャだ、その事実を素直に受け入れるにはプライドが邪魔をした。
そこからずるずると実戦部隊に投入され、実戦を幾度となく経験して現在に至る。
また一口、紅茶を口にする。
その温かさが、心の中の想い人を連想させる。実はこうやって紅茶を好んで飲むのだって、初めは違ったのだ。
ある日、その男と偶然に、本当に偶然にも二人きりで休憩する事があった。
その時、
「トリシャ、何か飲むか?」
と問われ、
「何でもいいわよ」
と言ったところに、
「じゃあ、紅茶はどうだろう? 茶葉によって色々な味があるし、風味だって千差万別だ。それに一般兵と比べてオレたちはちょっと優遇されている。何なら紅茶くらいなら[取り寄せ]だって出来るよ」
と言われた。その言葉に、
「何が一番いいの?」
と問うと、
「ダージリンなんてどうだろう? 爽やかな苦みとコクがあって、そんなに癖もないから飲みやすいと思うよ。まぁ、敵国の茶葉だからそんなに量は入ってこないけど、手には入れられるよ」
そんな会話をした記憶がある。
それ以降、トリシャはコーヒーを飲むのを止めて、一息つくときはいつも紅茶を選んでいるのだ。
――本当に、どうしたものかしらね、これから。
これからの事を自問自答するが、出ようとする答えは紅茶の湯気のようにすぅっと見えなくなるのである。
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