3-5
学園での私への悪口は、どんどん広まっていく、
正直、異常だと思える状態だ。
貴族の頂点に立つ、公爵令嬢を悪く言うのもだし、
それが、本人の耳に入る事もだ。
どう考えてもゲームの力なので、
私自身やましい事がない事もあって、聞き流していた。
しかし、気のいい庭師が、
花をいくつか摘んでくれたのを、
その花の色が好きなヒロインを追い詰めるつもりだと、
無茶苦茶な噂が立つと、正直げんなりする。
一緒にお茶をしている令嬢達が、
私を庇ってくれたり、不満を言ったりしているが、
私がヒロインを更に追い詰めている事になっている。
どうやっても、悪い方に転がっていくのだ。
今日も、ヒロインと攻略された男性達が噂している。
「リリアーナ様は領地で、騎士を育てていらっしゃる
そうですわね」
「騎士となると、王家に反旗を翻すつもりなのか」
悪意のこもった言葉に、またかと思いながらも、
気持ちが重くなり、美味しいはずのケーキと紅茶が、
一気に味気ない物になる。
ケーキを3分の1程食べた所で、立ち上がり、
いつも通り、何も言わず聞き流し、
カフェテラスを去ろうとする。
すると、そこに怒りのこもった声が響いた。
「いいかげんにするんだな」
この声はユリウス様?
いつも温和で、優しい笑顔を絶やさないユリウス様が、
珍しく、怒りの表情を浮かべている事に、
周りの空気が一気に凍る。
「エルバート家は、私の信頼をおく臣下だ、
その臣下を陥れようとするなら、
私が相手になるが、どうだ」
王子と言うだけでなく、ユリウス様には
確かに周りを支配する力があった。
「噂もここまでくると不愉快だ」
その場が凍りつくかのような、
冷たく、力強い言葉に、その場が静まり返る。
「リリアーナ嬢、何も気にする必要はない、
私は君を信じている」
いつもの優しいユリウス様の表情と言葉に、
心がぱあっと明るくなる。
「ケーキ、美味しそうだね、
ゆっくり食べていくといいよ」
「はい」
そう言って去っていくユリウス様を見送り、
もう一度腰掛けケーキに手を伸ばす、
すると、味気なかったケーキが、
これ以上美味しく感じ、私って単純ねと思う。
心臓はどきどき音を立て、ユリウス様の姿を思い返し、
顔が赤くなるのを感じていた。
一緒にお茶をしていた令嬢達は、きゃーと声を
上げて、盛り上がっている。
それ以降、悪い噂はなりをひそめ、
流石王子の一言と、その影響力の強さを感じていた。